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- 米国経済の見通し-高関税政策にも関わらず米国経済は足元堅調維持。今後は景気減速へ
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2025年09月09日
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1.経済概況・見通し
(経済概況)4-6月期の成長率は前期からプラス成長に転換
米国の25年4-6月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+3.3%(前期:▲0.5%)と22年1-3月期以来のマイナス成長となった前期からプラス成長に転換した(図表1、図表6)。
需要項目別では、住宅投資が前期比年率▲4.7%(前期:▲1.3%)、政府支出が▲0.2%(前期:▲0.6%)と2期連続でマイナス成長となった。また、在庫投資の成長率寄与度が▲3.3%ポイント(前期:+2.6%ポイント)と前期から大幅な成長押し下げに転じた。さらに、設備投資が前期比年率+5.7%(前期:+10.3%)と堅調を維持したもの前期から伸びが鈍化した。
これに対して、個人消費が+1.6%(前期:+0.5%)と前期から伸びが加速したほか、外需の成長率寄与度が+5.0%ポイント(前期:▲4.6%ポイント)と成長率を大幅に押し上げた。外需の大幅なプラス寄与は前期にみられたトランプ関税前の駆け込み需要に伴う輸入増加の反動減で輸入が大幅に減少したことが大きい。
GDPから外需、在庫投資、政府支出を除き内需の強さを示す民間国内最終需要は前期比年率+1.9%(前期:+1.9%)と前期並みを維持しており、関税政策の影響は限定的に留まった。
米国の25年4-6月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+3.3%(前期:▲0.5%)と22年1-3月期以来のマイナス成長となった前期からプラス成長に転換した(図表1、図表6)。
需要項目別では、住宅投資が前期比年率▲4.7%(前期:▲1.3%)、政府支出が▲0.2%(前期:▲0.6%)と2期連続でマイナス成長となった。また、在庫投資の成長率寄与度が▲3.3%ポイント(前期:+2.6%ポイント)と前期から大幅な成長押し下げに転じた。さらに、設備投資が前期比年率+5.7%(前期:+10.3%)と堅調を維持したもの前期から伸びが鈍化した。
これに対して、個人消費が+1.6%(前期:+0.5%)と前期から伸びが加速したほか、外需の成長率寄与度が+5.0%ポイント(前期:▲4.6%ポイント)と成長率を大幅に押し上げた。外需の大幅なプラス寄与は前期にみられたトランプ関税前の駆け込み需要に伴う輸入増加の反動減で輸入が大幅に減少したことが大きい。
GDPから外需、在庫投資、政府支出を除き内需の強さを示す民間国内最終需要は前期比年率+1.9%(前期:+1.9%)と前期並みを維持しており、関税政策の影響は限定的に留まった。
一方、トランプ政権の経済政策は関税政策をはじめ不透明な状況が続いているものの、一頃に比べて政策の予見可能性低下には歯止めがかかっている。トランプ大統領が就任初日から大量の大統領令を発出してバイデン政権時代の経済政策を大幅に軌道修正した。また、4月2日発表の相互関税をはじめとする場当たり的な通商政策を実施した結果、米国の経済政策と通商政策の予見可能性を示す不確実性指数は25年4月には1985年の統計開始以来最高水準となっていた(図表3)。しかしながら、その後は、新たな経済政策や関税政策の発表頻度が低下していることもあって、不確実性指数は4月をピークに低下し、足元は25年2月以来の水準となっている。
また、政策の予見可能性低下もあって、4月に大幅に不安定化した金融市場もS&P500指数が足元は史上最高値圏で推移しているほか、米10年金利も7月中旬以降4%台前半での推移となるなど足元は安定している(図表4)。
このため、政策の予見可能性の低下に歯止めがかかっていることや、金融市場の安定も米国経済が堅調を維持する要因とみられる。
また、政策の予見可能性低下もあって、4月に大幅に不安定化した金融市場もS&P500指数が足元は史上最高値圏で推移しているほか、米10年金利も7月中旬以降4%台前半での推移となるなど足元は安定している(図表4)。
このため、政策の予見可能性の低下に歯止めがかかっていることや、金融市場の安定も米国経済が堅調を維持する要因とみられる。
そのような中、7月の雇用統計で非農業部門雇用者数が前月比+7.3万人と市場予想の+10.4万人を下回ったほか、過去2ヵ月分が合計▲25.8万人の大幅な下方修正されたことで衝撃が走った。とくに、2ヵ月合計の下方修正幅はコロナ禍の20年5月以来の水準であり、このような大幅な下方修正は過去には金融危機やパンデミックなど景気の転換点を示したことから、労働市場の減速懸念が広がった。

FRBのパウエル議長は7月の雇用統計発表前に行われた7月FOMC会合後の記者会見で労働市場が完全雇用か完全雇用に近いとの評価を示していたものの、8月下旬のジャクソンホール会議での講演では7月の雇用統計の結果を受けて、雇用リスクが下方へ傾いていることを指摘した上で、政策スタンスの調整を必要とする可能性があるして9月会合での利下げの可能性を示唆していた。8月の雇用統計を受けて9月会合での利下げがほぼ確実になったと言えよう。
(経済見通し)成長率(前年比)は25年、26年ともに+1.7%を予想
経済政策や通商政策は一頃に比べて予見可能性低下には歯止めがかかっている。しかしながら、トランプ大統領は依然として場当たり的な関税政策運営を続けているほか、国際緊急権限法(IEEPA)に基づく関税政策に対して連邦控訴裁判所から違憲判決が示されるなど、関税政策は流動的な状況が続いている。このため、米国経済は引き続きトランプ政権の経済政策によって左右される状況が続いており、トランプ政権の経済政策の予見可能性が低いため、米国経済の見通しは非常に不透明である。
当研究所は引き続き「一つの大きく美しい法」(OBBBA)に盛り込まれた減税政策などが成長押上げ要因となる一方、関税の引上げや移民の強制送還が成長押し下げ要因と考えている。今回の経済見通しを策定する際の経済政策の前提として、関税政策では国別には9月9日時点で発表された相互関税率を前提とするほか、対中関税は30%、カナダ、メキシコ関税はUSMCA適合品が非課税、それ以外はカナダが35%1、メキシコが25%、インド、ブラジルが50%を想定した。物品別では鉄鋼・アルミ・銅は50%、自動車は25%(ただし、英国10%、EU・日本・韓国は15%)、半導体は9月末までに15%、医薬品は9月末までに25%関税を想定した。
移民政策については不法移民65万人の強制送還を25年初から開始すると想定した。一方、規制緩和については定性的には成長押上げ要因となることが見込まれるものの、定量評価が困難なため、経済見通しへの影響を中立とした。繰り返すが、トランプ政権の経済政策の予見可能性が低いため、これらの経済前提の確信度は低い。
これらの前提の下、当研究はトランプ政権の経済政策では主に関税政策の影響によって25年、26年ともに成長押し下げが優勢になると評価した。この結果、当研究所は実質GDP成長率(前年比)が25年、26年ともに+1.7%と24年の+2.8%から大幅に低下することを予想する(図表6)。また、現時点では景気後退の回避がメインシナリオである。
経済政策や通商政策は一頃に比べて予見可能性低下には歯止めがかかっている。しかしながら、トランプ大統領は依然として場当たり的な関税政策運営を続けているほか、国際緊急権限法(IEEPA)に基づく関税政策に対して連邦控訴裁判所から違憲判決が示されるなど、関税政策は流動的な状況が続いている。このため、米国経済は引き続きトランプ政権の経済政策によって左右される状況が続いており、トランプ政権の経済政策の予見可能性が低いため、米国経済の見通しは非常に不透明である。
当研究所は引き続き「一つの大きく美しい法」(OBBBA)に盛り込まれた減税政策などが成長押上げ要因となる一方、関税の引上げや移民の強制送還が成長押し下げ要因と考えている。今回の経済見通しを策定する際の経済政策の前提として、関税政策では国別には9月9日時点で発表された相互関税率を前提とするほか、対中関税は30%、カナダ、メキシコ関税はUSMCA適合品が非課税、それ以外はカナダが35%1、メキシコが25%、インド、ブラジルが50%を想定した。物品別では鉄鋼・アルミ・銅は50%、自動車は25%(ただし、英国10%、EU・日本・韓国は15%)、半導体は9月末までに15%、医薬品は9月末までに25%関税を想定した。
移民政策については不法移民65万人の強制送還を25年初から開始すると想定した。一方、規制緩和については定性的には成長押上げ要因となることが見込まれるものの、定量評価が困難なため、経済見通しへの影響を中立とした。繰り返すが、トランプ政権の経済政策の予見可能性が低いため、これらの経済前提の確信度は低い。
これらの前提の下、当研究はトランプ政権の経済政策では主に関税政策の影響によって25年、26年ともに成長押し下げが優勢になると評価した。この結果、当研究所は実質GDP成長率(前年比)が25年、26年ともに+1.7%と24年の+2.8%から大幅に低下することを予想する(図表6)。また、現時点では景気後退の回避がメインシナリオである。
物価は、関税引上げに伴い一時的にインフレを押し上げることが見込まれる。消費者物価(CPI)は前年同月比で25年末にかけて再加速を予想する。通年では25年が前年比+2.9%と前年並みとなった後、26年は関税のインフレ押上げ効果の剥落によって+2.8%と小幅に低下しよう。
金融政策は、25年は物価目標を上回るインフレに加速がみられるものの、労働市場の大幅な減速を重視して9月に利下げを再開し、関税政策に伴うインフレへの影響を慎重に見極めた上で12月にも追加利下げを実施すると予想。26年はインフレが徐々に低下する中、年前半に2回の利下げを見込む。
長期金利はトランプ政権の関税政策などに伴う景気減速懸念から長期金利に低下圧力がかかるものの、インフレ高進や財政赤字拡大に伴うタームプレミアムの上昇による上昇圧力もあって25年10-12月平均で4.5%に上昇した後、26年はインフレ低下もあって26年10-12月期平均で4.2%へ低下しよう。
上記見通しに対するリスクは、関税政策をはじめトランプ政権の予見不可能な経済政策が挙げられる。先日発表された地区連銀報告(ベージュブック)では関係者が頻繁に経済の不確実性に加え、関税をマイナス要因として挙げたことが示された2。今後も様々な政策が矢継早に打ち出され、その直後に軌道修正されることが繰り返される場合には、政策の予見可能性低下が金融市場を不安定化させるほか、家計や企業のセンチメントを悪化させ、個人消費や設備投資が抑制される可能性が高まろう。また、関税に伴うインフレの押上げは一時的とみられるが、関税政策の不透明感が続く場合には期待インフレ率の高止まりにより、インフレ高進が長期化しよう。
一方、IEEPAに基づく関税政策に対する司法判断については、最終的に連邦最高裁も委ねられることになるが、仮に違憲判決がでた場合には国別関税の多くが撤回されるほか、これまで徴収された関税が過去に遡って返還されるため、米国経済の押上げ要因とみられる一方、関税収入の減少に伴い大幅な財政悪化の要因となろう。
金融政策は、25年は物価目標を上回るインフレに加速がみられるものの、労働市場の大幅な減速を重視して9月に利下げを再開し、関税政策に伴うインフレへの影響を慎重に見極めた上で12月にも追加利下げを実施すると予想。26年はインフレが徐々に低下する中、年前半に2回の利下げを見込む。
長期金利はトランプ政権の関税政策などに伴う景気減速懸念から長期金利に低下圧力がかかるものの、インフレ高進や財政赤字拡大に伴うタームプレミアムの上昇による上昇圧力もあって25年10-12月平均で4.5%に上昇した後、26年はインフレ低下もあって26年10-12月期平均で4.2%へ低下しよう。
上記見通しに対するリスクは、関税政策をはじめトランプ政権の予見不可能な経済政策が挙げられる。先日発表された地区連銀報告(ベージュブック)では関係者が頻繁に経済の不確実性に加え、関税をマイナス要因として挙げたことが示された2。今後も様々な政策が矢継早に打ち出され、その直後に軌道修正されることが繰り返される場合には、政策の予見可能性低下が金融市場を不安定化させるほか、家計や企業のセンチメントを悪化させ、個人消費や設備投資が抑制される可能性が高まろう。また、関税に伴うインフレの押上げは一時的とみられるが、関税政策の不透明感が続く場合には期待インフレ率の高止まりにより、インフレ高進が長期化しよう。
一方、IEEPAに基づく関税政策に対する司法判断については、最終的に連邦最高裁も委ねられることになるが、仮に違憲判決がでた場合には国別関税の多くが撤回されるほか、これまで徴収された関税が過去に遡って返還されるため、米国経済の押上げ要因とみられる一方、関税収入の減少に伴い大幅な財政悪化の要因となろう。
(2025年09月09日「Weekly エコノミスト・レター」)
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03-3512-1824
経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
窪谷 浩のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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