2010年01月25日

誰がコストを負担するのか-民主党の成長戦略

  臼杵 政治

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総選挙以来、民主党政権に投げかけられてきた経済成長戦略がないという批判への回答として、昨年末に「輝きのある日本へ」という成長戦略が発表された。2020年度までの平均で名目3%、実質2%の経済成長が目標とされている。特に環境・健康・観光の3分野では100兆円の需要を創造し、雇用を生み出すという。特に、医療・介護・健康関連産業を日本の成長牽引産業と位置付け、2020年までに新規市場約45兆円、新規雇用約280万人を生み出す目標を掲げた。
ここで頭に浮かぶのが、その45兆円のコストを誰が負担するのか、という疑問である。高齢者向けを中心として、医療・介護サービス費用の多くは保険料や国庫負担を通じ、政府が賄っている。同じ仕組みが続くなら、2020年に45兆円を賄うためには保険料引き上げや増税が必要になる。しかし、そのことには触れていない。
加えて、医療・介護の分野では賃金が低く、今でも看護師や介護福祉士の成り手が足りない。人を集め、需要を満たすには生産性の上昇が前提になる。しかし、「民間事業者等の新たなサービス主体の参入」を掲げているものの、生産性をどう嵩上げするのか、具体的には触れていない。もしも、混合診療に象徴されるような規制緩和を想定しているのなら、冒頭で「行き過ぎた市場原理主義による第2の道」として批判している、構造改革路線を容認することになる。
医療・介護に限らず、政府が支出を拡大すれば需要は増える。しかし、日本はGDP比の国債残高、一般会計政府支出における国債依存度とも先進国中、最悪の部類に入る。また、事業仕分けや天下りの見直しにより無駄を減らしても、それで必要な財源を賄うことはできない。そもそも社会正義の実現と経済効率は別物なのである。結局、政府が支出を増やすためには、税にせよ保険料にせよ、負担増が必要になろう。
他方、民間から需要を産み出し、民間でそれを満たすためには、良質の財やサービスをより低価格で供給できるような方策、端的には規制改革が求められる。確かに小泉内閣時代の規制改革には、格差拡大や貧困の増大などの弊害が指摘された。しかし、それを恐れるあまり、自動車の時代に馬車の産業を保護するようでは成長は覚束ない。失業や貧困には所得再分配政策やワークシェアリングによって対応すべきである。
「輝きのある日本へ」では、CO2削減関連や、アジア太平洋自由貿易圏の推進などに関連して、規制改革に触れているものの、概して既存のアイディアを総花的に盛り込んだ内容であるのは否めない。産業・ビジネス分野ごとに、(1)政府支出を伴う施策、(2)規制改革・緩和の効果、のどちらに重点を置き、財政赤字の抑制や平等な社会の維持という制約とのバランスをどう取るのか、その答えはまだ見えていない。

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