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- 米国経済の見通し-高関税政策にも関わらず米国経済は足元堅調維持。今後は景気減速へ
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2025年09月09日
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2.実体経済の動向
(労働市場、個人消費)労働市場の減速継続、個人消費も軟調へ
前述のように非農業部門雇用者数の伸びは大幅な鈍化がみられるが、労働需要を示す求人数も25年7月は718万人(前月:736万人)と2ヵ月連続で減少した(図表7)。また、求人数と失業数の比較でも失業者1人に対して求人件数が0.99件(前月:1.05件)と22年3月につけた2.0件のピークから大幅に低下し、21年3月以来となる求人件数が失業件数を下回る状況となっており、労働需要の低下が続いていることを示した。
一方、ここ数年労働供給の主力となっていた移民労働力は減少している。2期目のトランプ政権は発足以来厳格な移民政策を実施しており、南部国境からの不法越境者数は23年12月の25万人から大幅に減少し、25年1月以降は1万人を下回る水準で推移している(図表8)。
前述のように非農業部門雇用者数の伸びは大幅な鈍化がみられるが、労働需要を示す求人数も25年7月は718万人(前月:736万人)と2ヵ月連続で減少した(図表7)。また、求人数と失業数の比較でも失業者1人に対して求人件数が0.99件(前月:1.05件)と22年3月につけた2.0件のピークから大幅に低下し、21年3月以来となる求人件数が失業件数を下回る状況となっており、労働需要の低下が続いていることを示した。
一方、ここ数年労働供給の主力となっていた移民労働力は減少している。2期目のトランプ政権は発足以来厳格な移民政策を実施しており、南部国境からの不法越境者数は23年12月の25万人から大幅に減少し、25年1月以降は1万人を下回る水準で推移している(図表8)。
トランプ政権は強制送還件数の定期的な公表を停止しており、実体は把握し難くなっているものの、25年度(24年10月~25年9月)見込みが40万人超に達するとの報道もあり、前年度の27.1万人を大幅に上回るとみられる3。
不法越境者数の減少や強制送還の増加もあって、外国生まれの労働力人口は25年3月につけた3,372万人のピークから25年8月が3,223万人と▲149万人減少した(前掲図表8)。このため、移民労働力の減少に伴い労働供給は減少が見込まれる、建設業などの一部業種では労働力不足が深刻化しよう。
もっとも、労働供給の低下は景気減速に伴う労働需要の低下を受けた失業率の上昇を抑制する効果があり、今後の失業率の上昇を抑制する効果もあろう。
不法越境者数の減少や強制送還の増加もあって、外国生まれの労働力人口は25年3月につけた3,372万人のピークから25年8月が3,223万人と▲149万人減少した(前掲図表8)。このため、移民労働力の減少に伴い労働供給は減少が見込まれる、建設業などの一部業種では労働力不足が深刻化しよう。
もっとも、労働供給の低下は景気減速に伴う労働需要の低下を受けた失業率の上昇を抑制する効果があり、今後の失業率の上昇を抑制する効果もあろう。

今後も不透明な関税政策が続くほか、関税政策に伴うインフレ加速が見込まれていることから、労働市場の減速と併せて個人消費は軟調となろう。
3 詳しくはWeeklyエコノミスト・レター(2025年8月29日)「米移民政策と労働市場への影響-トランプ政権の厳格な移民政策に伴い、外国生まれの労働力人口は大幅減少。懸念される労働供給への影響」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=83092?site=nli を参照下さい。
(設備投資)関税政策に対する不透明感が重石
実質GDPにおける25年4-6月期の設備投資は前期比年率+5.7%(前期:+10.3%)と前期から低下したものの、堅調な伸びを維持した(前掲図表6)。知的財産投資が+12.8%(前期:6.0%)と前期から伸びが加速したものの、設備機器投資が+7.4%(前期:+23.7%)と大幅に伸びが鈍化したほか、建設投資が前期比年率▲8.9%(前期;▲2.4%)と前期からマイナス幅が拡大したことが大きい。
設備投資の先行指標であるコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比年率)は25年7月が+3.9%(前月:▲1.8%)と6月からプラスに転じており、7-9月期に向けて設備投資も堅調なスタートを切ったと言える(図表10)。
一方、関税政策の影響を受けて悪化していた企業景況感は、非製造業では25年8月の景況感指数が52.0(前月:50.1)と前月から+1.9ポイント改善し、25年2月以来の水準となるなど足元で改善を示した(図表11)。とくに、新規受注は56.0(前月:50.3)と24年10月以来の水準に改善しており、非製造業では足元の関税の影響は限定的に留まっている。
これに対して、製造業も8月の新規受注が51.4(前月:47.1)と7ヵ月ぶりに好不況の境となる50を上回るなど、幾分明るい兆しもみられている。しかしながら、景況感指数は48.7(48.0)と前月からは小幅に回復したものの、25年3月から6ヵ月連続で好不況の境となる50を下回っており、景況感の悪化が続いている。また、回答者は多くの業種で関税のネガティブな影響に言及しており、製造業では高関税政策が重石となっていることを明確に示している。
7月に成立したOBBBAには設備投資や研究・開発費用の即時償却などの税優遇措置が盛り込まれているものの、関税政策に伴う不透明感から設備投資の意思決定は先送りされ易いとみられる。
このため、当面は関税政策をはじめとする不透明な経済政策を背景に設備投資は当面軟調に推移する可能性が高いだろう。
実質GDPにおける25年4-6月期の設備投資は前期比年率+5.7%(前期:+10.3%)と前期から低下したものの、堅調な伸びを維持した(前掲図表6)。知的財産投資が+12.8%(前期:6.0%)と前期から伸びが加速したものの、設備機器投資が+7.4%(前期:+23.7%)と大幅に伸びが鈍化したほか、建設投資が前期比年率▲8.9%(前期;▲2.4%)と前期からマイナス幅が拡大したことが大きい。
設備投資の先行指標であるコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比年率)は25年7月が+3.9%(前月:▲1.8%)と6月からプラスに転じており、7-9月期に向けて設備投資も堅調なスタートを切ったと言える(図表10)。
一方、関税政策の影響を受けて悪化していた企業景況感は、非製造業では25年8月の景況感指数が52.0(前月:50.1)と前月から+1.9ポイント改善し、25年2月以来の水準となるなど足元で改善を示した(図表11)。とくに、新規受注は56.0(前月:50.3)と24年10月以来の水準に改善しており、非製造業では足元の関税の影響は限定的に留まっている。
これに対して、製造業も8月の新規受注が51.4(前月:47.1)と7ヵ月ぶりに好不況の境となる50を上回るなど、幾分明るい兆しもみられている。しかしながら、景況感指数は48.7(48.0)と前月からは小幅に回復したものの、25年3月から6ヵ月連続で好不況の境となる50を下回っており、景況感の悪化が続いている。また、回答者は多くの業種で関税のネガティブな影響に言及しており、製造業では高関税政策が重石となっていることを明確に示している。
7月に成立したOBBBAには設備投資や研究・開発費用の即時償却などの税優遇措置が盛り込まれているものの、関税政策に伴う不透明感から設備投資の意思決定は先送りされ易いとみられる。
このため、当面は関税政策をはじめとする不透明な経済政策を背景に設備投資は当面軟調に推移する可能性が高いだろう。
(住宅投資)当面は住宅ローン金利の高止まりから住宅需要も軟調推移
実質GDPにおける住宅投資は25年4-6月期が前期比年率▲4.7%(前期:▲1.3%)と2期連続でマイナス成長となったほか、前期からマイナス幅が拡大した(前掲図表6)。集合住宅が前期比年率▲4.2%(前期:▲11.0%)と前期からマイナス幅が縮小した一方、戸建が▲12.0%(前期:▲0.3%)と前期からマイナス幅が拡大して住宅投資全体を押し下げた。
住宅着工件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比年率)は25年7月が▲15.5%(前月:▲14.8%)と2桁のマイナスとなったほか、前月からマイナス幅が拡大した(図表12)。また、先行指標である住宅着工許可件数(同)は▲17.8%(前月:▲15.9%)と2ヵ月連続で2桁のマイナスとなっている。このため、住宅投資は7-9月期も3期連続でマイナス成長となる可能性が高まっている。住宅市場が低迷している要因は住宅ローン金利や住宅価格の上昇に伴い住宅取得のハードルが上がっていることがある4。
一方、住宅ローン金利は8月29日の週に6.6%と、23年10月につけた8%近辺の水準を下回っているものの、コロナ禍前の3%台後半を依然として大幅に上回っている(図表13)。また、米抵当銀行協会(MBA)が公表している住宅購入目的の住宅ローン申請件数(90年3月を100とする指数)は8月29日の週が163.8と25年1月につけた127.7からは増加したものの、コロナ禍の住宅ブームで300台と好調だった時期に比べて依然低水準で推移している。
トランプ政権の関税政策に伴う建材価格の上昇や不法移民の強制送還に伴う建設労働者の不足などを受けて住宅価格の高止まりは続くとみられる。また、長期金利が25年末にかけて緩やかに上昇する中で、住宅ローン金利は当面高止まりが予想されることから、住宅市場は当面軟調な状況が続こう。
実質GDPにおける住宅投資は25年4-6月期が前期比年率▲4.7%(前期:▲1.3%)と2期連続でマイナス成長となったほか、前期からマイナス幅が拡大した(前掲図表6)。集合住宅が前期比年率▲4.2%(前期:▲11.0%)と前期からマイナス幅が縮小した一方、戸建が▲12.0%(前期:▲0.3%)と前期からマイナス幅が拡大して住宅投資全体を押し下げた。
住宅着工件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比年率)は25年7月が▲15.5%(前月:▲14.8%)と2桁のマイナスとなったほか、前月からマイナス幅が拡大した(図表12)。また、先行指標である住宅着工許可件数(同)は▲17.8%(前月:▲15.9%)と2ヵ月連続で2桁のマイナスとなっている。このため、住宅投資は7-9月期も3期連続でマイナス成長となる可能性が高まっている。住宅市場が低迷している要因は住宅ローン金利や住宅価格の上昇に伴い住宅取得のハードルが上がっていることがある4。
一方、住宅ローン金利は8月29日の週に6.6%と、23年10月につけた8%近辺の水準を下回っているものの、コロナ禍前の3%台後半を依然として大幅に上回っている(図表13)。また、米抵当銀行協会(MBA)が公表している住宅購入目的の住宅ローン申請件数(90年3月を100とする指数)は8月29日の週が163.8と25年1月につけた127.7からは増加したものの、コロナ禍の住宅ブームで300台と好調だった時期に比べて依然低水準で推移している。
トランプ政権の関税政策に伴う建材価格の上昇や不法移民の強制送還に伴う建設労働者の不足などを受けて住宅価格の高止まりは続くとみられる。また、長期金利が25年末にかけて緩やかに上昇する中で、住宅ローン金利は当面高止まりが予想されることから、住宅市場は当面軟調な状況が続こう。
4 詳しくはWeeklyエコノミスト・レター(2025年8月1日)「低迷が続く米住宅市場
-住宅ローン金利の高止まりから、当面住宅市場の本格回復は見込み難い」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=82859?site=nliを参照下さい。
(政府支出)OBBBAが個人消費、設備投資を一定程度下支え、26年度予算審議に注目
トランプ大統領が2期目の看板政策として掲げた減税や防衛費増、国境経費費用の歳出拡大などを包括的に盛り込んだ財政パッケージである「一つの大きく美しい法」(OBBBA)が7月4日成立した。同法には25年末で失効予定の個人所得減税の恒久化に加え、チップや時間外手当に対する非課税措置、研究開発や設備投資の即時償却などの税優遇などが盛り込まれた。さらに、防衛予算の増額や移民の強制送還関連費用といった歳出拡大も追加されている(図表14)。
これに対して、低所得者向けの医療保険(メディケイド)や食料支援プログラム(SNAP)予算の削減、EVの税額控除の廃止等の歳出削減策も盛り込まれた。
OBBBAによって25年度~34年度合計で利払いを含めた財政赤字は▲4.1兆ドル増加が見込まれている。
トランプ大統領が2期目の看板政策として掲げた減税や防衛費増、国境経費費用の歳出拡大などを包括的に盛り込んだ財政パッケージである「一つの大きく美しい法」(OBBBA)が7月4日成立した。同法には25年末で失効予定の個人所得減税の恒久化に加え、チップや時間外手当に対する非課税措置、研究開発や設備投資の即時償却などの税優遇などが盛り込まれた。さらに、防衛予算の増額や移民の強制送還関連費用といった歳出拡大も追加されている(図表14)。
これに対して、低所得者向けの医療保険(メディケイド)や食料支援プログラム(SNAP)予算の削減、EVの税額控除の廃止等の歳出削減策も盛り込まれた。
OBBBAによって25年度~34年度合計で利払いを含めた財政赤字は▲4.1兆ドル増加が見込まれている。

これに対して、OBBBAに加え8月時点の関税政策が継続した場合の8月ベースライン予測では35年度に120%と1月ベースラインから+2.0%ポイント増加することが見込まれている。
なお、OBBBAが財政赤字を大幅に拡大させるものの、債務残高の上昇が1月と8月のベースケースの比較で小幅に留まる理由は、8月ベースケースでは関税政策による歳入増加を+3.4兆ドル見込んでいることによる。一方、CRFBは8月代替シナリオとして、OBBBAでチップや残業代に対する非課税措置など時限措置となっている政策の恒久化に加え、IEEPAに基づく関税措置が司法判断により撤回されることを盛り込んだシナリオでも試算した。同シナリオでは債務残高は35年度に134%と1月ベースラインや8月ベースラインシナリオからの増加幅が大きくなっている。CRFBは恒久化措置で財政赤字が+1.7兆ドル、関税輸入の減少で+2.4兆ドル増加すると試算した。
OBBBAの成立により25年末で減税措置の失効が回避されたほか、新たに盛り込まれた個人向けや法人向けの税優遇措置が高関税政策に伴う個人消費や設備投資への悪影響を一定程度下支えすることが見込まれる。
一方、26年度(25年10月~26年9月)の裁量的経費に関する予算審議は難航しており、与野党の対立が先鋭化する中、本予算が年度始までに成立する目途は立っていない。このため、共和党は暫定予算の成立を目指しているが、暫定予算の期限を巡っても議会共和党とホワイトハウスで合意できていないようだ。また、暫定予算を成立させるためには上院で議事妨害(フィリーバスター)を回避して可決するために60人の賛成が必要となるため、民主党議員から7名の賛成を得る必要がある。しかしながら、民主党はOBBBAで削減されたメディケイド関連の歳出の復活を要求しており、与野党が合意するハードルは高い。このため、予算審議の時間切れに伴う10月以降の政府閉鎖の可能性が高まっている。
当研究所は主にOBBBAにより、財政政策は26年以降の成長率の押上げ要因と予想している。
(2025年09月09日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
窪谷 浩のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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