2025年03月14日

株式インデックス投資において割高・割安は気にするべきか-長期投資における判断基準について考える

金融研究部 熊 紫云

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安定した老後生活を送るために、長期的な資産形成への関心が高まっている。十分な老後資金を準備するには、長期投資で一定以上のリターンを確保することが必要かつ有効である。これまで筆者は、S&P500など成長が見込める株式インデックスに長期投資を行うことで、高いリターンを得られる可能性が高いことを過去データで検証した1
 
それでは適切な投資対象を選んだとして、いつ投資したら良いのだろうか。日常生活で商品やサービスを購入する際に「高い・安い」を常に判断しているように、長期投資においては、できるだけ割安のときに購入し、割高のときには購入を避けたいと考えるのは自然である。実は、株式インデックス投資においても「割高か割安か」を判断するために、PBR、PERといった投資指標がよく使われている。
 
このレポートでは、代表的な指標であるPBR、PER、益利回り、リスクプレミアムを紹介し、長期投資におけるそれらの指標の有効性について、過去データを用いて考察する。

1――株価の割高・割安を測る代表的な指標

1――株価の割高・割安を測る代表的な指標

1PBR(Price Book-value Ratio、株価純資産倍率)
PBRは、株価を1株当たりの純資産額(BPS: Book value Per Share)で割って算出され、株価がBPSの何倍まで買われているかを示す。PBRが高いほど、純資産に比べて株価が割高で、低いほど株価が割安であると判断される。

2004年1月末からの株式インデックスとPBRの推移を見ると、S&P500のPBRは株価と連動して上昇し、直近(2024年12月末)では4.5倍を超えている。一方で、TOPIXは株価が上昇しているものの、PBRはそれに連動しておらず、おおむね0.8倍~2倍の範囲内で推移していることが分かる(図表1)。
【図表1】S&P500、TOPIXとPBRの推移
2PER(Price Earnings Ratio、株価収益率)
PERは、株価を1株当たりの純利益(EPS: Earnings Per Share)で割って算出され、株価がEPSの何倍まで買われているかを示す。一般的に、PERが高いほど株価は割高で、PERが低いほど株価は割安であると判断される。
 
2004年1月末からの株式インデックスとPERの推移を見ると、S&P500は上昇しているものの、PERは10倍から23倍の範囲内で推移している。一方、TOPIXは2008年のリーマン・ショックを経て上昇しているものの、PERはおおむね10倍から20倍の範囲で推移していることが分かる(図表2)。
【図表2】S&P500、TOPIXとPERの推移
3益利回り(Earnings Yield、PERの逆数)
益利回りは、1株当たりの純利益(EPS)を株価で割って算出され、株価に対して1株あたりでどれくらいの純利益を上げているかを示す。一般的に、益利回りが相当に高い(PERが相当に低い)場合は割安で、益利回りが相当に低い(PERが相当に高い)場合は割高と判断される。

2004年1月末からの株式インデックスと益利回りを並べると、S&P500の益利回りが4%から10%の範囲で推移している。一方、TOPIXの益利回りが3%から10%の範囲で推移していることが分かる(図表3)。なお、S&P500では株価と益利回りはやや逆相関の動きをしているように見えるが、TOPIXでは連動しているようには見えない。
【図表3】S&P500、TOPIXと益利回りの推移
4リスクプレミアム(Risk Premium、益利回り - リスクフリーレート)
リスクプレミアムは、益利回りからリスクフリーレートを引いて算出される。金利変動の影響を除いた、投資家のマインドや債券との相対的な魅力度を表す。一般的に、リスクプレミアムが高いほど投資家が悲観的で国債利回りに対する魅力度が高まる一方で、リスクプレミアムが低いほど投資家が楽観的で国債利回りに対する魅力度が低下すると判断される。
 
リスクフリーレートを10年国債利回りとした場合に、2004年1月末からの株式インデックスとリスクプレミアム、益利回りの推移を見ると、S&P500は0%から6%の範囲で、TOPIXは2%から9%の範囲で推移していることが分かる(図表4)。TOPIXのリスクプレミアムは、日本の低金利環境においては、リスクフリーレートがあまり変動していなかったため、益利回りとほとんど同様の動きをしている。一方、S&P500のリスクプレミアムは金利の変動によって益利回りと異なる動きを示す場合がある点に注意が必要である。
【図表4】S&P500、TOPIXとリスクプレミアムの推移
以上のように、割高・割安を測る代表的な指標の見方について、図表5にまとめた。次章では、過去データを用いて、「割高のときは購入を避け、割安のときに購入する」という投資方法が有効なのか、検証してみたい。
【図表5】一般的な見方

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月14日「基礎研レポート」)

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