2025年05月27日

Well-being時代の飲酒行動-20代の6割が「ほぼノンアル」、飲み方にも多様性

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

文字サイズ

1――はじめに~広がる「ソバ―キュリアス」、ノンアル生活を後押しする動きも?

近年、若者を中心に、アルコールを飲めないわけではないが、あえて飲まない「ソバ―キュリアス」が増加している。特に若者がアルコールを控える理由には、娯楽の多様化や相対的な飲酒価値の低下、健康意識の高まり、さらには物価高が進行する中での経済的な理由などが挙げられる。一方で、最近ではノンアルコールを積極的に選択する動きが年代を問わずに増えている印象がある。

コロナ禍は消費生活に大きな変化をもたらしたが、中でも飲酒行動への影響は際立っていた。コロナの5類移行後、多くの消費行動は平常化した。一方で飲酒に関しては、回復傾向を示しながらも1、同時にノンアルコールという選択を後押しするような動きも活発化しているように見える。

現在では飲食店のドリンクメニューにノンアルコール飲料が当たり前のように並び、専用コーナーが設けられているスーパーも多い。
図表1 ノンアルコール飲料市場の推移 また、飲料メーカーの動きを見ると、2020年からアサヒビールは「スマドリ(スマートドリンキング)」を提唱し2、ノンアルコール飲料を売りにしたバーを出店するなどの取り組みを進めている。さらに、2024年には、「責任ある飲酒」を推進するための新たな組織が設立され、取組み一層強化されている3。この動きは、カクテルなどノンアルコール飲料のラインナップが豊富なサントリーでも同様であり、今年4月には「攻めのノンアルしちゃおっか。」をキャッチコピーに、ノンアルコール飲料に特化した専門部署として「ノンアル部」が新設された4。なお、ノンアルコール市場は拡大傾向にあり、特に2020年から2021年にかけてのコロナ禍初期にかけて大きく伸びている(図表1)。

こうした動きを踏まえ、本稿では厚生労働省「国民健康・栄養調査」などの最新データをもとに、消費者の飲酒行動の変化についてあらためて分析する。
 
1 久我尚子「家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年2月)-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/4/22)
2 アサヒビール株式会社「お酒の飲み方に多様性を アサヒビール「スマートドリンキング」宣言」(2020/12/20)、スマドリとは飲む人も飲まない人も、自分の体質や気分、シーンに合わせて、適切なドリンクをスマートに楽しめる、飲み方の多様性のこと。
3 アサヒビール株式会社「「責任ある飲酒」を推進するResponsible Drinking部新設 産学医の分野で不適切飲酒の撲滅に注力し、企業に対する健康経営推進サポートなどを強化」(2024/8/2)
4 サントリー株式会社「2025年ノンアルコール飲料活動方針」(2025/2/5)

2――酒類消費量の変化

2――酒類消費量の変化~「とりあえずビール!」の衰退と多様化する飲酒スタイル

国税庁「酒のしおり」によると、国内のアルコール販売(消費)数量は1996年をピークに減少傾向が続いており、コロナ禍による落ち込みを経て、直近ではやや回復の兆しが見られる(図表2)。

消費の内訳に目を向けると、1990年代半ばまではビールが全体の全体の7割超を占め、圧倒的な人気を誇っていた。ところが2000年代初頭は、税率の変更の影響でビールに代わり発泡酒の消費が増加し、最近ではリキュール系飲料の伸びも目立つなど、アルコール消費は多様化している。

かつて定番だった「とりあえずビール!」で始まる飲み会文化は影を潜め、現在ではそれぞれが好みに応じて飲み物を選ぶスタイルが主流になりつつある。
図表2 酒類販売(消費)数量の推移

3――飲酒習慣率の変化

3――飲酒習慣率の変化~全世代で減少する男性、20歳代男性を超えた40~60歳代女性

次に、飲酒習慣(週に3日以上、飲酒日1日当たり1合以上飲酒する)について確認する。1999年と2019年、2022年、2023年を比較すると、男性では全ての年代で、女性では20~30歳代および70歳以上で飲酒習慣率が低下している(図表3)。中でも従来から飲酒習慣率が高かった男性の40~50歳代での低下幅が大きく、2~3割ほど低下している。

この背景には、以前から指摘しているように5、バブル崩壊後の景気低迷によって会食の機会が減少したことや、2008年に導入された40~74歳対象のいわゆるメタボ健診(特定健康診査・特定保健指導)による健康志向の高まりなどがあると考えられる。

ただし、2019年と2023年を比較すると、男性ではやや低下しているものの、1999年からの大幅な減少と比べて変化は限定的である。したがって、飲酒習慣の低下は、コロナ禍による一時的な影響よりも、長期的な社会環境や価値観の変化によるところが大きいといえる。

なお、飲酒習慣率はおおむね2022年に最も低く、2023年にはやや上昇に転じている。これは、コロナの5類以降により消費行動が平常化し、外食機会が回復したことが一因と考えられる。

一方、女性の40~60歳代では、1999年と比べて飲酒習慣率がやや上昇している。その結果、最近ではこの年代の女性の飲酒習慣率が、20歳代の男性を上回るようになっている。この背景には、当該世代では働く女性が増え、男性と同様に会食の機会が多くなったことがあげられる。また、以前と比べて女性がアルコールを楽しむことに対する社会的な許容度が高まったことも影響しているだろう。加えて、甘口のカクテルや発泡酒など女性向けの商品が充実してきたことや、女性が入りやすい飲食店の増加も要因として挙げられる。
図表3 飲酒習慣率の変化
 
5 久我尚子「さらに進行するアルコール離れ-若者で増える、あえて飲まない「ソバ―キュリアス」」、ニッセイ基礎研究所、基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.309]など。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月27日「基礎研レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【Well-being時代の飲酒行動-20代の6割が「ほぼノンアル」、飲み方にも多様性】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

Well-being時代の飲酒行動-20代の6割が「ほぼノンアル」、飲み方にも多様性のレポート Topへ