2025年02月12日

がん検診で「要精密検査」は何%?

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

文字サイズ

1――はじめに

国は、一定年齢以上になると定期的にがん検診を受けることを推奨している(図表1)。

がん検診は、検診の目的によって「対策型がん検診」と「任意型がん検診」に分けられることがある。いずれもがんを早期に発見することを目的としているが、前者は対象集団全体の死亡率減少を目的とし、有効性が確立された検査方法で実施される。公共的な予防対策として実施されるため、無料または少額の自己負担で受けられる。自治体が実施する住民検診がこれに該当する。後者は個人の死亡リスクを下げることを目的とし、医療機関・検診機関が任意で提供する医療サービスで、原則として全額自己負担となる。人間ドック等がこれに該当する。
図表1 国が推奨するがん検診

2――「要精密検査」と判定されるのはがん検診受診者の1.5%~6%

2――「要精密検査」と判定されるのはがん検診受診者の1.5%~6%、がんが発見されるのは検診受診者の0.03~0.33%(住民検診)

上述のとおり、住民検診などの対策型がん検診は、「対象集団全体の死亡率減少を目的として、有効性が確立された検査方法で実施」されている。ここでいう「対象集団」とは、がんの症状がない検査対象年齢の住民全体を指し、受診者を以下のプロセス指標を用いて、がん検診が適切に行えているかをモニタリングしている。

(1) 要精検率(要精密検査率): 検診を受けた人のうち、精密検査が必要と判定された割合
(2) 精検受診率(精密検査受診率): 要精密検査と判定された人のうち、実際に精密検査を受けた割合
(3) がん発見率1: がん検診受診者数のうち、がんが見つかった割合
(4) 陽性反応適中度: 精密検査を受けた人のうち、がんが見つかった割合
(5) 精検未把握率(精密検査未把握率): 要精密検査と判定された人のうち、精密検査を受けたかどうか把握していない割合
(6) 精検未受診率(精密検査未受診率): 要精密検査と判定された人のうち、精密検査を受けなかった割合

図表1に示す5つのがんについて、住民検診については、各指標が都道府県別に公表されており、2021年の全国平均は図表2のとおりである。

例えば、胃がん検診を受診した1万人のうち、要精密検査と判定されたのは574人((1)要精検率=574/10000≒6%)、そのうち485人が精密検査を受け((2)精検受診率=485/574≒84%)、実際にがんが見つかった人数は10人((3)がん発見率=10/10000≒0.1%、(14)陽性反応的中度=10/574≒2%)だったという計算になる。なお、図表2では省略したが、(5)精検未把握者と(6)精検未受診者は89人となった。
図表2 “住民検診”におけるがん発見状況(それぞれ、がん検診受診者を10,000人とした場合)
 
1 子宮頸がんについては、前がん病変等を含む。

3――精度管理における現状

3――精度管理における現状

1|対策型検診
受診率や精検受診率は高いほうが望ましく、精検未把握率と精検未受診率は低いほうが望ましいが、要精検率、がん発見率、陽性反応適中度は高すぎても低すぎても問題である。例えば、要精検率やがん発見率が高すぎる場合は、がんの症状がある人が受診している可能性があり、低すぎる場合はリスクの低い年齢層に偏っている可能性等が考えられる。想定している住民にがん検診が行き届いていない可能性があれば、がん検診の案内を見直す等、プロセス指標を管理する精度管理は、検診の技術・体制管理や死亡率(アウトカム指標)の評価とともに住民検診の適切な運用に不可欠となっている。
2|任意型検診
住民検診以外に利用されているのが職域検診と人間ドックである。2022年の厚生労働省の「国民生活基礎調査」によれば、がん検診を受けた人の30~70%程度2が「勤め先等で受けた」、10~30%程度が「その他(市区町村、勤め先等以外)で受けた」と回答しており、がん検診受診者全体では、任意型検診を受けている人の方が多い。

対策型検診の中心である住民検診では、上述のとおり精度管理が行われている一方で、職域検診3は、法的根拠がなく、保険者や事業者が、福利厚生の一環として任意で実施しているものであり、検査項目や対象年齢等、検診の実施方法は統一されていない4。また、法定外健診項目として取り扱われることから社内で健康情報,特にがん検診の判定結果(がんの疑い)などの機微な健康情報の扱いは,労働法と個人保護法の観点から敬遠され,精度管理に対して阻害要因となっている5。こういった指摘をふまえて、2018年に職域検診における指針として、「職域におけるがん検診に関するマニュアル」が厚生労働省より示されているが、利活用は進んでいない6とされている。

厚生労働省が2023年7~9月に被用者保険者を対象に行った調査によれば、2022年度にがん検診を行った保険者の9割以上が何らかの形で検診費用を補助しているが、要精密検査対象者を把握しているのは35%程度にとどまる。また、把握していても、要精密検査対象者への受診勧告を実施しているのは75%程度、要精密検査対象者の受診状況を確認しているのはその80%程度にとどまっていた7

人間ドックは、学会が中心となって、設備機能や検査方法や判定基準についての指針を出しているが、住民検診では受けられない検査方法も機関ごとに独自に取り入れていたり、判定区分が機関によって異なり8、住民検診のような精度管理は難しい。
 
2 部位別・受診間隔別に、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がんを40~69歳、子宮頸がんを20~69歳で再集計した結果、「勤め先等」は肺がん・過去1年の受診が70.1%でもっとも高く、子宮がん(子宮頸がん)・過去2年の受診が37.9%でもっとも低かった。「その他(市区町村、勤め先等以外)」は子宮がん(子宮頸がん)・過去2年の受診が28.2%でもっとも高く、肺がん・過去1年の受診が10.9%でもっとも低かった。
3 村松容子「職域におけるがん対策の現状」ニッセイ基礎研究所 保険・年金フォーカス(2022年1月26日)https://www.nli-research.co.jp/files/topics/70008_ext_18_0.pdf?site=nli
4 厚生労働省「職域におけるがん検診に関するマニュアル」(2018年3月)(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000204422.pdf、2025年2月3日アクセス)
5 立道昌幸、深井航太、古屋佑子、中澤祥子「職域におけるがん検診の精度管理に関する課題と解決のための提言(早期公開)」日本消化器がん検診学会雑誌2024年62巻3号p.231-239(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsgcs/advpub/0/advpub_23011/_pdf/-char/en、2025年2月3日アクセス)
6 厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「がん検診の精度管理における指標の確立に関する研究」(研究代表:高橋宏和)(https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/162203、2025年2月3日アクセス)
7 厚生労働省 第40回がん検診のあり方に関する検討会(2023年12月)「被用者保険におけるがん検診の実施状況について」(https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001179385.pdf、2025年2月3日アクセス)
8 厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「がん検診の精度管理における指標の確立に関する研究」(研究代表:高橋宏和)(https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/156494、2025年2月3日アクセス)

4――おわりに

4――おわりに

以上見てきたとおり、がん検診で要精検者は、1万人におよそ150~600人、実際にがんが発見される人は、1万人におよそ3~33人だった。ただし、これは住民検診の結果で、職域検診や人間ドックでは、住民検診のような精度管理は実施していないため把握できない。

厚生労働省の「がん検診のあり方に関する検討会」は2024年7月に「がん検診事業のあり方について」を公表した。これによれば、職域検診も法的な枠組みに組み込み、システム、指標をそろえて対策型検診との統合を目指すべきとされ、将来的には住民検診と同様のシステムを構築することを確認している。また、第4期がん対策推進基本計画において、レセプトやがん登録情報をがん検診の精度管理に活用していく方針が示されているなど、今後精度管理に重点がおかれていくようだ。

職域検診の精度向上を目的としたガイドライン作成など、より効果的ながん検診の実施に向けた議論が進められている。がん検診の精度管理を強化し、適切な検査を提供することで、がんの早期発見と死亡率の低下を目指す必要がある。

(2025年02月12日「基礎研レター」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【がん検診で「要精密検査」は何%?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

がん検診で「要精密検査」は何%?のレポート Topへ