- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- ジェロントロジー(高齢社会総合研究) >
- 高齢者世帯の家計・資産 >
- 終身年金パズルについて
■目次
1――終身年金(アニュイティ)は嫌われている
2――嫌われている理由
3――非合理性(バイアス)による説明
4――まとめ
■introduction
老後の年金には、大きく二種類がある。確定年金と終身年金である。確定年金では10年、20年というように年金が支給される期間が決まっており、受給者がその期間内に死亡した場合には残った資産が相続される。他方、終身年金では受給者が生きている間だけ年金が支給される。しかし、死亡した後、相続人には一銭も渡らない。年金の支給開始年齢が65歳だとしよう。支給期間20年の確定年金なら、85歳になるまでは一定額の年金が支給され、また85歳になるまでに死亡するといくらかの資産が相続人の所へ行く。他方、終身年金であれば65歳で亡くなってもあるいは105歳まで長生きしても同じ額の年金が毎年支給される。その代わり、相続人には一銭も残らない。
では、確定年金と終身年金のどちらが有利なのだろうか。標準的な経済学においてはいくつかの仮定を置けば、終身年金の方が有利だとされてきた。その一つは遺産を考えないことである。すなわち、本人が生きている間に受け取って消費できる年金額だけに注目する。払い込んだ年金原資と本人が受け取る年金額の間のリターン(利回り)を計算すると、終身年金の方が確定年金よりもリターンが高くなる。確定年金は満期までに元利を取り崩していく貯蓄商品であり、そのリターンは債券など貯蓄商品の利回りと同じであり、しかも、満期よりも早く死んだ場合には本人は年金を受け取ることができない。ところが、終身年金の平均利回りはそれよりも高くなる。なぜなら、終身年金は早く死んだ人が払い込んだ年金原資(保険料)を生きている人の間で分け合う仕組みになっているからである。
簡単な例で確認しよう。いま65歳で1000万円の資産を持っている3人の男性、仮に加藤さん、高橋さん、山田さんがいたとする。3人は自分の財産をもとに死ぬまでに必要な消費を賄いたいと考えている。家族の援助や公的年金や生活保護など公的なサポートには頼らない。これが二つ目の仮定である。
ただし、加藤さんたち3人のような65歳の男性には誰でも、A.65歳になった直後に死ぬ、B.ちょうど85歳で死ぬ、C.105歳まで長生きして死ぬ、という3つの可能性があり、A.B.C.それぞれの確率が全て1/3であり、3人の内1人ずつが、A.B.C.のどれか1つに該当する。つまり、3人の平均余命(死亡までの期間の期待値)は20年である。なお、ここでは金利はゼロとする。
この時、3人が終身年金に加入しないと、運良く(運悪く?)105歳まで長生きした場合にも、消費(生活)する資金が底をつかないようにするには、1000万円を40年かけて取り崩さなくてはならず、1年あたりの消費可能額、あるいは確定年金の額は25万円(=1000万円÷40年)になる。ところが、3人ともが終身年金に加入すると、仮に105歳まで長生きしても年金額は2倍の50万円になる。というのも、運悪く(運良く?)A.のシナリオにあたった人の年金原資1000万円を、B.C.のシナリオにあたった人への年金支給に充当できるからである。3人分の年金原資3000万円を余命ゼロ、20年、40年の3人で分けることになるので、年金額が50万円になる(3000万円÷(0年+20年+40年)=50万円)。
もちろん、現実はこのように単純ではない。とはいえ、早く亡くなった人が残した資産を長生きした人の間で分配するという終身年金の特徴は変わらない。それによって、より少ない資産(原資)で老後の消費のための準備をすることができる。もしも、終身年金に加入せずに、加入した場合と同じ額を消費しようとすると、長生きした場合に資産が底を着く。そこで100歳を超えて長生きしても資産が残るようにするには、毎年の消費可能額(取崩額=確定年金の支給額)を終身年金の額よりもずっと小さくしなくてはならない。その意味で、終身年金は確定年金や自分で資産を取り崩す場合に比べて、リターンが高いのである。死亡した人が払い込んだ保険料を分配することで終身年金の額が確定年金などの貯蓄商品よりも年金額が大きくなる部分を死亡率プレミアムという。
このように終身年金は一定の数以上の加入者があり、大数の法則によりその平均的な余命がかなりの程度確実にわかる場合、平均余命までの老後の準備をしておけばどんなに長生きしても一生涯同じ額が給付される保険商品となっている。
(2011年01月24日「ジェロントロジーレポート」)
このレポートの関連カテゴリ
臼杵 政治
研究・専門分野
臼杵 政治のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2011/03/02 | 米国の金融規制改革法の影響~資産運用への示唆 | 臼杵 政治 | ニッセイ景況アンケート |
2011/02/25 | 終身年金パズルについて | 臼杵 政治 | 基礎研マンスリー |
2011/02/01 | 年金基金は長期投資家か(2) | 臼杵 政治 | ニッセイ年金ストラテジー |
2011/01/24 | 終身年金パズルについて | 臼杵 政治 | ジェロントロジーレポート |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年11月06日
情報伝達・取引推奨による内部者取引-東証職員によるインサイダー取引疑惑 -
2024年11月06日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その9)-カッシーニの卵形線・レムニスケート等- -
2024年11月06日
EUのAI規則(4/4-最終回)-イノベーション支援、ガバナンス、市販後モニタリング等 -
2024年11月06日
自動移換問題―継続をデフォルトに -
2024年11月06日
異常気象、政治イベントと気候変動リスクの影響
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【終身年金パズルについて】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
終身年金パズルについてのレポート Topへ