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2025年05月21日

方向感を欠く円相場、関税の着地点と影響がカギに~マーケット・カルテ6月号

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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為替・金利 3ヶ月後の見通し 月初に1ドル142円台後半でスタートしたドル円は、足元で144円付近とやや円安水準にある。ゴールデンウイーク明け以降、米国と英国が貿易協定の締結で合意したうえ、米国と中国が関税を巡って協議を行い、大幅な関税引き下げで合意したことが円安の主因だ。これらの動きを通じて貿易摩擦による米経済悪化懸念が後退してドルが買われたほか、リスク選好的な円売りが入り、中旬には一時148円台に乗せた。一方、その後は米インフレ指標の鈍化や大手格付機関による米国債の格下げ、日米財務相会談での米側による円安是正要求への警戒などから円の買戻しが進んでいる。

今後については、夏場にかけて強弱材料が交錯する形で方向感が出づらくなると見ている。今後もトランプ政権が相手国の譲歩と引き換えに関税を一部引き下げる動きが出てくると想定され、その際にはリスク選好的な円売りが活発化するだろう。一方で、関税の劇的な引き下げは見込みづらいうえ、米経済指標において関税の悪影響が次第に顕在化してくることがドル売り材料になる。この間、日米の中央銀行が不確実性の高さを理由に政策変更を見合わせ、明確なガイダンスを控えることもドル円の方向感の乏しさに繋がりそうだ。ドル円は決め手を欠き、3か月後の水準も現状と大差ない1ドル145円前後と予想している。

月初1.2%台後半でスタートした長期金利は、足元で1.5%台前半と急上昇している。米中の大幅な関税引き下げなどを受けて貿易摩擦への警戒が緩和し、安全資産とされる債券が売られたほか、国債増発への懸念等を背景に超長期ゾーンの金利が上昇し、10年債にも金利上昇圧力が波及している。

今後も長期金利は高止まりそうだ。既述の通り、夏場にかけて一部関税が緩和されることでリスク選好的な債券売りが予想されるほか、参議院選を巡って各党が経済対策を競い合うなかで国債増発が意識されやすい地合いが続きそうだ。内外の景気減速懸念が燻ることが金利を一定程度抑制するものの、明確に押し下げるには至らないだろう。3か月後の水準は1.5%前後と予想している。
 
(執筆時点:2025/5/21)

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(2025年05月21日「基礎研マンスリー」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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