2025年03月28日

サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(3)-消費者のサステナ意識・行動ギャップを解く4つのアプローチ

生活研究部 准主任研究員 小口 裕

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3――消費者のサステナビリティ行動を抑制する構造的要因

1|何が「サステナビリティ意識はあるが、行動に移しづらく」させているのか
これらの消費行動のパターン(4象限)に、先ほどの「持続可能性(サステナビリティ)に関する考え方」の7因子をプロットすると、サステナビリティ行動を抑制する「構造的な要因」が見えてくる。

最初に、サステナビリティ行動を促進する因子(因子1:責任意識、因子2:日常習慣意識(積極購入)、因子4:自分ごと意識(制約)、因子6:自分ごと意識(使命感))は、購入態度軸の「計画・合理的」や、「コスパ・機能性」側にある第三象限(左下)に寄って配置されていることが分かる。

したがって、本来ならこの第三象限の消費行動は、サステナブル行動を牽引するパターンであると言える。しかし、この象限は「新奇性への関心が低く、計画・合理的な購買行動を行う」特性を持つ。したがって、一般的な商品より新しく価格も高めに設定されることもあるエシカルな商品やサービスに対して9、合理的な消費行動という観点から必ずしも相性が良いとはいえない面もある。

一方で、第三象限には、「因子1:責任意識」「因子6:自分ごと意識(使命感)」も配置されている。このような責任意識や使命感が、本来であれば計画的・合理的になりがちな消費行動をサステナビリティ行動に誘導するインパクトを与えているとも考えられる。また、そのような構造が「経済的な余裕があれば/時間的な余裕があれば、サステナを意識した活動をしていきたい」という「因子4:自分ごと意識(制約)」の因子の配置にも反映されているとも考えられる。

前稿の「サステナビリティに関する日常行動」に関する分析で「買い物の時はエコバッグを持参する」「洗剤やシャンプーなどは詰め替えできる製品や量り売りのものを買う」「長く使える製品を買うようにしている」「リサイクル可能なゴミを分別する」など、コスト節減とのバランスを保ったサステナビリティ行動率が軒並み高めとなったのも、こうした構造的要因が影響しているものと思われる。

一方、第一象限(右上)に配置されている「因子5:社会との関わり意識」は、前稿の分析で若年層(20代)において高い傾向が見られた。しかし同時にこの象限は「新しい技術やサービスに強い関心を持ち、面白そう、便利そうと感じる」ことが行動動機となるため、環境への配慮や社会課題への関心に紐づく消費優先順位はそれほど高くないと考えられる。そのため、サステナビリティ行動が「面白そう、便利そう」という印象と結びつかなければ行動変容には十分につながりにくいと思われる。

次に、第二象限(左上)は「革新的なものや流行の最先端には興味が薄い一方で、『これを選べば間違いない』という確証が得られれば積極的に行動する」という象限である。

しかし、この象限では「サステナに関わる行動に興味はあるが、具体的に何をしたらよいか分からない/きっかけがない」という「因子7:障壁意識」がマイナスのインパクトを及ぼしており、サステナビリティ行動に対して十分に積極的になりきれていない様子がうかがえる。

消費者にとって十分な価値があるにもかかわらず、自身が購入する前にそれを調べることができず、使用後もその品質を識別することが難しい商品属性を先行研究では「信頼属性」10と呼び、知られている。たとえばファッションを例に用いると、サステナブル・コットン素材や、製造過程での CO2排出削減といった「信頼属性」は、購入時や着用後も消費者から評価が難しく、このようなサステナビリティ行動のストレスが「分からない」「確証がない」等の反応に繋がっている可能性がある。
 
9 Maguire, K. B., Owens, N., & Simon, nb. (2004),“The price premium for organic babyfood: a hedonic analysis”, Journal of Agricultural and Resource Economics, 132 149
10 Darby,M. R., & Karni, E. (1973), “Free competition and the optimal amount of fraud”, The Journal of law and economics, 16 (1), 67-88.
2|サステナブル行動を抑制する構造的要因とは~それぞれの要因を押さえた対処の必要性
このように4象限それぞれにおいて、サステナビリティ行動にインパクトを与える要因が異なっている。本来なら、サステナブル行動を牽引する第三象限を始めとして、いずれの象限でも、サステナビリティ行動を抑制する様な構造的要因を抱えている点は否めない。

この構造的要因が、消費者が「サステナビリティ意識はあるものの、行動に移しづらい」要因の一端を示していると言える。なお、これら4象限は、一人の消費者がいずれかの象限に所属するというより、1人の消費者の意識の中で、これら4象限がまばらに混成しあい、そのバランスやシーンに応じた強弱で消費行動やサステナビリティ行動が決定づけられている点には留意したい。また、このような多様な意識をもつ消費者の具体的な分類と、規模推計や詳細分析を別稿にて試みる予定である。

4――消費者のサステナビリティ行動促進に向けた「4つのアプローチ」

4――消費者のサステナビリティ行動促進に向けた「4つのアプローチ」

それでは、この結果から「サステナビリティに向けた行動変容をどのように促進していくのか」という課題(問い)に対し、どのような仮説が導き出せるのだろうか。4象限それぞれに構造的な問題があるものの、その要因は明らかであり、それぞれに適した施策を講じることは可能と考えられる。そこで、消費者のサステナビリティに向けた行動変容を促進する「サステナブル・マーケティング」に関する仮説として、いくつかの方向性を提示したい(図2)。

ここでは、消費者のサステナビリティ行動の代表ケースである「エシカル消費」を題材に、「実はエシカル」「これがエシカル」「だからエシカル」「ついでにエシカル」という4つの仮説を、分かりやすく単純化して示すことにする。前稿において「エシカル消費」の消費者認知・理解ともに十分に高いとはいえない点を指摘した。この点は2030年に達成期限を迎えるSDGs目標(特にゴール12「つくる責任 つかう責任」)の達成や、ポストSDGsの議論11の本格化に先立つ課題であると思われる。
図3 消費者のサステナビリティに向けた行動変容を促進する「サステナブル・マーケティング」の仮説試案
 
11 国連では2030年以降の開発目標に向けた本格的議論を今後、開始していく見通しである。国連「未来サミット」(2024年9月22日)では、グローバル・デジタル・コンパクト(デジタルガバナンスに関する初の国際的なコミットメント。テクノロジー企業とソーシャルメディア・プラットフォームの説明責任の拡大と偽情報やオンライン上での危害に対処する行動などが含まれる)と将来世代に関する宣言(将来世代に対する予見可能な危害を意識的に回避し、将来世代の利益を守る宣言) や「SDGsと資金」「平和と安全保障」が盛り込まれた「未来のための協定」が採択され、ポストSDGs議論の土台として期待されている。国内でも外務省が2024年4月「国際社会の持続可能性に関する有識者懇談会」を発足させ、「ウェルビーイングの向上」「持続的成長モデルの発信」などのポストSDGsに向けた日本のビジョン策定に着手している。
1|第一象限(右上)の消費行動パターンへの対処~「実はエシカル」アプローチ
第一象限(右上)は、先述の通り、若年層(20代)において多く見られる消費行動パターンである。しかし、この象限は「新しい技術やサービスに強い関心を持ち、面白そう、便利そうと感じる」ことが行動の主な動機となるため、その延長線上で「面白い、かつ実はサステナだったんだ」と気づけるような商品や体験が響きやすいと思われ、すなわち「実はエシカル」という方向性が有効ではないかと思われる。

例えば、廃材やリサイクル素材を用いてデザインされたアップサイクル製品やインテリアといった商品性が想定される。消費者が興味を持つ「面白さ」や「デザイン性」を備えつつ、サステナビリティの要素をさりげなく自然に組み込み「実は」と気づかせるアプローチといえる。
2|第二象限(左上)の消費行動パターンへの対処~「これがエシカル」アプローチ
第二象限(左上)は、新奇性への関心が低く、「これを選べば間違いない」という確証が得られれば積極的に転化するような消費行動パターンである。この象限に対しては、何をすればよいのかを明確に伝える「これがエシカル」という方向性が有効ではないかと思われる。

例えば具体例として、「有機JAS」「フェアトレード」といった環境認証ラベルの活用といったケースがわかりやすい。ラベルを明示し、消費者にとって「どの製品を選べばエシカルなのか」が分かりやすいガイドラインを提供することで、その行動変容を促すアプローチといえる。
3|第三象限(左下)の消費行動パターンへの対処~「だからエシカル」アプローチ
第三象限(左下)は、新奇性への関心が低く、計画的・合理的であることを重視するような消費行動パターンである。この象限に対しては、エシカル消費のメリットを可視化し、行動をとることへの納得感を高める「だからエシカル」という方向性が有効ではないかと思われる。

例えば、マイボトル利用でポイントを付与する仕組みや、レシートに「あなたのエコ行動で○円分貢献しました」と印字して貢献を可視化する等の取り組みがイメージされる。「こういう理由だからエシカルだ」とメリットを具体的に示すことで納得感と行動を引き出すアプローチといえる。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月28日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員

小口 裕 (おぐち ゆたか)

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴
  • 【経歴】
    1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

    2008年 株式会社日本リサーチセンター
    2019年 株式会社プラグ
    2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

    2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
    2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
    2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
    2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

    【加入団体等】
     ・日本行動計量学会 会員
     ・日本マーケティング学会 会員
     ・生活経済学会 准会員

    【学術研究実績】
    「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
    「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
    「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
    「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
    「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
    「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

    *共同研究者・共同研究機関との共著

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レポート紹介

【サステナビリティに関する意識と消費者行動2024(3)-消費者のサステナ意識・行動ギャップを解く4つのアプローチ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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