2025年03月21日

米FOMC(25年3月)-市場予想通り、政策金利を2会合連続で据え置き。4月から量的引締めのペースを緩和

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:政策金利を据え置き、量的引締めペースは緩和。政策金利見通しは維持

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が3月18-19日(現地時間)に開催された。FRBは市場予想通り政策金利を2会合連続で4.25-4.5%に維持することを決定した。量的引締め政策では米国債の月間償還上限額を250億ドルから50億ドルに減額し、引締めペースを緩和した。今回の金融政策決定ではウォラー理事が政策金利の据え置きに賛成したものの、量的引締めペースの緩和に反対した。

今回発表された声明文では、景気判断の変更はなかった一方、経済見通しでは前回の「雇用とインフレの目標達成に対するリスクはほぼ均衡していると判断している」との文言が削除され、「経済見通しの不確実性は高まっている」との文言が追加された。フォワードガイダンス部分の変更はなかった。

FOMC参加者の経済見通し(SEP)は前回(12月)から、25年から27年にかけての成長率が下方修正された一方、25年のコアPCE価格が上方修正された(後掲図表1)。

政策金利見通し(中央値)に変更はなく、25年、26年ともには1回▲0.25%で2回の利下げ方針が維持された。

2.金融政策の評価:経済見通しの不確実性が高まる中、金融政策の様子見姿勢を継続

政策金利の据え置きはは予想通り。また、声明文でトランプ政権の経済政策に伴う米国経済への不透明感が高まっていることを踏まえて、経済見通しの不確実性が高まっていることに言及されたことも予想通りだった。一方、SEPではインフレとともに政策金利見通しも上方修正されると予想していたが、修正が見送られたことはやや予想外であった。もっとも、トランプ政権の経済政策の政策予見性が低く、経済見通しが不透明な中では積極的に見通しを変更できないことも理解できる。

パウエル議長の記者会見では、経済が全体として堅調であり、現在の金融政策スタンスが良い状態にあるとの判断が示された。その上で、関税によるインフレが一時的かの見極めも含めて経済見通しの不確実性が高まっていることを指摘し、金融政策で暫く様子見姿勢を続ける方針が示された。一方、SEPの25年の政策金利見通しに変更はなかったものの、後述するように修正バイアスは幾分上方修正方向となっていた。

当研究所は本日のFOMC会合を受けて、関税のインフレへの影響が顕在化する前の6月に利下げを実施し、その後はインフレ加速に伴い、25年は政策金利を据え置くとの見方を維持する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • これらの目標を支えるため、委員会はFF金利の誘導目標水準を4.25-4.5%で据え置くことを決定(変更なし)
  • 財務省証券、政府機関債、政府機関の住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(変更なし)
  • 委員会は4月以降、財務省証券の月間償還上限額を250億ドルから50億ドルに減額し、保有証券の減少ペースを緩める。委員会は政府機関債、政府機関の住宅ローン担保証券の月間償還上限額を350億ドルに維持する(今回追加)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • FF金利の目標レンジの追加的な調整の程度とタイミング検討する際には、委員会は入ってくるデータ、進展する見通し、およびリスクのバランスを注意深く評価する(変更なし)
  • 委員会は最大限の雇用を支え、インフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 最近の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆している(変更なし)
  • 失業率はここ数ヵ月低水準で安定しており、労働市場の状況は引き続き堅調である(変更なし)
  • インフレ率はやや高止まりしている(変更なし)
 
(景気見通し)
  • 委員会は雇用とインフレの目標達成に対するリスクはほぼ均衡していると判断している(今回削除)
  • 経済見通しの不確実性は高まっている(今回追加)
  • 委員会はデュアル・マンデートの両サイドのリスクに高い注意を払っている(今回追加)
  • 経済見通しは不透明であり、委員会はデュアル・マンデートの両サイドのリスクに高い注意を払っている(今回削除)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 本日、FOMCは政策金利の据え置きを決定した。また、バランスシートの縮小ペースを緩めるという技術的な決定も行った。
    • 家計や企業を対象とした調査では、景気の先行きに対する不透明感が高まっていることが指摘されている。こうした動きが将来の消費や投資にどのような影響を与えるかは、まだ分からない。
    • 労働市場は引き続き堅調である。全体として広範な指標は労働市場の状況が概ね均衡していることを示唆している。
    • インフレ率は過去2年間で大幅に緩和されたが、長期的な目標である2%に比べて、依然としてやや高い水準にある。インフレ期待の短期的な指標は最近上昇している。市場ベースと調査ベースの両方の指標でこの傾向がみられ、調査回答者は消費者と企業の両方で関税を要因として挙げている。
    • 新政権は、貿易、移民、財政政策、規制という4分野で重要な政策変更を実施しようとしている。経済と金融政策の行方を左右するのは、これらの政策変更の正味の効果である。これらの分野の一部、とくに通商政策では最近の進展がみられるものの、その変更と経済見通しへの影響を巡る不確実性は高い。
    • 4月以降、財務省証券の月間償還上限は250億ドルから50億ドルに引下げられる。政府機関債の上限は据え置く。この措置は金融政策のスタンスに影響を与えるものではなく、中期的なバランスシートの規模に影響を与えるものでもない。
 
  • 主な質疑応答
    • (今年のインフレ予測の上振れはどの程度関税によるものか、一時的な上昇とみているのか)関税の影響を正確に評価するのは難しいが、物価上昇の一因であることは確かだ。関税の影響が一時的であれば金融政策の対応は不要だが、それは今後のデータを見極める必要がある。
    • (政策金利見通しが変わっていないのは、関税によるインフレを一時的と判断しているためか)現時点で関税が持続的なインフレ要因になるか不明だ。今回は成長見通しが下方修正される一方、インフレ見通しが上方修正された結果、両者が相殺される形で政策金利の見通しに大きな変更はなかった。
    • (最近の消費者信頼感低下の評価)ハードデータは全体としては堅調な状況だ。消費者・企業の調査データは不確実性の著しい上昇を示しているが、調査データと実際の経済活動の関係はあまり緊密ではない。ハードデータに弱い兆しがないか注意深く見守る。しかし、我々の政策は適切な位置にあると考えており、経済の状況がより明確になるまで待つことが適切と考えている。
    • (景気後退の可能性について)景気後退の可能性は常にある。過去数年間では1年以内に景気後退に陥る確率は25%程度とされていた。我々は景気後退を予想していない。多くの予測家が景気後退の可能性をいくらか引上げているが、比較的穏やかなレベルだ。
    • (景気後退への対応としての利下げが遅れる可能性)我々は目標達成を促進するために、できる限りのツールをタイムリーに使うように努力するつもりだ。今のところ、信頼感の低下や不確実性の高さについては当然認識しており、注意深く見守っている。政策スタンスの調整を検討するために、さらなる明確化を待つには良い時期だと考えている。

5.FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の19名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前回(12月)見通しとの比較では、実質GDP成長率は25年が前回の+2.1%から+1.7%に下方修正されるなど25年~27年が下方修正された。失業率は25年分が小幅上方修正された。コアPCE価格指数は25年が前回の+2.5%から+2.8%に上方修正された。
(図表1)FOMC参加者の経済見通し(3月会合)
(図表2)政策金利見通し(年末時点) 政策金利の見通し(中央値)は、25年が3.9%(前回:3.9%)、26年が3.4%(前回:3.4%)、27年が3.1%(前回:3.1%)、長期見通しが3.0%(前回:3.0%)と前回から変更はなかった(図表2)。この結果、1回▲0.25%で25年、26年ともに年2回の利下げ方針が維持された。

もっとも、ドットチャートではFOMC参加者19名のうち、25年の政策金利の見通しで2回の利下げを予想した人数が前回の10人から9人に減少したほか、1回の利下げが前回の3人から4人、利下げなしが前回の1人から4人に増加した。このため、中央値に変更はなかったものの、平均値が前回から上方修正されるなど、政策金利の見通しには上方修正バイアスがかかっていたと言えよう。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年03月21日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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