2023年05月08日

米雇用統計(23年4月)-雇用者数は前月から伸びが加速、市場予想を大幅に上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を上回ったほか、失業率は市場予想を下回る

5月5日、米国労働統計局(BLS)は4月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+25.3万人の増加1(前月改定値:+16.5万人)と+23.6万人から大幅に下方修正された前月を上回ったほか、市場予想の+18.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.4%(前月:3.5%、市場予想:3.6%)と上昇を見込んだ市場予想に反して、前月から▲0.1%ポイント低下した(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.6%(前月:62.6%、市場予想:62.6%)と前月、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用や賃金の伸びが加速し、労働市場が堅調を維持していることを確認

4月の非農業部門雇用者数は市場予想を+6.8万人上回ったものの、後述するように過去2ヵ月分が合計▲14.9万人大幅に下方修正されたことを考慮すれば、実際は市場予想を▲8.1万人下回ったとみられる。それでも過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+22.2万人増と失業率を維持するのに必要と考えられている+10万人増を大幅に上回る堅調な雇用増加ペースが持続している。

一方、失業率は23年1月に次いで3.4%と1969年以来およそ54年ぶりの水準に低下しており、FRBによる大幅な金融引締めや3月上旬以降の金融不安の拡大にも関わらず、労働需給が依然として非常に逼迫していることを示した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.5%(前月:+0.3%、市場予想:+0.3%)と前月、市場予想を上回った。前年同月比では+4.4%(前月改定値:+4.3%、市場予想:+4.2%)とこちらも+4.2%から上方修正された前月、市場予想を上回った(図表1)。このため、4月は前月比、前年同月比ともに賃金の伸びが加速したことを示す結果となった。

このようにみると、4月の雇用統計は雇用者数や賃金の伸びが前月から加速したほか、失業率が引続き労働需給の逼迫を示しており、FRBによる大幅な金融引締めや金融不安の広がりに伴う信用収縮にも関わらず、労働市場が堅調を維持していることを確認する結果と言えよう。このため、FRBは引き続きインフレ抑制のために金融引締めによって労働需要を低下させる必要があり、雇用統計の結果からは金融市場が織り込むような早期の利下げ転換の可能性は低いだろう。

3.事業所調査の詳細:広範な業種で雇用の伸びが加速

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+19.7万人(前月:+14.0万人)と前月から雇用の伸びは加速した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、情報が前月比+0.1万人(前月:+0.6万人)と雇用の増加が続いているものの、低水準に留まった。一方、娯楽・宿泊業が+3.1万人(前月:+4.0万人)と前月から鈍化したものの、堅調な伸びを維持したほか、専門・ビジネスサービスが+4.3万人(前月:+2.3万人)、医療・社会扶助サービスが+6.4万人(前月:+4.8万人)と前月から伸びが加速した。さらに、小売業が+0.8万人(前月:▲2.0万人)と前月から増加に転じた。

財生産部門は前月比+3.3万人(前月:▲1.7万人)と前月から増加に転じた。建設業が+1.5万人(前月:▲1.1万人)、製造業が+1.1万人(前月:▲0.8万人)と前月から増加に転じた。

政府部門は前月比+2.3万人(前月:+4.2万人)と前月から伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府が+0.3万人(前月:+0.8万人)、州・地方政府が+2.0万人(前月:+3.4万人)といずれも伸びが鈍化した。
前月(3月)と前々月(2月)の雇用増加数(改定値)は前月が+16.5万人(改定前:+23.6万人)と▲7.1万人下方修正されたほか、前々月が+24.8万人(改定前:+32.6万人)と▲7.8万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲14.9万人の大幅な下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って5月3日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+29.6万人(前月改定値:+14.2万人、市場予想:+15.0万人)と+14.5万人から小幅下方修正された前月、市場予想を大幅に上回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用者数の伸びが大幅に加速した雇用統計と整合的な動きとなった。
 
4月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が33.36ドル(前月:33.20ドル)となり、前月から+16セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.4時間)とこちらは前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,147.58ドル(前月:1,142.08ドル)となり、3ヵ月ぶりに増加に転じた(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働需給の逼迫が継続

家計調査のうち、4月の労働力人口は前月対比で▲4.3万人(前月:+48.0万人)と3か月ぶりに減少に転じた。内訳を見ると、就業者数が+13.9万人(前月:+57.7万人)と前月から増加幅が縮小したほか、失業者数が▲18.2万人(前月:▲9.7万人)と前月から減少幅が拡大し、就業者数の増加幅を上回る減少となって全体を押し下げた。非労働力人口は+21.4万人(前月:▲32.0万人)と3ヵ月ぶりに増加した。これらの結果、労働参加率は62.6%と小数第一位では横這いとなったものの、小数第2位では62.56%(前月:62.62%)と前月から低下した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は4月が83.3%(前月:83.1%)とこちらは前月から+0.2%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が89.2%(前月:89.1%)と前月から+0.1%ポイント、女性が77.5%(前月:77.1%)と+0.4%ポイント上昇した。

失業率は前述のように市場の増加予想に反して、およそ54年ぶりの水準に低下するなど、労働需給が引続き非常に逼迫していることを示した。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
4月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は115.6万人(前月:110.4万人)と前月から+5.2万人の増加となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは20.6%(前月:18.9%)と前月から+1.7%ポイント上昇した(図表7)。平均失業期間は20.9週(前月:19.5週)と前月から+1.4週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(148.0万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(390.3万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、4月が6.6%(前月:6.7%)と前月から▲0.1%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.2%ポイント(前月:+3.2%ポイント)と前月から横這いとなった。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年05月08日「経済・金融フラッシュ」)

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