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2025年05月08日

原油安に拍車をかけるOPECプラス~トランプ関税の行方に影響も

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 春先以降、トランプ関税を受けて原油価格が下落・低迷する中、OPECプラスが積極的な減産縮小を押し進め、原油価格の低迷に拍車をかけた。従来、原油価格が低迷・下落している局面では、サウジが主導する形で減産の維持・拡大を決めることが通例であったが、今回は大きく異なる。OPECプラスが原油価格低迷下で増産を進める狙いを考察すると、可能性が高い説として「減産順守に向けたサウジによるけん制」、「トランプ政権との水面下の取引」、「原油生産シェアの回復」の三つが浮かび上がる。
     
  2. 「減産順守に向けたけん制」がサウジの狙いなのであれば、原油価格の押し下げ効果は限定的かつ短期に留まるはずだ。この場合、減産縮小は減産順守という最終目標のための手段に過ぎないためだ。逆に、サウジが「シェアの回復を目指している」場合には、原油価格の押し下げ効果が大きく、長引くことになりそうだ。生産量の大幅な引き上げが必要になるため、原油需給が大きく緩和し、価格の低迷が長引くことになる。
     
  3. 筆者としては、「減産順守に向けたサウジによるけん制」説が最も有力と見ている。サウジは従来、原油価格下支えを重視し、率先して最も多くの減産を引き受けてきただけに、合意破りに対して憤りを感じている可能性が高いためだ。また、サウジは脱炭素社会の到来を見据えて産業の多角化を急いでいるが、そのためには膨大な資金を要する。従って、原油価格低迷の長期化は許容できないだろう。
     
  4. OPECプラスによる減産縮小の行方が、現在世界を揺るがしているトランプ関税の行方に影響を及ぼす可能性がある点には留意が必要だ。OPECプラスの減産縮小を背景に原油価格が大きく下がれば、米国内のガソリン価格押し下げに波及し、インフレ懸念の後退を通じて、トランプ政権に関税策において強硬姿勢を続ける余地を与えかねない。

 
OPECプラスの減産縮小(増産)計画(1~3月比)
■目次

1.トピック: 原油安に拍車をかけるOPECプラス
  (原油価格は大幅に下落)
  (原油価格急落の2つの要因)
  (原油価格低迷でも増産を進める理由は?)
  (各説の影響と可能性)
  (トランプ関税の行方に影響も)
2.日銀金融政策(4月)
  (日銀)現状維持
  (今後の予想)
3.金融市場(4月)の振り返りと予測表
  (10年国債利回り)
  (ドル円レート)
  (ユーロドルレート)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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