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2025年05月22日

【アジア・新興国】韓国の生命保険市場の現状-2023年のデータを中心に-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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1――加入状況

韓国の生命保険協会が2024年12月に発表した「生命保険利用実態調査」によると、2024年における生命保険の世帯加入率は84.0%で、2021年の81.0%に比べて3.0%ポイント上昇したことが分かった(図表1)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と景気後退などの影響で、2021年に大幅に減少した生命保険の世帯加入率は、保障型保険の販売拡大などにより回復されたと分析されている。
図表1 韓国における生命保険の世帯加入率や生命保険加入世帯の平均加入件数の動向
世帯主の年齢階級別の加入率は40代が90.8%で最も高く、次いで50代(89.7%)、30代(76.0%)、60代以上(72.5%)、20代と20代以下(53.9%)の順であった。一方、生命保険加入世帯の平均加入件数は2021年の4.3件から2024年には4.2件に0.2件減少した。毎月支払う生命保険の保険料については、「50万ウォン以上」が20.3%で最も多く、次いで「10万ウォン未満」(19.0%)、「20万ウォン以上30万ウォン未満」(18.2%)の順となった。

最近加入した生命保険商品は、疾病保障保険(42.4%)、実損填補型医療保険(20.6%)、災害・傷害保険(15.2%)、死亡保障保険(5.7%)が上位4位を占めた。生命保険の加入目的として最も多かったのは「医療費保障」で76.3%、次いで「家族の生活保障」(67.7%)、「一時的な所得喪失への対策」(30.3%)の順となった。2021年の調査結果と比較すると、「家族の生活保障」(2021年は33.2%)および「一時的な所得喪失への対策」(同13.9%)の割合が大きく上昇している。

2――収入保険料と当期純利益の推移

2――収入保険料と当期純利益の推移

2023年の収入保険料は112.4兆ウォンで対前年比15.3%(20.3兆ウォン)も減少した(図表2)。一般勘定の保険料収入は72.2兆ウォンで、前年比21.8%減少した(このうち個人保険の保険料収入は71.5兆ウォンで、前年比22.0%減少)。一般勘定の保険料収入が大幅に減少した要因としては、保障型保険の収入保険料が48.0兆ウォンで3.2%増加した一方で、貯蓄型保険の収入保険料が23.5兆ウォンと47.9%もの大幅な減少を記録したことが考えられる。ただし、金融監督院の業務報告書改編により、2022年まで一般勘定の貯蓄型保険に分類されていた(新)年金貯蓄、資産連動型保険、貯蓄型外貨保険などが、2023年からは特別勘定に分類して集計されるようになったため、2023年以降の数字を2022年以前と同一基準で比較することは難しい。
図表2 収入保険料の推移
一方、2023年における保険金等支払金は118.6兆ウォンで、前年比11.8%減少した。保険金等支払金が減少した理由は、保険金、返戻金および配当金がそれぞれ前年比5.3%、13.3%、25.9%ずつ減少したためである。特に満期保険金と解約返戻金がそれぞれ前年比6.7%、15.8%ずつ減少した。収入保険料に対する支払保険金の割合を示す保険金支払率は105.5%で、前年比4.2ポイント増加した。

生命保険業界の当期純利益は、IFRS171の導入効果および保障性保険の業績改善効果などにより、前年比37.6%増加して5.1兆ウォンに達した(図表3)。
図表3 当期純利益の動向
2023年の初回保険料は19.0兆ウォンで前年比40.6%減少した。初回保険料を販売チャネル別に見ると、金融機関保険代理店チャネル(旧バンカシュランスチャネル)が11.9兆ウォンで前年比33.7%減少したものの、全販売チャネルで占める割合は56.2%から62.6%に増加した(図表4)。
図表4 販売チャネル別初回保険料
 
1 IFRS17は保険契約の会計処理を国際的に統一し、財務報告により透明性をもたせ、保険会社の業績などの比較をわかりやすくするための新基準である。IFRS17の中核を成す契約サービスマージン(Contractual Service Margin, CSM)は、将来予測される利益を現在価値に換算した指標である。
IFRS17では、保険会社が収益性指標であるCSMを算出する際に、損害率や維持率といった主要変数を自主的に予測・決定することを認めている。その結果、当期純利益が急激に増加した可能性がある。

3――資産

3――資産

2023年における生命保険業界の総資産は、880.9兆ウォンで、前年比6.1%(57.4兆ウォン)減少した。運用資産は前年比2.8%増の756.9兆ウォンとなった一方、非運用資産は44.5%減の18.2兆ウォンになった。また、特別勘定資産は前年比37.4%減少し、105.7兆円に達した。

 しかし、資産の項目別増減には会計基準の変更(IFRS 17および9の導入)の影響が大きく関与している。具体的には、総資産の場合、保険契約貸付や未償却新契約費が資産から除外されたことが影響しており、特別勘定資産の場合、特別勘定保険負債の表示体系の整備が減少の要因となっている。

総資産の項目別構成比を見ると、最も高い割合を占めたのは有価証券の68.9%であった。続いて、貸付債権が13.7%、特別勘定資産が12.0%、現金および預金が2.1%、非運用資産が2.1%、不動産が1.3%という結果となった。有価証券は国・公債が51.7%で最も多く、次いで、外貨有価証券(14.2%)、収益証券(11.7%)、社債(10.0%)、株式(11.7%)等の順であった(図表5)。
図表5有価証券の保有現況

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月22日「保険・年金フォーカス」)

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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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