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2025年10月22日

米連邦地裁、Googleへの是正措置を公表~一般検索サービス市場における独占排除

保険研究部 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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5――法律の結論

1|法的枠組み
以下で述べる反競争的行為と支配的地位の因果関係と採用される是正措置の関係を示したのが図2である。
【図2】因果関係と是正措置の関係
(1) 一般原則
シャーマン法2条の救済策は、「反競争的行為から市場を開放し、被告に対して法律違反の成果を否定し、将来的に独占につながる可能性のある慣行を残さないようにする」ことを求めなければならないとする。通常の出発点は「反競争的行為を終了させる」差止命令である。しかしこの救済策は効果的である必要があり、事業分離や解散などの構造的な救済策はシャーマン法2条の救済策としても利用することができる。しかし、構造的な救済策は独占を完全に排除するものであることから、行動と市場支配力の構築または維持の間との重要な因果関係をより明確に示す必要がある。是正命令を出す際には裁判所は慎重にならなければならない。
 
(2) 因果関係
与えられる救済策は被告の反競争的行為と関連市場における支配的地位との因果関係の証拠を超えるものであってはならない。この判断にあたっては2つの閾値を確認することが必要である。それらは1)特定の救済措置を課すために必要な因果関係の強さ(すなわち重大な因果関係があるかどうか(後述))、および2)重大な因果関係があるかどうかの基準が適用される救済措置の種類である。原告・被告双方は、必要な因果関係が推論によってのみ確認される場合においては、Googleの排他的慣行を禁止する命令のみが適切であることに同意している。そして当事者は構造的な救済策は高い因果関係基準を満たさなければならないことにも同意している。その因果関係基準はマイクロソフト判決(United States v Microsoft Corp. 253 F.3d 34)で示された、行為と市場支配力の構築・維持の間に「重要な因果関係をより明確に示すもの(clearer indication of a significant causal connection)」である。

1) 特定の救済措置を課すために必要な因果関係の強さ
被告は反競争的行為の禁止的差止以上の措置をとるのは、「あれなければこれなし(but for)」の因果関係を原告が立証しなければならないと主張する。裁判所はこの立場をとらない。マイクロソフト訴訟では第一審でマイクロソフトの構造的分割を命じた地裁判決を控訴審が差し戻した。差し戻しの際、控訴審はbut for因果関係の立証がされていないことを認識していた。そうすると、もしbut for因果関係がなければ構造的救済を認められないとするなら、直接的に反競争行為の禁止を命ずれば済むことであった。しかし、原告に審理のやり直しを求めたのは、構造的分割についてもbut forの因果関係がなくとも構造的救済が与えられる可能性があることを前提としたためである。

マイクロソフト判決の控訴審でも、but for因果関係ではその立証の問題に原告・裁判所ともに直面することとなると述べている。すなわち、被告の反競争的行為がなければ存在することになる仮想市場を構築することは不可能であるとする。

2) 基準が適用される救済措置の種類
裁判所は「重大な因果関係」はbut for因果関係とは同等のものではないと判断したうえで、「重大な因果関係」により適応される救済策の種類について検討する。マイクロソフト控訴審判決では、「重大な因果関係」がないのであれば、反競争的行為の継続を禁止することのみが救済策となるとする。

より具体的言えば、マイクロソフト裁判(差し戻し後の地方裁判所判決)では違法行為に対する差止命令を一方の端 (最も軽微) に、事業分離のような構造的な救済措置を他方の端 (最も重大) に置きながら、可能性のある救済措置を因果関係の強さに沿ってどこに当てはまるか検討した。本件でも同様の判断を行う。
2|責任裁判での判断
裁判所は反競争的行為の禁止のみに限定されるという被告の主張も、構造的措置を必要とするという原告の主張も採用しない。

責任裁判では、一般検索エンジンの独占配布契約について4つの反競争的効果があると判断した。独占配布契約は(1)市場を閉鎖し、競合者の競争機会を損なった、(2)Googleの規模によって競合者が効率的にクエリにアクセスすることを困難にした、(3)既存の競合者や新規参入者の投資を抑制した、(4)Googleが競争上の制約なしに一般検索テキスト広告の値上げをすることを可能にし、収益分配の支払いを通じて独占的行為を継続することを確実にするための独占的利益を獲得した。

これらの責任裁判での判断は提案された救済策の少なくとも一部を支持する。しかし、構造的な救済策を支持するものではない。
3|Googleの違法行為の成果
反トラスト法の救済は競争法違反の成果を否定するものでなければならない。そして、ここでいう成果は特定される必要がある。成果は以下のようなものである。

(1) 競争の脅威からの解放
独占配布契約はGoogleを競争の脅威から10年以上にわたって解放したという成果が認められる。これはiOSおよびAndroidスマートフォンの検索アクセスポイントを独占する契約によりもたらされたが、特に、Google検索がデフォルトに設定されていること自体がこの成果を強化している。これはデフォルトに慣れている場合、これを変更しようとする可能性が低下する。また、調査によればBingを利用したユーザーの3分の2が製品は予想よりも優れていたと述べており、単に利用経験がないということが選択しないということにつながっている。クエリが価値の源泉である市場において検索エンジンがデフォルトに設定されていることが大きな価値となる。

Googleはウェブクロール(ウェブサイトを巡回すること)、インデックス作成(ウェブページに索引を付すこと)、検索、ランキング(表示の順位の決定)にいたるまで検索プロセスのあらゆる段階でユーザー側データを利用している。これにより質の高い広告の提供が可能になる。これら各段階の相互作用はネットワーク効果と呼ばれる正のフィードバックループを生じさせる。

(2) 規模
Googleの規模は、2020年米国内全体の90%のクエリがGoogle検索に入力されており、かつモバイルデバイスでは95%のシェアを有している。特筆されるのはロングテール(めったに検索されないクエリ)、ローカル(地域を特定したクエリ)、フレッシュ(最新の情報を検索するクエリ)に関して検索シェアが高いことである。Googleは他の検索エンジンより、これらのクエリに適切に対応できる。Googleの競合者はロングテールクエリ、ローカルクエリ、フレッシュクエリが最大の障壁となる。豊富なユーザーデータがなければ、これらのクエリに応答することに苦労する。

(3) 収益
独占配布契約はGoogleの収益の量を増加させた。これには3つの方法がある。1)Googleはより多くの広告を提供する。2)Googleはより効果的な広告を提供する。3)Googleは1)2)によって生み出された収益を製品開発と配信の確保に再投資して、拡大のサイクルを永続する。責任裁判ではさらに第4の方法が認定されている。それは独占力を行使して一般検索テキスト広告の価格を引き上げることである。

Googleがテキスト広告価格引き上げに成功したのは、徐々に価格を引き上げることに成功し、誰からも気づかれなかったためである。
4|生成AIを含むこと
救済策の検討にあたっての最後の問いは生成AIとその提供企業を含むかどうかであるが、いくつかの点でイエスである。

たとえばAIチャットボットは一般検索エンジンと重複する機能とそうでない機能がある。しかし生成AIチャットボットは一般検索エンジンと同等の情報検索機能を実行するという十分な証拠がある。実際にAppleのウェブブラウザであるsafariの検索クエリ量が22年ぶりに減少したのは生成AIチャットボットの出現が原因である可能性が高い。

Googleはこの点、異議を述べるが、Google自身の製品開発の姿勢がこれに反する。Googleは責任裁判以降、一般検索エンジンに「AIによる概要」を組み込み、AIモードとして統合を進めてきた。

したがって本裁判でいう「競合者」には生成AI製品提供者を含むこととする。

6――救済策特定にかかる結論

6――救済策特定にかかる結論

1|反競争的行為の禁止にかかる差止命令
Googleが提案した差止命令案としては、以下のものがある。(1)Google Playのライセンス供与を条件としたGoogle検索またはChromeのプリイントールを求めること、(2)対価の支払いやGoogleのソフトウェアの搭載を条件とした、競合者の一般検索エンジンやブラウザを搭載していないメーカーまたは通信業者と契約を締結すること、(3)一般検索エンジンまたはChromeのアクセスポイントにおいてプリロードした場合に、委託製造業者等に支払いを条件とすることのいずれも禁止することである。他方、この案の下では、委託製造業者等が任意にGoogleの製品・サービスを配布・配置することに対して、Googleが収益分配金を支払うことが許可される。支払の対象となるGoogle製品としてはGoogle検索、Chrome、Google Playだけでなく、GoogleアシスタントやGeminiアプリも含まれる。

これらの提案は市場での競争を回復させる重要な一歩である。これらにより、以前の契約のもとでは利用できなかったGoogle以外の製品をプリロードし、配布する選択肢をメーカー等に与える。すでにこれらの提案はGoogleによって採用され、契約の変更が行われている。しかし、これらの措置だけでは、メーカー等が依然としてGoogleを主要なデフォルト検索エンジンとして選択する可能性が高い。

したがって裁判所はGoogleの提案を3点修正する。それらはi)ブラウザ開発者に対して収益分配金を支払うことができるが、ブラウザ開発者は各アクセスポイントで毎年異なる一般検索エンジンを設定することができるとする。ii)Googleの提案には含まれていない生成AI製品を適用対象に含むものとする。iii)Googleの提案ではGemini Assistant Applicationが定義されているが、この定義は狭すぎるので、ii)の通り生成AIをすべて含むこととする。
2|構造的な救済策
(1) Chromeの売却
原告はGoogleの永続的な独占による反競争的効果を打ち消す目的で、競争の激しいアクセスポイント(Chromeの検索枠)を競合者に開放することを主張している。

先例(マイクロソフト控訴審)ではそれほど深刻ではない救済策が不十分である可能性が高いと判断したのちにのみ、構造的な救済が認められるとしている。しかし、原告はChromeの売却をしなければ、差止命令だけでは不十分であることを示していない。また、前述の「重要な因果関係」テストを満たしていない。責任裁判では独占配布契約が独占力の維持に寄与したという強い推論を支持している。他方、製品が優れているといった合法的行為もGoogleの独占に重要な役割を果たしたとの十分な証拠もある。記録は「重要な因果関係」を支持していないため、構造的な救済措置を採用しないことが合理的である。

また、構造的救済策は原告が求めている行為の範囲を超える。問題となっているのは、GoogleがGoogle検索をChromeのデフォルトに設定していることであり、Chromeの所有そのものではないからである。さらにChromeの売却は自然ではない。Chromeは独立した事業として運営されているわけではない。ChromeはGoogleの事業に大きく依存しており、GoogleとのAPI接続がなければ製品として稼働しない。

(2) Androidの売却
原告は判決を効果的に達成することができ、かつGoogleが判決を迂回・回避するインセンティブが生じないようAndroidを売却するよう命ずることを主張する。裁判所はこの主張を否定するのに多くは語らない。そもそも原告はAndroidシステムが反競争的行為を引き起こすと主張したことがない。またAndroidシステムの売却にとってどのように競争促進されるのかを説明したこともない。結局、原告は前述の「重要な因果関係」を立証できていない。
3|追加の救済策
(1) 収益分配金支払の禁止
収益分配金のもととなる収益はGoogleの反競争的行為の成果である。したがって収益分配金の支払禁止はGoogleが法律違反の成果を得られないようにするための一つの方法である。しかし、この方法によると委託製造業者、通信事業者、ブラウザ開発者に損害を与える重大なリスクが生ずる。たとえば通信事業者は収益分配金を受け取らず、Google検索を使い続けるか、または一部支払いを確保するために他の一般検索エンジン提供者と契約することとなる。前者はGoogleにとって有利であり、Googleに多額の収益をもたらす。後者は通信事業者の収益を減少させる。いずれにせよ通信事業者の立場を現在より弱くすることとなる。また、この結果、イノベーションの減少など消費者利益の減少につながりかねない。裁判所は支払禁止による現状のシステムを動揺させず、市場の力に働かせるという強い理由があると考える。

(2) データ共有の救済策
原告はGoogleの競合者に対してデータを共有するよう求める措置を主張している。裁判所も因果関係の強さに照らして違法行為の成果を排除する合理的な方法であることに同意する。独占配布契約の排他的な性質は競合者が「ユーザーのクエリにアクセスできない」ことを意味していた。Google検索のデフォルト配置により競合者は効果的に競争できない。このことは生成AIの出現にもかかわらず、今日でも変わっていない。データ共有はロングテールクエリに応答できる能力獲得に役立ち、小規模な検索エンジンにとって有益である。

ただ、このような情報共有はイノベーションを阻害するという懸念があり、原告の情報共有に関する主張の一部は修正される。

(3) 検索インデックス
検索インデックスに関して情報共有する原告の提案のうち認められるものは、1)各文書の固有ID(DocID)、2)DocIDからURLへのマップ、3)URLが最初に閲覧された時刻、4)URLが最後にクロールされた時刻、5)スパム(不要または有害なウェブ)評価、6)デバイスの種類(モバイルかどうか)の識別符号である。このデータセットを共有することにより、競合者は競争力のある検索インデックスを構築できるようになる。

逆に検索インデックスに含まれていても、共有を要求されない情報としては、提携を通じて収集された情報がある。これは競合者がGoogle以外から取得が可能である。また、ユーザー側データから派生した信号、属性またメタデータなども共有を要求されない。これらの量がどの程度あるか原告は立証しなかったが、量が膨大であることが認められる。また共有すべき範囲も不明瞭であり、共有は否定される。

共有される検索インデックスデータは、既存パートナーであるYahooとの契約で共有していたものに相当するものとする。この場合、競合者が検索インデックスデータを受け取ったとしても、自身の検索インデックスを構築するためにはかなりのリソースを投資しなければならない。

また、原告は検索インデックスデータの定期的な共有を主張するが、何年にもわたってデータを開示し続けることは「違法行為の悪影響を治癒する」ために必要な範囲を超える。裁判所は一度きりのデータ共有を支持する。これにより認定競合者(Qualified Competitors)5はロングテールクエリに応答できる独自の検索インデックスを構築することができる。

なお、データ共有の対価として、Googleは限界費用分(情報提供することに要したコスト分のみ)を徴収することが認められる。
 
5 後述の通り、Googleの競合者であって技術委員会で推薦される者を原告の国等が指定する。
(4) 知識グラフ(Knowledge Graph)
知識グラフとは、人、場所、物の情報およびそれらを結びつける情報のデータベースであり、検索結果を表示するために必要となる。このデータにはたとえば店舗の開店時間や閉店時間などがある。原告は検索インデックスに加え、Googleの知識グラフを再構築するのに必要な分のデータベースを共有するよう主張している。

しかし、このデータはGoogleの規模の利益により構築されたものではない。言い換えるとGoogleがユーザーから得た莫大なクエリに基づいて構築されたものではない。データは主にベンダーから得ているものであり、共有を求めることは適切な救済策ではない。

(5) ユーザー側データ
ユーザー側データとはユーザーのクエリと返された応答の組み合わせからGoogleが収集するデータである。データ例としてはユーザーがクリックしたウェブリンク、リンクをクリックするまでの時間、クリック先のページから戻るかどうか、またその時間といったものが含まれる。ユーザー側データは検索品質を向上させる重要な情報源である。

これらのうち、一つ目はGlueと呼ばれるクエリの超記録システム(Super query log)であり、クエリとユーザーの反応のデータを収集するシステムである。Glueデータの重要部分はNavboostと呼ばれる暗記システム(memorization system)で構成される。GoogleはNavboostを13か月分のユーザー側データでトレーニングしている。なお、ここで重要な点は救済策がGlueデータから構築されたモデルや信号(シグナル)を開示させるものではなく、基礎となるデータを開示させるものであることだ。

二つ目はRankEmbedと呼ばれるランキングモデルである。RankEmbedはAIベースの深層学習システムで、70日間の検索記録と、人が評価したスコアでGoogleによって検索結果の品質を計測するために利用されるものの二つを主なデータの源としている。ここでもRankEmbedのモデルや信号の共有ではなく、トレーニング、構築または操作にかかるユーザー側データの共有に限定される。

三つ目は検索や生成AIモデルをトレーニングするユーザー側データである。上述の通り、大規模言語モデル(LLM)は生成AIモデルの一種であり、事前トレーニングと事後のトレーニングを行う。事前トレーニングにはクリック&クエリデータは用いない。事後トレーニングには検索データを用いる。

裁判所は、Glueデータの規模は独占配布契約に起因しており、Googleが独占状態を維持することを可能にしていることから、基礎データの共有を求めることが適切な救済策であるとする。また、RankEmbedデータもユーザー側データでトレーニングされ、結果として競合他社に対する品質の優位性に直接貢献している。これも基礎データの共有が適切な救済策となる。

他方、生成AIモデルのトレーニングにユーザー側データを利用しているという証拠はほとんどない。またGeminiアプリが他のチャットボットに明確な優位性を持っていない。したがって生成AIモデルのトレーニングに利用されるとするユーザー側データの共有は否定される。

(6) 広告データ
原告は広告データの共有を主張している。具体的には、クエリに対するGoogleの選択、ランキング、検索テキスト配置に関連するデータを含む。この主張は責任裁判の「規模によって検索広告の収益化も向上する」という判断を基礎としている。しかしこの救済策は立証責任を欠いている。Googleはコンバージョンデータ(ウェブサイトで費やした時間や購入に至ったなどのデータ)をGoogle検索のクリックデータと結合し、広告の価値を判断する。このデータは広告主の同意がなければ外部に提供できず、かつユーザー側データとは距離がある。また、原告は広告データの共有が一般検索テキスト広告市場における競争をどのように増加させるのかを十分に示していない。

また、一般検索テキスト広告市場における競争はそれ自体で成立するものではなく、一般検索市場の競争条件によって左右される。結論として広告データの共有という救済策は事案に適合せず、効果が疑わしく、裁判所は否定する。

(7) シンジケーション救済策(Syndication Remedies)
「シンジケーション」とは特定の一般検索エンジン(ここではGoogle検索)が検索結果ページや内容を別の一般検索エンジンに提供する取り決めを意味する。現状、YahooとGoogleとの間で検索結果シンジケーションにかかる契約が存在する。原告はGoogleの検索結果を認定競合者へシンジケーションを行うことを主張する。

1) 検索結果シンジケーション
原告は一般検索結果のシンジケーションを救済策の一つとして主張する。裁判所はこれを先例で確立された合理的基準を満たすものと考えるが、範囲が広すぎると判断する。一般検索のシンジケーションを救済策とする理由は単純で、認定競合者が独自の検索インデックスと高品質な検索結果を提供する能力の構築に時間がかかるからだ。検索結果シンジケーションを救済策とすることで検索品質をすぐ向上させることができ、差別化できる部分の構築に集中できる。特にロングテールクエリ、ローカルクエリ、フレッシュクエリの応答に役立つ。シンジケーションは以下の条件で行われるものとする。

i) 既存のシンジケーション契約で提供されるローカル、マップ、ビデオ、画像およびナレッジパネル(検索結果上部に表示される検索トピックに関連する簡単な情報)を提供するものとする。

ii) 認定競合者に対価として支払うのは限界費用に限定されず、既存のシンジケーション契約と同等のものとする。

iii) シンジケーション提供の期間は5年とする。シンジケーションは短期的な救済策として位置づけられる。

iv) 認定競合者によるシンジケーション最初の年の利用は年間クエリの40%に限定される。ロングテールクエリなどの稀なクエリは20%を占めるため、若干の余裕を見ると40%という割合は合理的である。なお、2年目以降はこの割合が減少することとするが、具体的には別途設置される技術委員会(後述)によって決定される。

v) Googleの課す技術的な制約は知的財産保護の側面があり、これは認められる。

vi) 合成クエリ(2以上のクエリを組み合わせたもの)の受信と応答を要求されない。原告は検索品質の向上に役立つとの主張を行うが、これは立証されていない。

vii) GoogleはPastSearchの結果をシンジケーションする必要はない。PastSearchとは特定のトピックについて過去の検索結果をもとに迅速に検索結果を表示する仕組みだが、一般検索エンジンの機能改善には役立たないと判断する。

2) 検索テキスト広告市場のシンジケーション
原告は検索結果シンジケーションを補完するために、検索テキスト広告を認定競合者にシンジケーションすべきことも主張している。検索テキスト広告シンジケーション契約は既に存在し、GoogleはAdsense for Searchという製品を提供している。Googleによる一般検索テキスト広告の収益は独占を永続的にした加速器(flywheel、直訳は、はずみ車)の重要な要素である。ただし、原告のシンジケーションは商業的な現実から逸脱しており、いくつか修正を受ける。主には検索テキスト広告シンジケーションの通常の契約と同様のものとされる。

(8) 選択画面 原告はユーザーがさまざまな検索アクセスポイントで一般検索エンジンを選択させ、また各検索アクセスポイントにおける一般検索エンジンのデフォルト設定を選択させるべきことを主張する。理論上にはGoogleのデフォルト設定の効果を弱める可能性がある。

それでも裁判所はこの救済策については否定する。それは、1)裁判所自体が製品の再設計を行うことは適切な任務ではないことが確立した先例である、2)本裁判で問題となったのは、Googleと通信事業者等との配布契約であり、Google検索をデフォルトに設定するというGoogle自体の決定(これ自体は合法)を否定することはできない、3)選択画面の設定は競争状況を変える可能性がない。欧州では選択画面を強制化したが、シェアの動きはほとんどないからである。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月22日「基礎研レポート」)

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保険研究部   研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
     2025年4月 取締役保険研究部研究理事
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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