2025年01月30日

米FOMC(25年1月)-予想通り、4会合ぶりに政策金利を据え置き。利下げを急がない姿勢を明確化

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、4会合ぶりに政策金利を据え置き

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が1月28日-29日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、政策金利を4会合ぶりに4.25-4.5%で据え置いた。量的引締め政策の変更はなかった。今回の金融政策方針は全会一致での決定となった。

今回発表された声明文では、景気判断部分で労働市場に関する判断が上方修正された。また、インフレに関して「委員会の2%目標に向けて進展した」との文言が削除された。ただし、パウエル議長はFOMC会合後の記者会見で声明文の変更を「文言の整理」と説明し、何らかの意図を伝えるためではなかったことを強調した。経済見通し部分や金融政策ガイダンス部分の変更は無かった。

2.金融政策の評価:トランプ政権の政策に伴う不透明感もあり、利下げを急がない姿勢を明確化

政策金利の据え置きは予想通り。また、声明文の変更が小幅に留まったのも予想通りだった。

パウエル議長の記者会見では、雇用とインフレの目標達成に対するリスクがほぼ均衡しているとの見解が示された。また、現在の政策スタンスは有意に景気抑制的とした上で、24年9月以降の計1%ポイントの利下げによって、以前より大幅に緩和されているとし、経済が好調を維持する中で政策スタンスの調整を急ぐ必要はないとした。同議長は利下げを検討する前にインフレ率に実質的な進展がみられるか、あるいは労働市場に何らかの弱さがみられるか注目しているとした。さらに、トランプ政権が発足し、関税、移民、財政、規制の政策4分野における重大な政策転換のために通常より経済見通しの不確実性が高まっているとして、暫く様子見をすることが示された。このため、FRBは当分利下げを急がない姿勢を明確化したと言えよう。

一方、トランプ大統領がエネルギー価格の下落を条件に利下げを求めるなど政治的な圧力への懸念について質問された際、同議長はこれまで大統領からの接触はないと回答した。

当研究所は本日のFOMC会合を受けて、これまでの3月会合での利下げ見通しを見直し、次回3月会合までに余程のインフレや雇用統計の下振れがない限り、3月会合では政策金利を据え置くと予想する。現状では25年内2回の利下げ予想は維持するものの、1回の利下げに留まる可能性が高まっていると言えよう。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • これらの目標達成を支えるため、委員会はFF金利の誘導目標水準を0.25%ポイント引き下げ、4.25-4.5%とすることを決定(今回削除)
  • これらの目標を支えるため、委員会はFF金利の誘導目標水準を4.25-4.5%で据え置くことを決定(今回追加)
  • 財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • FF金利の目標レンジの追加的な調整の程度とタイミング検討する際には、委員会は入ってくるデータ、進展する見通し、およびリスクのバランスを注意深く評価する(変更なし)
  • 委員会は最大限の雇用を支え、インフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 最近の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大を続けていることを示唆している(変更なし)
  • 年初来、労働市場の状況は概ね緩和してきた、失業率は上昇したが低水準を維持している(今回削除)
  • 失業率はここ数ヵ月低水準で安定しており、労働市場の状況は引き続き堅調である(今回追加)
  • インフレ率はやや高止まりしている(前回あった「委員会の2%目標に向けて進展したが」“Inflation has made progress toward the Committee’s 2 percent objective but”の表現が削除)
 
(景気見通し)
  • 委員会は雇用とインフレの目標達成に対するリスクはほぼ均衡していると判断している(変更なし)
  • 経済見通しは不透明であり、委員会はデュアル・マンデートの両サイドのリスクに高い注意を払っている(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 経済は全体として堅調であり、過去2年間、目標に向けて大きく前進してきた。労働市場の状況はかつての過熱状態から冷え込み、堅調を維持している。インフレ率は、やや高止まりしているものの、長期目標である2%に大きく近づいた。
    • 我々の目標達成を支えるため、本日、連邦公開市場委員会は政策金利の据え置きと、保有有価証券の削減の継続を決定した。
    • 過去3回の金融政策決定会合で、我々は政策金利をピーク時から1%ポイント引き下げた。政策スタンスの再調整は、インフレの進展と労働市場のリバランスに照らして適切だった。
    • 我々は雇用とインフレの目標達成に対するリスクはほぼ均衡しているとみており、マンデートの両側面におけるリスクに注意を払っている。我々の政策スタンスは以前より大幅に緩和され、経済は好調を維持しているため、我々は政策スタンスの調整を急ぐ必要はない。
    • 金融政策の枠組み関する5年間の見直し議論を開始した。我々は夏の終わりまでにレビューを終えるつもりだ。委員会の2%の長期インフレ目標は維持され、見直しの焦点とはならない。
 
  • 主な質疑応答
    • (大統領から利下げ要求はあったのか、政策への影響は?)大統領の発言について、何の反応もコメントするつもりもない。我々はこれまで通り、目標達成のためにツールを駆使し、本当に頭を低くして仕事に集中する。大統領からの接触はない。
    • (前回の会合では政策スタンスが有意に景気抑制的と述べていたが、その後評価が変わったか?)評価は変わっていない。過去1年を振り返れば、政策が景気抑制的だったことが分かる。1%の利下げによって利下げ開始前に比べて政策金利の景気抑制的な度合いは大幅に緩和されている。そのため、調整を検討する前に、インフレ率に実質的な進展がみられるか、あるいは労働市場に何らかの弱さがみられるか注目している。
    • (声明文でインフレに関する記述が変更されたが、どのように解釈すべきか?)最初の段落をみれば分かるが、文言を少し整理した。インフレ率は2%目標と一致する良い数値が2つ続いている。これは何らかの意図を伝えるためのものではない。
    • (現政権の財政政策が不透明なため、中長期的な経済予測の確信度は低下しているのか?)予測はいつも不確実だが、関税、移民、財政、規制の政策4分野における重大な政策転換のために不確実性が高まっている。経済予測は1~2ヵ月先まで本当に難しい。それらをこなせば通常の不確実性に戻るだろう。我々は様子をみるつもりだ。
    • (移民の流入減や強制送還の増加に伴う失業率の影響は?)国境を越えて流入する人数が非常に減少している一方、雇用創出も少し減少している。このため、この2つが一緒に減少すれば失業率が安定する理由になる。
    • (金融政策の枠組み議論で2%のインフレ目標は検討対象にならないとした理由は?)2%目標は長い間、我々の目標達成に役立ってきたと思う。また、これは世界標準でもある。中央銀行がこれを変えたいと考えたとしても、目標を達成できないときには、目標を変更することはない。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年01月30日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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