2025年02月10日

米雇用統計(25年1月)-非農業部門雇用者数は前月比+14.3万人と市場予想(+17.5万人)を下回る一方、失業率は低下

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

文字サイズ

1.結果の概要:雇用者数は市場予想を下回った一方、失業率は横這い予想に反して低下

2月7日、米国労働統計局(BLS)は1月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+14.3万人の増加1(前月改定値:+30.7万人)と+25.6万人から大幅に上方修正された前月を大幅に下回ったほか、市場予想の+17.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も下回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.0%(前月:4.1%、市場予想:4.1%)と前月から▲0.1%ポイント低下し、横這いを見込んだ市場予想を下回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.6%(前月:62.5%、市場予想:62.5%)と前月から+0.1%ポイント上昇、横這いを見込んだ市場予想を上回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:1月の雇用増加ペースは鈍化も労働市場の堅調を確認

1月の非農業部門雇用者数(前月比)は前月から大幅に低下したものの、過去2ヵ月分が合計+10.0万人の大幅な上方修正となった結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+23.7万人と24年6-8月期の+8.2万人を底に大幅に増加したほか、23年3月以来の水準となっており、足元で雇用増加ペースが再加速していることが示された。

一方、失業率も2ヵ月連続で低下し、24年5月以来の水準となるなど、労働需給が逼迫している状況を示した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 労働需給の逼迫を反映して賃金上昇率は加速した。時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.5%(前月:+0.3%、市場予想:+0.3%)と23年3月以来の水準に上昇した。前年同月比は+4.0%(前月改定値:+4.1%、市場予想:+3.8%)と+3.9%から上方修正された前月に一致、改定前の水準から低下を見込んだ市場予想を上回った(図表1)。

このようにみると、1月の雇用統計は非農業部門雇用者数の前月比こそ市場予想を下回ったものの、過去2ヵ月分の大幅な上方修正を加味すれば依然として堅調な雇用増加が続いていることを確認したほか、失業率の低下や賃金上昇率の加速など労働市場が引続き堅調であることを確認する結果と言えよう。このため、次回3月のFOMC会合では政策金利を据え置く可能性が大幅に高まった。

3.事業所調査の詳細:広範なサービス業種で雇用の伸びは鈍化

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+11.1万人(前月:+27.5万人)と前月から雇用の伸びが大幅に鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、小売業が前月比+3.4万人(前月:+3.6万人)と概ね前月並みの伸びを維持したほか、医療・社会扶助サービスが+6.6万人(前月:+8.1万人)と前月から伸びは鈍化したものの、堅調な雇用増加を維持した。一方、運輸・倉庫が+0.1万人(前月:+2.2万人)と前月から伸びが鈍化したほか、専門・ビジネスサービスが▲1.1万人(前月:+3.1万人)、娯楽・宿泊業が▲0.3万人(前月:+4.9万人)とマイナスに転じた。

財生産部門は前月比横這い(前月:▲0.2万人)と前月からマイナス幅が縮小した。建設業が+0.4万人(前月:+1.3万人)と前月から伸びが鈍化した一方、製造業が+0.3万人(前月:▲1.2万人)と前月からプラスに転じて財生産部門の雇用を押し上げた。

政府部門は前月比+3.2万人(前月:+3.4万人)と前月から小幅ながら伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府が+0.9万人(前月:+0.6万人)と前月から小幅ながら伸びが加速した一方、州・地方政府が+2.3万人(前月:+2.8万人)と前月から伸びが鈍化して政府部門全体を押し下げた。
前月(12月)と前々月(11月)の雇用増加数(改定値)は前月が+30.7万人(改定前:+25.6万人)と+5.1万人の大幅な上方修正となったほか、前々月が+26.1万人(改定前:21.2万人)と+4.9万人の大幅な上方修正となった。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+10.0万人の大幅な上方修正となった(図表3)。なお、今月は昨年の年次改訂も発表された。雇用者数の水準は24年3月が▲58.9万人の大幅な下方修正となった。これは24年8月に発表された速報ベースの▲81.8万人からはマイナス幅が縮小したものの、09年以来の改定幅となった。この結果、24年の月間平均増加ペースは従前の+18.6万人から+16.6万人に▲2.0万人下方修正された。
 
BLSの公表に先立って2月5日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+18.3万人(前月改定値:+17.6万人、市場予想:+15.0万人)と+12.2万人から大幅上方修正された前月、市場予想を上回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用の伸びが鈍化した雇用統計とは不整合な動きとなった。

1月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が35.87ドル(前月:35.70ドル)となり、前月から+17セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.1時間(前月:34.2時間)と前月から▲0.1時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,223.17ドル(前月:1,220.94ドル)と前月から増加した(図表4)。
 
(図表3)2024年改定の結果/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は上昇、失業率は低下

家計調査のうち、1月の労働力人口は前月対比で+9.1万人(前月:+24.3万人)と前月から伸びが鈍化した3。内訳を見ると、失業者数が▲14.2万人(前月:▲23.5万人)と前月からマイナス幅が縮小したものの、就業者数が+23.4万人(前月:+47.8万人)と前月から伸びが鈍化して、労働力人口全体を押し下げた。非労働力人口は+8.5万人(前月:▲6.8万人)と前月からプラスに転じた。これらの結果、労働参加率は62.6%と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は1月が83.5%(前月:83.4%)と前月から+0.1%ポイント上昇した。男女の内訳は、女性が77.7%(前月:77.9%)と前月から▲0.2%ポイント低下した一方、男性が89.4%(前月:89.0%)と前月から+0.4%ポイント上昇して全体を押し上げた。

1月の失業率は前述のように2ヵ月連続で低下しており、足元で労働需給の逼迫がみられる(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
1月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は144.3万人(前月:155.1万人)となったほか、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは21.1%(前月:22.4%)となった(図表7)。平均失業期間は22.0週(前月:23.7週)となった。

最後に、周辺労働力人口(159.0万人)4や、経済的理由によるパートタイマー(447.7万人)も考慮した広義の失業率(U-6)5は、2月が7.5%(前月:7.5%)と前月から横這いとなった(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.5%ポイント(前月:+3.4%ポイント)と前月から+0.1%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 2025年から人口推計を変更しているため、2024年と断層が生じている。ここで記載している労働力人口、就業者数、失業者数、非労働力人口はこの断層を調整した後のもの。
4 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
5 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年02月10日「経済・金融フラッシュ」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

【米雇用統計(25年1月)-非農業部門雇用者数は前月比+14.3万人と市場予想(+17.5万人)を下回る一方、失業率は低下】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

米雇用統計(25年1月)-非農業部門雇用者数は前月比+14.3万人と市場予想(+17.5万人)を下回る一方、失業率は低下のレポート Topへ