2025年05月28日

インバウンド消費の動向(2025年1-3月期)-四半期初の1千万人越え、2025年の消費額は10兆円が視野

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~2024年は過去最高の3,687万人、消費額は8.1兆円で拡大傾向

前稿では、2024年10~12月期までのインバウンドの状況について報告した1。2024年通年の訪日外客数は過去最高の3,687万人、消費額は8.1兆円に達しており、今年に入ってからもその勢いは衰えず、拡大傾向が続いている。また、2024年10-12月期までの状況については、コロナ禍前の2019年同期と比べて、訪日外客数が3割強増加し、消費は約2倍に拡大していた(対2023年同期では、外客数が約3割、消費額が約4割増加)。外客数に比べて消費額の伸びが大きい要因としては、円安の進行や日本国内のインフレ率が相対的に低水準にあることにより、訪日客が日本での消費に割安感を抱きやすい点が挙げられる。また、10-12月期における訪日外客数の最多国は韓国で、全体の約4分の1を占め、消費額では中国が約2割を占めていた。

本稿では、観光庁「インバウンド消費動向調査(2025年1~3月期)」を中心に、インバウンド消費の現状を分析する。

2――訪日外客数

2――訪日外客数~2025年1-3月期は四半期初の1千万人越え、首位は韓国23.1%、僅差で中国21.8%

2025年1-3月の訪日外客2数は1,053万7,329人(推計値)に達し、前年同期(855万8,483人)と比べて23.1%の増加となった(図表1)。また、四半期として初めて1,000万人を超えた。
図表1 月別訪日外客数の推移
国籍・地域別に見ると、最多は韓国(250万6,100人、全体の23.8%)であり、僅差で中国(236万4,920人、22.4%)、次いで台湾(162万3,631人、15.4%)、米国(71万6,856人、6.8%)、香港(64万7,587人、6.1%)が続き、構成比は前年とおおむね同様である(図表2)。
図表2 国籍・地域別訪日外客数
なお、中国は、2024年7-9月期に日本への渡航再開以降で初めて韓国を上回り首位となったが、10-12月以降は再び韓国が首位を占めている。

また、外客数の上位国では、いずれも外客数は前年同期を上回っており、なかでも中国(+78.1%)、ロシア(+75.9%)、インドネシア(+46.0%)、マレーシア(+43.8%)における増加が顕著である。
 
2 訪日外客とは、外国人正規入国者から日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者のこと。駐在員やその家族、留学生等の入国者・再入国者は訪日外客に含まれる。

3――訪日外国人旅行消費額

3――訪日外国人旅行消費額~引き続き四半期で2兆円越え、円安と相対的に低水準のインフレ率が影響

2025年1-3月期の訪日外国人旅行消費額は2兆2,720億円(一次速報)であり、前年同期(1兆7,700億円)と比べて+28.4%の増加となった(図表3)。消費額は2023年7-9月期以降、コロナ禍前を上回る勢いで増加傾向が続いており、2024年4-6月期に四半期として初めて2兆円を突破した。
図表3 四半期別訪日外国人旅行消費額の推移
消費額の増加率(+28.4%)は訪日外客数の増加率(+23.1%)を上回っており、これにより訪日客1人当たりの消費額が増加していることが分かる。実際、一般客 1人当たりの消費額は2025年1-3月22万1,285円であり、前年同期(21万1,089円)と比べて+4.8%増加している。なお、平均宿泊日数は9.0日で、前年同期(9.4日)と同水準である。

訪日客数やその伸びを上回る形で消費額が増加している背景には、冒頭でも触れたように、依然として円安水準が続いていることに加え、他国と比較して日本のインフレ率が低いことが挙げられる。

あらためて各国通貨の対米ドル為替レートの推移を見ると、足元では米国の関税引き上げによりドル安の傾向も見られるものの、2022 年以降、日本円や韓国ウォンは通貨安の傾向を示しており、とりわけ日本円の下落が顕著である(図表4)。一方、ユーロやオーストラリアドルは通貨高の傾向を示してきた(ただし、ユーロについては直近でドル高傾向が見られる)。

また、各国の消費者物価指数(CPI)を見ると、総じて上昇傾向にあるが、2025年3月時点における日本のCPI上昇率は2019年比で約10%にとどまっている(図表5)。これは、20%以上の上昇が見られる欧米諸国と比べて明らかに低く、大きな差が生じている。
図表4 各国通貨の対米ドル為替レートの推移/図表5 各国の消費者物価指数の推移
2025年1-3月期の訪日外国人旅行消費額について国籍・地域別に見ると、最多は中国(5,443億円、全体の24.0%)で、次いで台湾(3,168億円、13.9%)、韓国(2,824億円、12.4%)、米国(2,188億円、9.6%)、香港(1,534億円、6.8%)が続き、構成比は前年とおおむね同様である(図表6)。また、これらをはじめとした消費額の上位国では、おおむね前年同期を上回っており、なかでもカナダ(+58.8%)、中国(+52.3%)、マレーシア(+48.3%)での増加が顕著である。
図表6 国籍・地域別訪日外国人旅行消費額
なお、各国籍・地域の訪日外客数と消費額の構成比を比較すると、訪日外客数が多い国ほど消費額も多い傾向にあるが、平均宿泊日数や購買行動がその背景にあると考えられる。宿泊日数については、近隣のアジア諸国に比べ、欧米からの旅行者は長期滞在の傾向が強い。

例えば、韓国は2025年1-3月期の訪日外客数で首位(全体の23.1%)を占めるが、平均宿泊日数(全目的で4.2日、観光・レジャー目的で3.7日)は全体(同9.0日、同6.9日)と比較して半分程度にとどまる。このため、消費額は3位(12.4%)にとどまっている。一方、米国は外客数では4位(全体の6.6%)であるものの、平均宿泊日数(同11.6日、同10.2日)が比較的長いため、消費額の構成比(9.6%)は外客数の割合を上回っている。

また、2025年1-3月期における国籍・地域別に1人当たりの旅行支出額を見ると、最多は豪州(38万2,089円)で、次いでフランス(35万9,300円)、カナダ(35万5,302円)、ドイツ(35万498円)が続き、これらの4か国では35万円を超えている(図表略)。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月28日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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