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ヘルスケアサービスのエビデンスに基づく「指針」公表

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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3――エビデンス構築に向けた「指針」策定
エビデンスの構築においては、特に、生活習慣における行動変容等を促す等の非薬物的介入手法では、「未病」の人々が対象となるため、RCT(ランダム化比較試験)などの比較試験の実施が難しく、エビデンスの構築に向けたデータの収集・分析・検証の方法が十分に確立されていない10ことが指摘されており、民間主導でエビデンスが構築されにくい。また、サービス利用者(健康経営企業、健保組合、自治体、個人利用者等)にとっても、ヘルスケアサービスをどういう基準で選択すれば良いか判断するのが難しいことがある。
このような環境のもと、AMED(日本医療研究開発機構)は、医学系学会や経済産業省と連携して、デジタルヘルスケアサービスを活用した予防・健康づくりの非薬物的介入手法をまとめた「指針」の策定を進めている。例えば、「さまざまなウェアラブルデバイスによる介入は,成人の血圧に有益な効果をもたらすか?」といったヘルスケアクエッションに対して、「成人へのさまざまなウェアラブルデバイスによる介入のエビデンスは不十分のため,推奨・提案を保留する」といった推奨文とともに、研究事例の解説と、上記判断に至った経緯の解説を行うものとなっている。指針を策定することで、多様なヘルスケアサービスの信頼性の確保、実用化と産業創出を行うことが可能となり、利用者に、エビデンスに基づいたサービスを提供することが可能となる。
さらに、その効果や信頼性を、サービス提供事業者、アカデミア、利用者の間で認めていく仕組みを作っていくことが必要となる。
10 AMED E-LIFEヘルスケアナビ(https://healthcare-service.amed.go.jp/)
ヘルスケアサービスのエビデンス構築状況は、疾患領域ごとに多様である。AMEDでは、特にエビデンス構築が喫緊の課題となっている領域を重点的にとりあげ、指針は、高血圧や糖尿病、慢性腎臓病などの10疾患領域を対象としている。2024年度は、そのうち、中年期の高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、老年期の認知症、サルコペニア・フレイル、職域のメンタルヘルス、女性の健康の7分野における1次予防(生活習慣の見直し等によって、原因の排除やリスクの低減を図ること)について策定されている。2025年度は、社会復帰を見据えて、働く世代の脂肪肝関連疾患、循環器疾患、女性の健康の3分野における2次予防(早期発見、早期治療を行うことで、疾病や障害の重症化を予防すること)、3次予防(リハビリテーションや再発防止をすることで、社会復帰できる機能を回復・維持すること)について策定される予定となっている。指針は、E-LIFE ヘルスケアナビ(https://healthcare-service.amed.go.jp/)で公表されている。
重点的にとりあげられている分野別にみると、生活習慣病とメンタルヘルスはエビデンス構築が進んでおり、エビデンスレベルの高いRCTによるエビデンス蓄積も進んでいる。一方、女性の健康や認知症、フレイルはこの2疾患に比べるとエビデンスの構築が遅れており、特にフレイルはRCTによるエビデンスの構築が遅れている。また、デジタルサービスについては、これら分野のうち、生活習慣病と女性の健康はデジタルに関するエビデンス構築の割合が少ない11。
現在、公表されている指針では、ヘルスケアクエッションに対して、まだ研究事例が少ないことなども踏まえて判定を保留しているものもあり、今後、さらに分析が進められていくものと考えられる。
11 AMED「ヘルスケアサービスの エビデンスに基づく社会実装基盤整備に関する調査最終報告書」(2022年12月)https://www.amed.go.jp/content/000107346.pdf
4――おわりに
個人が利用するサービスの中では、無料のサービスについで、勤務先が提供するサービスが利用されている。企業や自治体は「データヘルス計画」に基づき、健康増進への取り組みを強化しているが、サービス提供事業者の選定基準や評価基準が不明確であることが課題となっている。
経済産業省は、ヘルスケア市場の拡大を目指し、AMEDと健康サービスの指針策定を進めている。現在、公表されている指針では、まだ事例が少ないことなども踏まえて判定を保留しているものが多く、今後、さらに分析が進められていくものと考えられる。ヘルスケアサービスの指針を利用することで、多様なヘルスケアサービスの信頼性の確保、実用化と産業創出を行うことが可能となり、利用者に、エビデンスに基づいたサービスを提供することが可能となると考えられる。今後、その効果や信頼性を、サービス提供事業者、アカデミア、利用者の間で認めていく仕組みを作っていくことが必要となる。
こういった指針をもとに、個人も、個人にサービスを提供する企業や自治体も、有効なサービスを選びやすくなると思われる。しかし、サービスの内容は多岐にわたると考えられるため、今回の指針にはない新しい分野のサービスについてもエビデンスが構築されることを期待したい。
(2025年03月25日「基礎研レポート」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
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