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2025年09月03日

増え行く単身世帯と消費市場への影響(4)-教養娯楽・交際費から見る「自分時間」「人間関係」「自己表現」への投資

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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2その他の消費支出~高齢女性で多い交際費、若年層で目立つ理美容・身の回り品
最後に、交際費や理美容サービス・用品などを含む「その他の消費支出」について確認する。なお、消費支出に占める「その他の消費支出」の割合は、二人以上世帯では17.4%、単身世帯では男性で若年11.7%、壮年17.1%、高齢16.0%、女性で若年14.3%、壮年18.8%、高齢22.4%であり、特に女性では年齢が高いほど割合が高い傾向がある。

内訳を見ると、いずれの世帯でも「交際費」が最も多く、単身世帯では二人以上世帯(26.6%)を上回る(図表4)。特に若年男性(52.7%)や高齢女性(51.8%)では過半を占め、支出額で見ても高齢女性(18,751円)は単身世帯の他層の約2倍に上る。次いで、二人以上世帯では僅差で「諸雑費」のうち「他の諸雑費」(冠婚葬祭費、寄付金、医療保険料、保育費用、介護サービスなどを含む)が続く。単身世帯でも壮年・高齢層では次いで「諸雑費」が続くが、若年男性では「理美容サービス」(14.5%)が、若年女性では「理美容用品」(24.0%)が続く。

単身世帯の特徴としては、「交際費」が多いことのほか、男性では「たばこ」(約1割、二人以上世帯は2.3%)、若年男性では「理美容サービス」(14.5%)、若年・壮年女性では「理美容用品」「理美容サービス」(約2割)、若年女性では「身の回り品」(12,4%)が多い点があげられる。一方、「仕送り金」は壮年男性(17.8%)を除くと、単身世帯では全体的に少なく(二人以上世帯13.2%、その他の単身世帯はいずれも5%前後)、教育費や親族への援助といった家族内の金銭的支援が限られている様子も伺える。

こうした消費パターンからは、単身世帯ならではの人間関係への投資姿勢が見て取れる。交際費の高さは、家族以外の人的ネットワークの維持・構築への意識の表れと言え、特に高齢女性で顕著である。長年培った人間関係の維持や地域社会とのつながりを重視している様子が伺える。

また、理美容への支出の高さは、自己表現や自己投資への関心の強さを示している。若年層では、外見への投資が社会的な自信や人間関係の構築につながるという意識が強く、家族以外との関係性の中で「自分らしさ」を表現する手段とも考えられる。

一方で、二人以上世帯では「使途不明金」(11.9%)の割合が高い点が特徴的である。ここには小遣いなどが含まれるが、家計収支が明確になりやすい単身世帯と比べて、複数人での家計管理の中では支出に対する考え方や見方に差が出やすいことが反映されている。
図表4 二人以上世帯および単身世帯のその他の消費支出の内訳(2024年)
また、5年前と比べると、二人以上世帯や高齢女性を除く単身世帯では、いずれも名目ベースで「その他の消費支出」は減少している(図表5・6)。特に壮年女性では「仕送り金」や「交際費」を中心に実質36.8%の減少、金額にして約1万5千円の減少と、減少幅の大きさが目立つ。なお、高齢女性でも実質ベースでは減少している。背景には、これまでに見た通り、壮年女性の雇用面での脆弱性や可処分所得の伸び悩みがあると考えられる。

二人以上世帯でも「使途不明金」(▲5,134円、▲14.0%)や「交際費」(▲2,342円、▲14.0%)を中心に「その他の消費支出」は減少している。物価高で家計を切り詰める中、比較的削減しやすい交際費や小遣いから節約している様子が伺える。

こうした変化からは、単身世帯内での格差拡大が読み取れる。名目ベースで唯一若干増加している高齢女性と、大幅に減少している壮年女性の対比は、年金収入の安定性と雇用の不安定性の違いを示している。特に壮年女性では「仕送り金」や「交際費」といった人間関係の維持に関わる支出が削られており、親族支援や社会的なつながりの維持に陰りが見える。この動きは単なる節約にとどまらず、将来の孤立リスクや社会関係資本の縮小(人的ネットワークの希薄化、社会参加の減少など)につながりかねない問題である。

一方で、高齢女性では年金収入の安定性に加えて、コロナ禍で制限されていた交際活動の回復や、健康寿命の延伸により活動的な高齢女性が増えていることも背景にあると考えられる。これは高齢期の豊かな社会参加という前向きな変化の表れでもある。

このように「その他の消費支出」の変化は、世代や性別によって背景が異なる。単身世帯を一律に捉えることの限界を改めて示すとともに、とりわけ人間関係の維持に必要な支出が削らざるを得ない層への支援は、個人の生活の質を守るだけでなく、社会全体の結束力を維持する上でも重要な課題と言えるだろう。
 
図表5 二人以上世帯および単身世帯のその他の消費支出の内訳(2019年)
図表6 二人以上世帯および単身世帯のその他の消費支出の内訳の2024年と2019年の差

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月03日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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