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「外向型ポテトチップス」×「内向型ポテトチップス」-消費の交差点(11)

生活研究部 研究員 廣瀬 涼
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1――「外向型ポテトチップス」と「内向型ポテトチップス」
これは、2025年3月25日(火)にカルビーから発売された、性格特性をテーマにした2種類のポテトチップスだ1。「外向型ポテトチップス」は唐揚げマヨ味で、パッケージには「まぁ食ってから考えよ!」という勢いのあるメッセージが添えられており、活発で直感的な性格を象徴するデザインとなっている。一方で、「内向型ポテトチップス」はトリュフ塩味。「夜更かし界隈の“ひとりじめ”したい味」といった文言があしらわれており、自分だけの時間をじっくり楽しむような、内向的なスタイルに寄り添ったメッセージが印象的だ。両者のパッケージや味は対照的で、それぞれの“特徴”が明確に演出されている。
このユニークな企画は、SNSで人気のインフルエンサー11名が開発に携わっており、企画段階のワークショップでは「性格診断」が若年層のあいだで流行していることが、当商品のコンセプトになったようだ。
1 カルビー株式会社「インフルエンサー11名と共同開発!食べているだけで自己表現!?
『ポテトチップス 内向型トリュフ塩味』『ポテトチップス 外向型唐揚げマヨ味』」2025/03/21 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001519.000030525.html
2――MBTI診断の大流行
その後、ウェブ上には手軽に診断できるサイトが数多く登場し、自分のMBTIタイプをSNSに投稿したり、SNSのプロフィール欄に記載する若者も増えていった。実際、10代~20代の女性を主な読者とするトレンドメディア『Trepo(トレポ)』の「2023年下半期Z世代トレンドランキング(コト・モノ部門)3」や、マイナビティーンズラボによる「2023年の10代女子が選ぶトレンドランキング(コト部門)」4では、いずれもMBTI診断が1位にランクインしている。2023年後半、MBTIはZ世代の間で圧倒的な注目を集める“ムーブメント”となったのだ。現在は落ち着いているものの、自己理解や他者との違いに対する関心の高さを象徴するツールとして、若者たちに根づいていった。
2 朝日新聞「流行の「MBTI」 採用にも使われる? 向き合い方を考える【時事まとめ】」2024/09/20 https://asahi.gakujo.ne.jp/common_sense/current_events/detail/id=3966
3 株式会社Creative Group「トレンドお届けメディアTrepo(トレポ)が選ぶ「2023年下半期Z世代トレンドランキング」」2023/12/01 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000082823.html
4 マイナビ「マイナビティーンズラボ 【2023年】10代女子が選ぶトレンドランキングを発表!」2023/11/15 https://www.mynavi.jp/news/2023/11/post_40195.html
3――96.4%の学生がMBTI診断を利用経験あり
さらに、診断経験のあるZ世代に「周囲の人のMBTIタイプを知っているか」と尋ねたところ、62.9%が「知っている」と回答し、他人のタイプを「とても参考にする」(16.1%)、「やや参考にする」(43.5%)と、MBTIは自己理解だけでなく、人間関係にも影響を与えていることがうかがえる。
また、株式会社bienoが2024年11月に大学生500名を対象に行った「Z世代の性格診断事情調査6」によると、96.4%の学生が「MBTI診断を利用したことがある」と回答。MBTIが大学生の間で“常識化”している様子がうかがえる。利用のきっかけとしては、「流行しているから」が53.1%で最多となり、話題性やエンタメ性の高さが人気の背景にあるようだ。
注目すべきは、MBTIの活用が就職活動にも及んでいる点である。18.2%の学生が「就活を通じてMBTI診断を利用した」と回答しており、その目的は「自己分析」と「企業の適性検査として求められた」という二つに分かれている。さらに、実際にMBTIを受けた学生のうち、54.5%が「回答を偽った経験がある」と答えており、就活において“理想の人物像”を演出するために、診断結果を操作する学生が一定数存在することを示唆している。
5 高校生新聞ONLiNe「若者に浸透した「MBTI」友達と仲深める一助に、一方で「決めつけに傷つく」声も」2024/10/02 https://www.koukouseishinbun.jp/articles/-/11912
6 マイナビニューズ「「MBTI診断」を就活に利用した大学生の割合は?」2025/03/04 https://news.mynavi.jp/article/20250304-3136285/
4――他人に自分を定義してもらいたい若者
もっとも、消費者は「診断結果がこうだったからこの味を選ぶべきだ」と真剣に考えているわけではないし、自分のタイプに合った味が実際に好みに合っているかどうかを厳密に重視しているわけでもない。多くの若者がMBTI診断の体験があるからこそ、「外向型」「内向型」というキーワードがそれを想起させる“記号”として機能しており、「そういえば自分は○○型だったな」と、軽い自己投影を促す仕掛けになっているのだ。価格も手頃で、ちょっとした話題性のある商品として手に取りやすいため、自分の性格タイプとゆるく結びつけて楽しむ“ネタ消費”の一種として受け入れられている側面が強いといえる。
一方で、肌や瞳、髪の色などをもとに“似合う色”を判定する「パーソナルカラー診断」や、骨や筋肉、脂肪の付き方など体の特徴をもとに“似合う服の形”を導く「骨格診断」は、「自分にはどんな服が似合うのか」「どんな髪色やメイクが合うのか」という感覚を持てずにいる多くの若者の消費する際の支えとなっている。こうした背景を受けて、三井不動産グループが運営する「ららぽーと」では、診断を通じて買い物体験に自信を持たせるサービスの提供を進めている。例えば、有料サービスであるが、ボディースキャナーによって36通りの中から自身の骨格タイプを診断する「ららクロ3D骨格診断」や、カラー診断士によるパーソナルカラー診断「ららクロカラー診断」が展開されている。
さらに、アパレル店舗の店頭には「+PLUS MIRROR」と呼ばれるAIカメラ搭載ディスプレイが設置されており、フェイスタイプ診断、パーソナルカラー診断、ファッションタイプ診断など、複数の診断機能を無料で提供している。こうした仕組みにより、消費者が「自分に似合うもの」を明確に意識しながら商品を選ぶことができるようになり、選択への自信や納得感を高めることが狙いとされている。
わからないという状態は、選択を誤るリスクを意味する。特にZ世代においては、「消費に失敗したくない」という意識が強く、その不安を和らげる手段として診断コンテンツが機能している。診断結果に従えば、「これは自分に似合うはず」と安心して選択できるし、仮にうまくいかなかったとしても「診断に基づいた選択だから間違っているはずがない」と、自分を肯定する根拠にもなる。
(2025年05月27日「基礎研レター」)

03-3512-1776
- 【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
ニッセイ基礎研究所入社
・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員
【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会
廣瀬 涼のレポート
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