2023年09月04日

米雇用統計(23年8月)-失業率は3ヵ月ぶりに上昇、賃金上昇圧力は緩和

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を上回った一方、失業率は上昇、市場予想を上回る

9月1日、米国労働統計局(BLS)は8月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+18.7万人の増加1(前月改定値:+15.7万人)と+18.7万人から下方修正された前月、市場予想の+17.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.8%(前月:3.5%、市場予想:3.5%)と前月から+0.3%ポイント上昇し、横這いを見込んだ市場予想を上回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.8%(前月:62.6%、市場予想:62.6%)と前月、市場予想を上回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:労働供給の回復を通じて労働需給は緩和、賃金上昇の伸びは鈍化

8月の非農業部門雇用者数は市場予想を上回ったものの、後述するように過去2ヵ月分が合計で▲11.0万人の大幅な下方修正となった結果、23年6-8月期の月間平均増加ペースは+15.0万人増と23年3-5月期の同+23.8万人増から大幅に低下するなど、雇用増加ペースは明確に鈍化している。

一方、失業率は3ヵ月ぶりに上昇に転じたが、労働参加率の上昇にみられるように、職探しを再開して労働市場に再参入する人が大幅に増加した結果であり、労働供給の回復を反映している。このため、8月は労働供給の回復に伴い労働需給が緩和したことが示唆される。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.2%(前月:+0.4%、市場予想:+0.3%)と前月、市場予想を下回った。とくに前月比の伸びは22年2月以来の水準に留まった。また、前年同月比は+4.3%(前月:+4.4%、市場予想:+4.3%)とこちらも前月を下回った一方、市場予想に一致した(図表1)。この結果、8月は時間当たり賃金が前月比、前年同月比ともに前月から低下し賃金上昇圧力が緩和していることを示した。

このようにみると、8月の雇用統計は非農業部門雇用者数の増加ペースの明確な鈍化に加え、労働供給の回復、賃金上昇率の低下など、労働需給の緩和に伴う賃金上昇の伸び鈍化を確認する内容となっており、米国経済のソフトランディングを目指すFRBにとって良好な結果と言えよう。

3.事業所調査の詳細:大手運送会社の破綻で運輸・倉庫の雇用が減少

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+14.3万人(前月:+14.1万人)とほぼ前月並みの伸びを維持した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、専門・ビジネスサービスが前月比+1.9万人(前月:▲2.0万人)と前月からプラスに転じたほか、ハリウッド俳優労組によるストの影響で雇用者数が▲1.7万人減少したにも関わらず娯楽・宿泊業が+4.0万人(前月:+3.2万人)と前月から伸びが加速した。一方、医療・社会扶助サービスが+9.7万人(前月:+10.0万人)、小売業が+0.6万人(前月:+1.3万人)と前月から伸びが鈍化したほか、運輸・倉庫が▲3.4万人(前月:▲1.0万人)と前月からマイナス幅が拡大した。運輸・倉庫のマイナス幅拡大は大手運送会社のイエローが破綻した影響とみられている。

財生産部門は前月比+3.6万人(前月:+1.4万人)と前月から伸びが加速した。建設業が+2.2万人(前月:+1.6万人)と前月から伸びが加速したほか、製造業が+1.6万人(前月:▲0.4万人)とプラスに転じたことが大きい。

政府部門は前月比+0.8万人(前月:+0.2万人)と小幅ながら前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+1.0万人(前月:+0.6万人)と小幅ながら前月から伸びが加速したほか、州・地方政府が▲0.2万人(前月:▲0.4万人)とマイナス幅が縮小した。
前月(7月)と前々月(6月)の雇用増加数(改定値)は前月が+15.7万人(改定前:+18.7万人)と▲3.0万人下方修正されたほか、前々月が+10.5万人(改定前:+18.5万人)と▲8.0万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲11.0万人の大幅な下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って8月30日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+17.7万人(前月改定値:+37.1万人、市場予想:+19.5万人)と+32.4万人から上方修正された前月を大幅に下回ったほか、市場予想も下回った。この結果、水準は大きくは相違しないものの、前月から伸びが鈍化したADP社の統計と前月から伸びが加速した雇用統計と不整合な動きとなった。
 
8月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が33.82ドル(前月:33.74ドル)となり、前月から+8セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.3時間)とこちらは前月から+0.1時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,163.41ドル(前月:1,157.28ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は5ヵ月ぶりに上昇

家計調査のうち、8月の労働力人口は前月対比で+73.6万人(前月:+15.2万人)と前月から大幅に伸びが加速した。内訳を見ると、就業者数が+22.2万人(前月:+26.8万人)と前月から小幅に伸びが鈍化した一方、失業者数が+51.4万人(前月:▲11.6万人)と前月から大幅な増加に転じ労働力人口を押し上げた。非労働力人口は▲52.5万人(前月:+4.9万人)と5ヵ月ぶりに大幅な減少に転じた。これらの結果、労働参加率は62.8%と5ヵ月ぶりに上昇したほか、20年2月以来の水準に回復した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は8月が83.5%(前月:83.4%)と前月から+0.1%ポイント上昇し、02年5月以来の水準となった。男女の内訳は、男性が89.3%(前月:89.4%)と前月から▲0.1%ポイント低下した一方、女性が77.6%(前月:77.5%)と+0.1%ポイント上昇して全体を押し上げた。

失業率は8月が3.8%と3ヵ月ぶりに上昇し、22年2月以来の水準となったものの、過去の水準と比較して依然として最低水準に近く、引き続き労働需給が逼迫していることを示している(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
8月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は129.6万人(前月:116.4万人)と前月から+13.2万人の大幅な増加となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは20.3%(前月:19.9%)と前月から+0.4%ポイント増加した(図表7)。平均失業期間は20.4週(前月:20.6週)と前月から▲0.2週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(150.5万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(422.1万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、8月が7.1%(前月:6.7%)と前月から+0.4%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.3%ポイント(前月:+3.2%ポイント)と前月から+0.1%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年09月04日「経済・金融フラッシュ」)

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