2023年05月08日

米FOMC(23年5月)-予想通り、0.25%利上げ、政策金利の据え置き方針を示唆

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

文字サイズ

1.金融政策の概要:予想通り、0.25%の利上げ、政策金利の据え置き方針を示唆

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が5月2日-5月3日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り0.25%利上げし、政策金利を5.0-5.25%に引き上げた。量的引締め政策の変更はなかった。

今回発表された声明文では景気判断部分は小幅な表現変更に留まったほか、景気見通し部分では家計や企業の信用状況の引締まりに関する表現が一部修正された。一方、フォワードガイダンス部分では「目標レンジの継続的な引上げが適切」との表現が削除され、「追加的な金融引締めの程度を見極める上で、委員会は金融政策の累積的な引締め、金融政策が経済活動やインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する予定である」との表現が追加されて次会合以降の政策金利の据え置き方針が示唆された。

今回の金融政策方針は前回会合に続いて全会一致での決定となった。

2.金融政策の評価:政策金利を長期に亘って据え置く方針を示唆

政策金利の0.25%の引上げは予想通り。また、金融不安が燻る中、信用収縮に伴う金融引締め効果もあって声明文のフォワードガイダンスで政策金利の据え置き方針が示されることについても予想通りであった。

パウエル議長の記者会見では、インフレ率が物価目標を依然として大幅に上回っている状況について言及し、会合毎に追加の金融引締めが必要か判断する方針を示した一方、現在の政策金利はインフレ率を2%に低下させるのに十分制限的なスタンスにあるか、少なくともそれに近いとの見方を示したほか、声明文のガイダンス変更について意味のある変更としており、6月会合で政策金利を据え置く可能性が高いことを示した。一方、信用収縮が利上げと同様の効果をもち、実体経済に影響する可能性について言及したものの、これらの影響については不透明として歯切れの悪い説明に終始した。また、金融市場が年後半の利下げを織り込んでいることに対して、インフレが高止まりする可能性に言及し、比較的長期に亘り政策金利を据え置く可能性を示唆した。

当研究所は本日のFOMC会合を踏まえて、金融不安の拡大や実体経済への影響は懸念されるものの、当面インフレが物価目標を上回る状況が継続することから、FRBは6月会合で政策金利を据え置き、年内は政策金利を据え置くとの見通しを維持する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを4.75-5.0%に引上げることを決定(今回削除)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを5.0-5.25%に引上げることを決定(今回追加)
  • 加えて、以前発表した計画通り、財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • 委員会は入手される情報を注視し、金融政策への影響を評価する(変更なし)
  • 委員会は、インフレ率を時間の経過とともに2%に戻すのに十分抑制的な金融政策スタンスを実現するために、幾分の追加的な金融引締めが適切になると想定している(今回削除)
  • インフレ率を時間の結果とともに2%に戻すのに適切な追加の金融引締めの程度を見極める上で、委員会は金融政策の累積的な引締め、金融政策が経済活動やインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する予定である(「インフレ率を時間の経過とともに2%に戻すのに適切な追加の金融引締めの程度を見極める上で」”In determining the extent to which additional policy firming maybe appropriate to return inflation to 2 percent over time”を追加 )
  • 委員会はインフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 最近の指標は消費と生産の緩やかな伸びを示している(今回削除)
  • 第1四半期の経済活動は緩やかなペースで拡大した(今回追加)
  • ここ数ヵ月の雇用の伸びは力強く、失業率は低いままだ(雇用に関して前回の「雇用の伸びはここ数ヵ月で加速し、力強いペースで推移」”Job gains have picked up in recent months and are running at a robust pace”から「ここ数ヵ月の雇用の伸びは力強く」”Job gains have been robust in recent months”に表現変更)
  • インフレは高止まりしている(変更なし)
 
(景気見通し)
  • 米国の金融システムは健全で強靭だ(変更なし)
  • 家計や企業の信用状況の引締まりは、経済活動、雇用、インフレを圧迫する可能性が高い(前回の「最近の動向は家計や企業の信用状況を引き締める結果となり」”Recent developments are likely to result in tighter credit conditions for households and businesses”から「家計や企業の信用状況の引締まりは」”Tighter credit conditions for households and businesses”に表現変更
  • これらの影響の程度は依然として不透明である(「依然として」”remains”が追加)
  • 委員会はインフレリスクに引き続き高い注意を払っている(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 銀行セクターの状況は3月上旬以降、幅広く改善しており、米国の銀行システムは健全で強靭である。我々はこのセクターの状況を引き続き注視していく。
    • 先週、バー監督担当副議長によるシリコンバレー銀行に対する監督・規制に関するレビューを公表した。レビューの結果は、より強固で強靭な銀行システムを実現するために、我々の規則や監督慣行に取り組む必要性を強調しており、我々はそうすることを確信している。
    • 労働市場は非常にタイトだ。それでも、労働市場の需要と供給がより良いバランスに戻りつつある兆候はいくつかみられる。しかし、全体として労働需要は依然として利用可能な労働供給を上回っている。
    • インフレ率は、長期的な目標である2%を大きく上回っている。それでも、インフレ率は昨年半ば以降、幾分緩やかになった。
    • 本日の会合で委員会は政策金利を0.25%引上げた。また、保有有価証券の大幅な削減を継続する。我々は金利の影響を受けやすい経済分野で政策の引締め効果を確認している。また、信用状況の厳格化により、景気はさらに逆風にさらされる可能性がある。信用収縮の影響がどの程度か依然として不透明だ。適切な追加の金融引締めの程度を見極める上で、委員会は金融政策の累積的な引締め、金融政策が経済活動やインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する
 
  • 主な質疑応答
    • (今回の会合で政策金利据え置きの可能性はあったか)0.25%の利上げに対する支持は非常に強かった。据え置きは議論されたが、それほど議論はされなかった。一方、様々なチャネルを通じて行われている引締めをすべて合わせると、我々は終わりに近づいているか、あるいは既に到着している可能性がある。
    • (6月会合で政策金利が据え置かれる可能性について)3月会合の声明文にあった「委員会は幾分の追加的な金融引締めが適切になると想定している」との表現を削除した。そのかわりに、今会合では追加の金融引締めの程度を見極める上で、特定の要因を考慮すると述べており、これは意味のある変更だ。今後入手するデータに基づいて会合毎に判断する。
    • (市場が織り込んでいる利下げの可能性について)我々はインフレ率がそれほど早く下がらないという見方をしている。しばらく時間がかかるだろう。もしその予想が概ね正しいのなら、利下げは適切ではないだろう。
    • (債務上限問題でデフォルトが近づいた場合の経済への影響について)債務上限を適時に引上げることが不可欠で、それが出来なければ前代未聞の事態となる。我々は未知の領域に入り、米国経済への影響は非常に不確実で、かなり不利になる可能性がある。
    • (信用収縮に伴う金融引締め効果について)正確な見積もりは不可能だ。銀行が信用基準を引上げると、金融引締めと同様の効果があるが、正確な評価を下す能力について正直かつ謙虚になる必要がある。我々は金融政策について幅広い理解を持っているが、信用収縮は別ものだ。
    • (景気後退の可能性について)FOMCスタッフの経済予想は年後半の景気後退を予想しているが、自分自身の見通しとは異なる。個人的には緩やかな成長が続くと予想している。スタッフの景気後退見通しは失業率の上昇が以前の景気後退より限定的となっており、マイルドな景気後退だ。自分自身は景気景気後退にならない可能性が高いとみている。しかし、景気後退に陥る可能性を否定している訳ではない。
    • (地方銀行の混乱は初期段階か、終盤に差し掛かったと考えているのか)3月上旬に発生した深刻なストレスの中心は当初から3つの大手銀行だった。これらは現在、すべて解決され、すべての預金者が保護されている。ファースト・リパブリックの破綻処理と売却は深刻なストレスに終止符を打つための重要な一歩となる。一方、中小規模の銀行が与信基準を厳格化する必要性を感ており、その経済的な影響がどうなるのか注目している。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年05月08日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【米FOMC(23年5月)-予想通り、0.25%利上げ、政策金利の据え置き方針を示唆】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

米FOMC(23年5月)-予想通り、0.25%利上げ、政策金利の据え置き方針を示唆のレポート Topへ