2023年05月01日

米個人所得・消費支出(23年3月)-PCE価格のコア指数は高止まり

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:個人所得、個人消費ともに市場予想を上回る

4月28日、米商務省の経済分析局(BEA)は3月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比+0.3%(前月:+0.3%)と前月に一致、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.2%は上回った(図表1)。個人消費支出は前月比横這い(前月改定値:+0.1%)と+0.2%から下方修正された前月を下回った一方、市場予想の▲0.1%は上回った。価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)も横這い(前月改定値:▲0.2%)と▲0.1%から下方修正された前月、市場予想の▲0.1%を上回った(図表5)。貯蓄率1は5.1%(前月:4.8%)と前月から+0.3%ポイント上昇した。

価格指数は、総合指数が前月比+0.1%(前月:+0.3%)と前月を下回った一方、市場予想(+0.1%)に一致した。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.3%(前月:+0.3%)とこちらは前月、市場予想(+0.3%)に一致した(図表6)。前年同月比は総合指数が+4.2%(前月改定値:+5.1%)と+5.0%から上方修正された前月を下回った一方、市場予想(+4.1%)は上回った。コア指数は+4.6%(前月改定値:+4.7%)と+4.6%から上方修正された前月を下回った一方、市場予想(+4.6%)に一致した(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:PCE価格のコア指数が高止まり

(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 個人消費(前月比)は名目ベースで1月に+2.0%と21年3月以来の伸びとなったが、2月から大幅に低下しており、消費のモメンタムが低下していることを示した(図表1)。

また、所得対比では、労働需給の逼迫を背景に賃金・給与の増加が続く中、可処分所得の伸びが消費を上回る状況が続いている。この結果、貯蓄率は3月が5.1%と6ヵ月連続で上昇したほか、22年6月につけた2.7%を底に大幅に上昇しており、足元で消費余力を残す状況となっている。

一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数は、エネルギーや食料品価格の下落を背景に総合指数では前月比が+0.1%の伸びに留まっているほか、前年同月比でも+4.2%とFRBの物価目標(2%)を大幅に上回っているものの、22年6月の+7.0%をピークに低下基調が明確になっている。

しかしながら、物価の基調を示すコア指数は家賃や賃金の高止まりを背景とするサービス価格の上昇に伴い、前月比が+0.3%と前月に続いて高い伸びを維持したほか、前年同月比の前月からの低下幅が僅か+0.1%ポイントに留まるなど、物価上昇圧力が続いていることを確認した。このため、信用収縮による実体経済への影響は不透明なものの、インフレ指標の動向からはFRBが引続きインフレ抑制のための金融引締めを維持する可能性が高いとみられる。

3.所得動向:賃金・給与と利息配当収入が所得を押上げ

3月の個人所得(前月比)は労働需給の逼迫を背景に賃金・給与が+0.3%(前月:+0.3%)と前月並みの底堅い伸びを維持した(図表2)。また、利息配当が+0.5%(前月:+0.1%)となり前月から伸びが加速した。一方、自営業者所得が▲0.1%(前月:▲0.2%)と2ヵ月連続でマイナスとなったほか、移転所得も▲横這い(前月:+0.7%)と小幅ながらマイナスに転じた。移転所得の減少は新型コロナで実施されていた緊急の補助的栄養支援プログラム(SNAP)の終了に伴うものである。

個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、3月の名目が+0.4%(前月:+0.5%)と前月から伸びが鈍化した(図表3)。一方、価格変動の影響を除いた実質ベース(前月比)では+0.3%(前月:+0.2%)とこちらは小幅ながら前月から伸びが加速した。
(図表2)名目個人所得(前月比寄与度)/(図表3)可処分所得(名目、実質)

4.消費動向:サービス消費は堅調も財消費が減少

3月の名目個人消費(前月比)は、財消費が▲0.6%(前月:▲0.2%)と前月からマイナス幅が拡大した一方、サービス消費は+0.4%(前月:+0.2%)と伸びが加速した(図表4)。

財消費は、耐久財が▲0.9%(前月:▲1.5%)と前月からマイナス幅が縮小した一方、非耐久財が▲0.4%(前月:+0.6%)とマイナスに転じた。

耐久財では、自動車・自動車部品が▲1.8%(前月:▲2.5%)、家具・家電が▲0.8%(前月:▲1.6%)、娯楽財・スポーツカーが▲0.2%(前月:▲0.1%)と2ヵ月連続のマイナスとなった。

非耐久財では、衣料・靴が▲1.1%(前月:▲0.7%)と2ヵ月連続でマイナスとなったほか、食料・飲料が▲0.3%(前月:+0.4%)、ガソリン・エネルギーが▲2.3%(前月:+3.1%)と前月からマイナスに転じた。

サービス消費は、輸送サービスが▲1.0%(前月:+1.4%)、金融サービスが▲0.8%(前月:+0.6%)、娯楽サービスが▲0.5%(前月:+0.1%)と前月からマイナスに転じた。一方、外食・宿泊が+0.6%(前月:▲1.5%)とプラスに転じたほか、住宅・公共料金が+1.1%(前月:+0.7%)、医療サービスが+0.8%(前月:+0.6%)と前月から伸びが加速してサービス消費を押し上げた。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)個人消費支出(名目、実質)

5.価格指数:食料品価格(前月比)が28ヵ月ぶりのマイナス

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が▲3.7%(前月:▲0.5%)と2ヵ月連続でマイナスとなったほか、マイナス幅が拡大した(図表6)。また、食料品価格指数も▲0.2%(前月:+0.2%)と20年11月以来、28ヵ月ぶりにマイナスに転じた。

前年同月比は、エネルギー価格指数が▲9.8%(前月:+4.9%)と21年1月以来、26ヵ月ぶりにマイナスに転じた(図表7)。食料品価格指数は+8.1%(前月:+9.7%)とこちらは69ヵ月連続のプラスとなったものの、前月から伸びが鈍化した。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年05月01日「経済・金融フラッシュ」)

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