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2025年04月30日

トランプ政権100日の評価-関税政策などの予見可能性低下が金融市場や消費者、企業マインド、支持率の悪化要因に

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(金融市場、消費者・企業センチメント):金融市場は混乱、センチメントは大幅悪化
24年11月に大統領選挙でトランプ氏が再選されたことで減税や規制緩和に対する期待感もあって、主要株価のS&P500指数は25年2月下旬に大統領選挙時点からの上昇率が一時+6.2%となっていた(図表6)。しかしながら、一連の関税政策の混乱に伴いその後は急激な下落に転じ、4月上旬には2月の高値から▲18.9%下落したほか、選挙時点からも▲13.8%の大幅な下落となった。
(図表6)S&P500 株価指数および長期金利 一方、株価急落を受けてトランプ大統領が対中関税率の大幅な引き下げの可能性を示唆したことやパウエル議長の解任方針を撤回したこともあって株価は持ち直しており、足元では4月上旬の安値からは+10.9%程度上昇している。

長期金利は、トランプ氏の再選でインフレ高進や財政赤字拡大の見方が強まったことを受けて25年1月に一時4.8%近辺まで上昇した後、関税政策に伴う景気後退懸念もあって4月上旬には一時4%割れをつけた。しかしながら、その後は株価が下落したものの、通常安全資産とみなされている米国債に資金流入はみられず、長期金利は一時4%台半ばまでの上昇となった。このため、米国の信認低下に伴い、米国からの資金逃避が発生している可能性を示唆した。なお、前述のトランプ氏の対中関税方針の緩和観測もあって長期金利は足元では4.2%近辺と小幅低下して推移している。
一方、関税政策をはじめとする政策の予見可能性低下に伴い消費者や企業センチメントは急激に悪化している。消費者センチメントはミシガン大学調査で24年12月の74から25年4月は52.2と22年7月以来の水準に低下した(図表7)。また、コンファレンスボード調査も24年11月の112.8から25年4月には86と20年5月以来の水準に急落しており、消費マインドは大幅に悪化している。さらに、ミシガン大学調査による家計の今後1年間のインフレ予想は4月が+6.5%と24年11月の+2.6%から関税に伴うインフレ予想を反映して1981年11月以来の高水準となっており、スタグフレーションリスクの高まりを反映しているとみられる。

企業の景況感はISM製造業景況指数が25年1月の50.9から3月は49.0と2ヵ月連続で低下したほか、24年12月以来となる好不況の境とされる50を下回った(図表8)。また、非製造業指数は25年3月が50.8と50を上回ったものの、50を下回った24年6月以来9ヵ月ぶりの水準に低下した。

さらに、中小企業の景況感を示すNFIB指数は25年3月が97.4と24年12月の105.1から3ヵ月連続で低下したほか、2月の100.7からの低下幅は▲3.3ポイントと22年6月以来の急落となった。
(図表7)消費者センチメントおよび家計のインフレ予想/(図表8)ISM製造業・非製造業、NFIB指数
このため、トランプ大統領による不透明な関税政策の影響で消費者や企業マインドが足元で急落している状況が示されている。一方、速報性がある景況感などのソフトデータは大幅な悪化を示しているものの、発表に時間がかかる経済指標などのハードデータでは足元で大幅な悪化を示すものは発表されていない。しかしながら、ソフトデータの悪化を考慮すると関税が大幅に引き上げられた4月以降のハードデータは大幅な悪化が不可避の情勢となっている。
(支持率):歴代大統領の中でも低支持率、経済運営に対する評価も低下
トランプ大統領の支持率はGallup調査が25年4月時点で44%となっており、トランプ政権1期目の41%を上回っているものの、戦後歴代大統領の同時期の支持率で50%を下回っているのはトランプ氏のみとなっており、歴代大統領に比べて支持率は低迷している(図表9)。

支持率低迷の要因として関税政策に伴う景気悪化懸念などが挙げられる。キニピアック大学の調査2では有権者の72%が、「関税が短期的に米国経済に打撃を与える」と回答しているほか53%が、「関税が長期的にも米国経済に打撃を与える」と回答している。とくに、短期的に打撃を与えると回答した有権者の政党別割合は、民主党支持者が97%、無党派層で77%と高くなっているほか、共和党支持者でも44%に上っており、共和党支持者にも経済への懸念が広がっていることが分かる。

また、トランプ大統領はインフレ抑制などの経済政策への期待から再選されたものの、トランプ大統領の経済運営に対する支持率はロイター/イプソスの調査で就任当初の42%ら足元の37%まで低下している(図表10)。これはバイデン政権末期の水準は依然上回っているものの、トランプ政権1期目の支持率を大幅に下回っており、経済運営に対して有権者が失望している状況が鮮明になっている。
(図表9)大統領支持率(就任最初の100日)/(図表10)経済運営に関する支持率

3.中間選挙を睨んで、関税政策の軌道修正や税制改革の進展に注目

3.中間選挙を睨んで、関税政策の軌道修正や税制改革の進展に注目

これまでみたように2期目のトランプ政権は就任初日からの大統領令の乱発でロケットスタートを切ったものの、目ぼしい立法成果を上げていない。そのような中、トランプ大統領の予測不能な関税政策により、金融市場が大混乱となっているほか、消費者や企業マインドが急激に悪化しており、景気後退懸念が強まっている。

また、トランプ大統領の支持率は歴代大統領の中でも低迷しているほか、トランプ氏が再選される大きな要因となった経済運営に対する期待は萎んでいる。

景気後退懸念が強まる中、26年に中間選挙を控えておりこのままの不安定な経済運営が続けば議会選挙で惨敗する可能性が高い。このため、トランプ政権として通商政策を軌道修正するのか、税制改革で成果を上げられるのか、今後の動向が注目される。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年04月30日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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