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- 米でのGoogle広告訴訟判決-オープンウェブ・ディスプレイ広告における独占認定
2025年05月14日
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3|製品市場-媒体社アドサーバー
(1) 媒体社アドサーバーは関連市場である。
裁判所はオープンウェブ・ディスプレイ広告用の媒体社アドサーバー(以下、「OD媒体社アドサーバー」)は明確な関連製品市場を構成していると判断する。ここで注意すべきは媒体社アドサーバー市場を「オープンウェブ・ディスプレイ広告向け」に限定している点である。
OD媒体社アドサーバーは大規模な媒体社の在庫を管理することに特化しているとともに、他のアドテク商品とは異なる価格付けがなされている。他のアドテク製品はOD媒体社アドサーバーとは代替性がなく、このことはGoogleのOD媒体社アドサーバーが、他の大規模媒体社アドサーバーがある中で、独占的シェアを維持できていることで証拠付けられる。実際に商業的現実として、顧客数を優位に減らすことなく、独占者(Google)が価格を上昇させ、品質を下落させ得ることが示唆される。
これらの理由から、OD媒体社アドサーバーは有効な競争の領域を構成し、競争法上の関連市場を形成している。
OD媒体社アドサーバーは媒体社がウェブ広告の在庫(=広告枠)を管理・収益化するという、他のアドテクとは相違する明確な目的を持っている。また、OD媒体社アドサーバーは保有する在庫を割り当てたり、入札リクエストを送付したりするといった独自の機能を持つ。
また、手数料についても独特であり、OD媒体社アドサーバーでは広告費の1.7%~1.3%の手数料が徴収される一方で、オープンウェブ・ディスプレイ広告向けの広告取引所(以下、「OD広告取引所」)であるAdxでは広告費の20%が手数料として徴収されている。
このような特有の目的、特徴および価格があることで、テック業界ではアドテク業界でも独立した市場として一般に認識されている。また、Googleもその事業運営にあたってDFPを固有の商品として打ち出しており、OD媒体社アドサーバーの中でのシェアも算定している。
そして、OD媒体社アドサーバー市場の「商業的な現実」は独占者(Google)が重大な顧客損失を発生させることなく反競争的行為を行えるという結果を指示している。実際に、ファースト・ルックやラスト・ルック、あるいは統一価格ルールの強制など品質が低下しても、上位顧客100社のうち99社を維持している。また、Googleの社内ではDFPの手数料を20%上げることで4000万ドルの売り上げ増が可能と試算していた。これらの事情はOD媒体社アドサーバーが明確な関連製品市場を構成するという裁判所の結論を支持している。
(2) 他のデジタル広告との違い
OD媒体社アドサーバーはニュース、メディアその他のオンライン媒体社向けの広告配信機能を持つため、明確な関連市場を構成する。
典型的なOD媒体社アドサーバーの顧客である新聞業界を考えると、YouTubeなどで用いられるインストリーム広告(=動画広告)を掲示することはできない。また、アプリやソーシャルメディアページなど別のデジタルチャネルを通じてのみ収益を生み出すコンテンツを公開することは不可能である。さらに媒体社がユーザーをウェブサイトからアプリやソーシャルメディアにシフトさせることは不可能である。多くの媒体社が検索エンジンやリンクから自社ページのアクセスさせることに依存しており、アプリ化すれば、大きく閲覧者を損なうことになる。
したがって、オープンウェブ・ディスプレイ広告は、ソーシャルメディア広告、アプリ広告、インストリーム広告のための媒体社アドサーバーと合理的に代替可能なものではない。
また、媒体社が自社内で構築した(=囲まれた庭)媒体社アドサーバーは、OD媒体社アドサーバーとは合理的に代替可能ではない。自社内アドサーバーを構築するには信じがたいほど複雑さがあるとともに、会社の核心的な競争力とは関係がない。自社内アドサーバーを構築するのは多額の投資を必要とするため資金が必要であるほか、構築後維持費や運営サポートも必要であり、ほとんどの企業にとって不可能である。実際、社内に自社内アドサーバーを構築した企業はごくわずかにすぎない(例として、Amazon、Google、Meta、Reddit、Snapchat、TikTok)。
(1) 媒体社アドサーバーは関連市場である。
裁判所はオープンウェブ・ディスプレイ広告用の媒体社アドサーバー(以下、「OD媒体社アドサーバー」)は明確な関連製品市場を構成していると判断する。ここで注意すべきは媒体社アドサーバー市場を「オープンウェブ・ディスプレイ広告向け」に限定している点である。
OD媒体社アドサーバーは大規模な媒体社の在庫を管理することに特化しているとともに、他のアドテク商品とは異なる価格付けがなされている。他のアドテク製品はOD媒体社アドサーバーとは代替性がなく、このことはGoogleのOD媒体社アドサーバーが、他の大規模媒体社アドサーバーがある中で、独占的シェアを維持できていることで証拠付けられる。実際に商業的現実として、顧客数を優位に減らすことなく、独占者(Google)が価格を上昇させ、品質を下落させ得ることが示唆される。
これらの理由から、OD媒体社アドサーバーは有効な競争の領域を構成し、競争法上の関連市場を形成している。
OD媒体社アドサーバーは媒体社がウェブ広告の在庫(=広告枠)を管理・収益化するという、他のアドテクとは相違する明確な目的を持っている。また、OD媒体社アドサーバーは保有する在庫を割り当てたり、入札リクエストを送付したりするといった独自の機能を持つ。
また、手数料についても独特であり、OD媒体社アドサーバーでは広告費の1.7%~1.3%の手数料が徴収される一方で、オープンウェブ・ディスプレイ広告向けの広告取引所(以下、「OD広告取引所」)であるAdxでは広告費の20%が手数料として徴収されている。
このような特有の目的、特徴および価格があることで、テック業界ではアドテク業界でも独立した市場として一般に認識されている。また、Googleもその事業運営にあたってDFPを固有の商品として打ち出しており、OD媒体社アドサーバーの中でのシェアも算定している。
そして、OD媒体社アドサーバー市場の「商業的な現実」は独占者(Google)が重大な顧客損失を発生させることなく反競争的行為を行えるという結果を指示している。実際に、ファースト・ルックやラスト・ルック、あるいは統一価格ルールの強制など品質が低下しても、上位顧客100社のうち99社を維持している。また、Googleの社内ではDFPの手数料を20%上げることで4000万ドルの売り上げ増が可能と試算していた。これらの事情はOD媒体社アドサーバーが明確な関連製品市場を構成するという裁判所の結論を支持している。
(2) 他のデジタル広告との違い
OD媒体社アドサーバーはニュース、メディアその他のオンライン媒体社向けの広告配信機能を持つため、明確な関連市場を構成する。
典型的なOD媒体社アドサーバーの顧客である新聞業界を考えると、YouTubeなどで用いられるインストリーム広告(=動画広告)を掲示することはできない。また、アプリやソーシャルメディアページなど別のデジタルチャネルを通じてのみ収益を生み出すコンテンツを公開することは不可能である。さらに媒体社がユーザーをウェブサイトからアプリやソーシャルメディアにシフトさせることは不可能である。多くの媒体社が検索エンジンやリンクから自社ページのアクセスさせることに依存しており、アプリ化すれば、大きく閲覧者を損なうことになる。
したがって、オープンウェブ・ディスプレイ広告は、ソーシャルメディア広告、アプリ広告、インストリーム広告のための媒体社アドサーバーと合理的に代替可能なものではない。
また、媒体社が自社内で構築した(=囲まれた庭)媒体社アドサーバーは、OD媒体社アドサーバーとは合理的に代替可能ではない。自社内アドサーバーを構築するには信じがたいほど複雑さがあるとともに、会社の核心的な競争力とは関係がない。自社内アドサーバーを構築するのは多額の投資を必要とするため資金が必要であるほか、構築後維持費や運営サポートも必要であり、ほとんどの企業にとって不可能である。実際、社内に自社内アドサーバーを構築した企業はごくわずかにすぎない(例として、Amazon、Google、Meta、Reddit、Snapchat、TikTok)。
4|製品市場-広告取引所市場
裁判所は、OD広告取引所は明確な関連製品市場を構成していると判断する。なお、ここでいう市場とはOD広告取引所間の競争が行われる領域を指しており、OD広告取引所内の市場を指す意味ではない。
OD広告取引所は媒体社アドサーバーを利用する媒体社と、デマンドサイドプラットフォームやアドテクネットワークなどのバイイングツールを利用する広告主とをつなぐというオープンウェブ・ディスプレイ広告のアドテク業界で明確な役割を果たしている。複数のバイイングツールからの入札を瞬時に収集し、ランク付けする独特の機能を有していることから、独自の製品と業界関係者から認識されている。加えて、他のアドテクツールとは異なる価格で手数料を徴収しており、他のアドテクツールとは合理的な代替が可能とはいえない。OD広告取引所はOD媒体社アドサーバーと比較して高額の手数料を要求しており、広告費の10%~20%を手数料とする。
業界関係者はOD広告取引所を他のアドテクツールとは別個の商品と認識しており、媒体社も同様に固有の製品とみなしている。
OD広告取引所が代替製品を欠くという結論は、OD広告取引所市場の独占者が反競争的な価格を意味のある代替行動を生じさせずに請求できることによって強化される。例えば、Googleの社内研究ではAdxの手数料を25%減らしても、OD広告取引所の市場シェアにはほとんど影響を及ぼさないと予測している。これは顧客に粘着性があることと弾力性のなさ(=顧客の囲い込みが進んでおり、価格に対する感応度が低いこと)を示している。
同じ社内研究結果では、Adxの総収入の70%以上を占める媒体社の弾力性は1以下であるとする。この意味するところはAdxの手数料価格を上昇させても、70%以上の媒体社はAdxから出ていかないことである。媒体社は他の媒体社との競争に勝つことや、在庫の価値を最大化するためには他のアドテクに変更することができない。そのため媒体社はOD広告取引所の利用変更に関する弾力性を失っている。
この結果、オープンウェブ・ディスプレイ広告の独占者(Google)は超競争的な価格を、顧客がAdxの競合商品へ、独占者の価格を制約するほどの十分な数の顧客が流出することなく設定できる。
GoogleはOD広告取引所に限定することは市場を狭く見すぎていると主張する。しかし、OD媒体社アドサーバーのところで見た通り、インストリーム動画、モバイルアプリ、ソーシャルメディア広告のみを販売する広告取引所は、オープンウェブ・ディスプレイ広告の代替にはならない。
裁判所は、OD広告取引所は明確な関連製品市場を構成していると判断する。なお、ここでいう市場とはOD広告取引所間の競争が行われる領域を指しており、OD広告取引所内の市場を指す意味ではない。
OD広告取引所は媒体社アドサーバーを利用する媒体社と、デマンドサイドプラットフォームやアドテクネットワークなどのバイイングツールを利用する広告主とをつなぐというオープンウェブ・ディスプレイ広告のアドテク業界で明確な役割を果たしている。複数のバイイングツールからの入札を瞬時に収集し、ランク付けする独特の機能を有していることから、独自の製品と業界関係者から認識されている。加えて、他のアドテクツールとは異なる価格で手数料を徴収しており、他のアドテクツールとは合理的な代替が可能とはいえない。OD広告取引所はOD媒体社アドサーバーと比較して高額の手数料を要求しており、広告費の10%~20%を手数料とする。
業界関係者はOD広告取引所を他のアドテクツールとは別個の商品と認識しており、媒体社も同様に固有の製品とみなしている。
OD広告取引所が代替製品を欠くという結論は、OD広告取引所市場の独占者が反競争的な価格を意味のある代替行動を生じさせずに請求できることによって強化される。例えば、Googleの社内研究ではAdxの手数料を25%減らしても、OD広告取引所の市場シェアにはほとんど影響を及ぼさないと予測している。これは顧客に粘着性があることと弾力性のなさ(=顧客の囲い込みが進んでおり、価格に対する感応度が低いこと)を示している。
同じ社内研究結果では、Adxの総収入の70%以上を占める媒体社の弾力性は1以下であるとする。この意味するところはAdxの手数料価格を上昇させても、70%以上の媒体社はAdxから出ていかないことである。媒体社は他の媒体社との競争に勝つことや、在庫の価値を最大化するためには他のアドテクに変更することができない。そのため媒体社はOD広告取引所の利用変更に関する弾力性を失っている。
この結果、オープンウェブ・ディスプレイ広告の独占者(Google)は超競争的な価格を、顧客がAdxの競合商品へ、独占者の価格を制約するほどの十分な数の顧客が流出することなく設定できる。
GoogleはOD広告取引所に限定することは市場を狭く見すぎていると主張する。しかし、OD媒体社アドサーバーのところで見た通り、インストリーム動画、モバイルアプリ、ソーシャルメディア広告のみを販売する広告取引所は、オープンウェブ・ディスプレイ広告の代替にはならない。
5|製品市場-広告主アドネットワーク市場
裁判所はオープンウェブ・ディスプレイ広告の広告主アドネットワークを独自の市場であることを原告が示せなかったと判断する。原告の主張は、広告主から見たときにオープンウェブ・ディスプレイ広告と他のディスプレイ広告(囲まれた庭の広告、インストリーム広告、アプリ内広告)が代替可能であることと矛盾する。また、広告主アドネットワークという用語は本訴訟によってはじめて使われたものであり、業界で一般的な用語ではない。
大規模な広告主は自社のキャンペーンのためによりカスタマイズでき、コントロールも容易なデマンドサイドプラットフォームを利用しつつ、二次的なツールとしてAdWordsを利用している。これはAdWordsが検索広告やYouTube、Gmail広告に出稿できるからである。
小規模な広告主はAdWordsのみを利用して運用広告を出稿している。しかし、データが豊富なデジタル広告の世界では小さな広告主もチャネルを使い分けている。一例では、オープンウェブ・ディスプレイ広告を利用していた広告主がInstagramに広告を移した事例がある。
結論として、広告主アドネットワーク市場の適切な範囲には囲まれた庭のディスプレイ広告、アプリ内広告、ソーシャルメディア広告など広告主が交換可能なデジタル広告も含むと判断するのが適切である。
以上をまとめると図表8の通りである。
裁判所はオープンウェブ・ディスプレイ広告の広告主アドネットワークを独自の市場であることを原告が示せなかったと判断する。原告の主張は、広告主から見たときにオープンウェブ・ディスプレイ広告と他のディスプレイ広告(囲まれた庭の広告、インストリーム広告、アプリ内広告)が代替可能であることと矛盾する。また、広告主アドネットワークという用語は本訴訟によってはじめて使われたものであり、業界で一般的な用語ではない。
大規模な広告主は自社のキャンペーンのためによりカスタマイズでき、コントロールも容易なデマンドサイドプラットフォームを利用しつつ、二次的なツールとしてAdWordsを利用している。これはAdWordsが検索広告やYouTube、Gmail広告に出稿できるからである。
小規模な広告主はAdWordsのみを利用して運用広告を出稿している。しかし、データが豊富なデジタル広告の世界では小さな広告主もチャネルを使い分けている。一例では、オープンウェブ・ディスプレイ広告を利用していた広告主がInstagramに広告を移した事例がある。
結論として、広告主アドネットワーク市場の適切な範囲には囲まれた庭のディスプレイ広告、アプリ内広告、ソーシャルメディア広告など広告主が交換可能なデジタル広告も含むと判断するのが適切である。
以上をまとめると図表8の通りである。
6|地理的市場
関連市場の地理的範囲を決定するためには「被告が価格を引き上げた場合に、被告の顧客が現実的に代替供給に頼ることができる範囲」を考慮する。原告とGoogleは米国が適切な地理的市場であることに同意しているが、原告は世界市場が最適であると主張する。
裁判所は、インターネット検閲のある国(例えば中国)や経済制裁を受けている国(例えばイラク)を除いた全世界が地理的市場であると判断する。
地理的市場を画定するには、片方にOD媒体社アドサーバーがあり、もう片方にOD広告の広告取引所が存在する両面市場があるとの前提で検討が必要である。そして、被告が価格を引き上げたときに、実態的に顧客が代替することが可能な地域はどこかで判断される。
OD媒体社アドサーバーは世界的な閲覧者と広告費をめぐって競争している。また、OD広告取引所は世界を市場にしている。媒体社向けのアドテク提供者は地域的に販売数を分けていることもあるが、自社が世界的に競争しているとみなしている。したがって、OD媒体社アドサーバー市場とOD広告取引所市場の地理的範囲は一部国家を除く世界である。
関連市場の地理的範囲を決定するためには「被告が価格を引き上げた場合に、被告の顧客が現実的に代替供給に頼ることができる範囲」を考慮する。原告とGoogleは米国が適切な地理的市場であることに同意しているが、原告は世界市場が最適であると主張する。
裁判所は、インターネット検閲のある国(例えば中国)や経済制裁を受けている国(例えばイラク)を除いた全世界が地理的市場であると判断する。
地理的市場を画定するには、片方にOD媒体社アドサーバーがあり、もう片方にOD広告の広告取引所が存在する両面市場があるとの前提で検討が必要である。そして、被告が価格を引き上げたときに、実態的に顧客が代替することが可能な地域はどこかで判断される。
OD媒体社アドサーバーは世界的な閲覧者と広告費をめぐって競争している。また、OD広告取引所は世界を市場にしている。媒体社向けのアドテク提供者は地域的に販売数を分けていることもあるが、自社が世界的に競争しているとみなしている。したがって、OD媒体社アドサーバー市場とOD広告取引所市場の地理的範囲は一部国家を除く世界である。
7|コメント
ここは本判決の最重要な論点である。原告は媒体社アドサーバー市場、広告取引所市場、広告主アドネットワーク市場の三つが存在するとしたが、判決では前2つの市場を「オープンウェブ・ディスプレイ広告向け」という範囲で認めた。これは例えば「囲まれた庭」のディスプレイ広告は、一つ目のOD媒体社アドサーバー市場における代替性がないからである。また二つ目のオープンウェブ・ディスプレイ広告専門の広告取引所も同様に代替製品を欠くと判断されている。他方、3つ目の広告主アドネットワーク市場を独立した市場とは認めなかった。これは広告主の広告出稿の選択先が「オープンウェブ・ディスプレイ広告」について「囲まれた庭のディスプレイ広告」「ソーシャルメディア広告」など代替製品が多く存在し、「オープンウェブ・ディスプレイ広告向け」では画定できないからである。
上述のTVCMの例で例えると、テレビ局の立場で考えれば、販売される広告枠はTVCMのみであり、新聞広告や雑誌広告、チラシなどは販売の対象とならない。したがって、TVCM広告枠の販売市場というものが認識できる。上記で挙げたTVCM広告枠販売販売部門やTVCM専門広告主代理部門はそれぞれTVCMに特化したものなので、それぞれの市場が認識できる。
他方、広告主サイドから見ると広告主はTVCMだけ見ているのではなく、自社の広告宣伝費を新聞や雑誌、チラシに振り分けることができる4。広告主サイドから見た広告市場はこれらさまざまな媒体に代替可能なものであり、TVCM広告枠市場と狭く定義した以上は、広告主のいるマーケットはこの市場に限定されない(図表9)。
ここは本判決の最重要な論点である。原告は媒体社アドサーバー市場、広告取引所市場、広告主アドネットワーク市場の三つが存在するとしたが、判決では前2つの市場を「オープンウェブ・ディスプレイ広告向け」という範囲で認めた。これは例えば「囲まれた庭」のディスプレイ広告は、一つ目のOD媒体社アドサーバー市場における代替性がないからである。また二つ目のオープンウェブ・ディスプレイ広告専門の広告取引所も同様に代替製品を欠くと判断されている。他方、3つ目の広告主アドネットワーク市場を独立した市場とは認めなかった。これは広告主の広告出稿の選択先が「オープンウェブ・ディスプレイ広告」について「囲まれた庭のディスプレイ広告」「ソーシャルメディア広告」など代替製品が多く存在し、「オープンウェブ・ディスプレイ広告向け」では画定できないからである。
上述のTVCMの例で例えると、テレビ局の立場で考えれば、販売される広告枠はTVCMのみであり、新聞広告や雑誌広告、チラシなどは販売の対象とならない。したがって、TVCM広告枠の販売市場というものが認識できる。上記で挙げたTVCM広告枠販売販売部門やTVCM専門広告主代理部門はそれぞれTVCMに特化したものなので、それぞれの市場が認識できる。
他方、広告主サイドから見ると広告主はTVCMだけ見ているのではなく、自社の広告宣伝費を新聞や雑誌、チラシに振り分けることができる4。広告主サイドから見た広告市場はこれらさまざまな媒体に代替可能なものであり、TVCM広告枠市場と狭く定義した以上は、広告主のいるマーケットはこの市場に限定されない(図表9)。
4 なお、現実世界ではTVCMに代替するのは主にネット広告だろうが、議論が混乱するので挙げていない。
(2025年05月14日「基礎研レポート」)
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03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
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