2025年02月07日

新NISAは日本株式を押し上げたのか

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.335]

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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1―新NISAから日本株への流入は?

2024年の日本株式は年初から上昇し、7月上旬に日経平均株価、TOPIXが史上最高値を更新した[図表1]。その後は方向感の乏しい展開となったが、それでも日経平均株価、TOPIXともに1年間で15%以上上昇した。
[図表1]日経平均株価とTOPIXの推移
2024年は、少額投資非課税制度(NISA)が新NISAとして、大幅に制度拡充されて生まれ変わった。年間の投資枠が、これまでと比べて倍以上に増えた。それに伴って、NISA口座からの買付が投資信託、上場株式ともに大幅に増えている[図表2]。

この新NISAからの買付が日本株式を押し上げたようにも見える。しかし、投信市場や日本株式市場の情報を精査すると、2024年に入ってから個人の資金が日本株式に向かう動きは限定的であった。
[図表2]NISA口座における商品別買付額

2―投信経由は増えているが限定的

まず、主に日本株式で運用している新NISA対象の投資信託の売買動向を見ると、2024年もそれ以前と同様に株価の変動に合わせて売買される傾向があった。インデックス型を中心に日本株式が上昇すると売却が膨らみ、下落すると買付が膨らんでおり、買付が顕著に増えている様子は見られなかった[図表3]。

ただし、一部で変化の兆しが見られた。多少は、新NISAによって買付が増えている可能性もありそうである。

例えば2024年は設定額が、指数に連動するいわゆるインデックス型だと1,500億円、全体だと3,000億円を上回り続けている。2023年以前は、インデックス型だと1,000億円未満、全体だと2,000億円を下回っている月があった。買付が少ない月の水準が、2024年に入ってから切りあがっている。

また、2024年は利益確定売りが出やすい環境であり、以前なら売却超過に陥ってもおかしくなかったが、11月までで1.2兆円買い越されている。特に1月から3月は、日本株式が大きく上昇した割に買付が多かった。
[図表3]主に日本株式で運用している新NISA対象投資信託の設定額と解約額

3―個別銘柄は売り越し

次に個人の日本株式の個別銘柄の売買を、NISA口座から信用取引ができないため現金取引で見ると、11月までの月間で買い越されたのは4月のみであった[図表4]。2024年に入ってからの売り越しの累計額は、9月までだと4.1兆円、さらに11月までだと5.6兆円に膨らんでいる。2024年は非常に売られやすい投資環境だったため、NISA口座からの買付が増えたことによって、これくらいの売り越しで収まったと見ることもできる。
[図表4]二市場(東証・名証)の個人の株式売買の推移
そこで、一般NISAが始まった2014年からの日経平均株価の月間騰落率と個人の現金での株式売買の関係を見た[図表5]。日経平均株価が上昇すると売り越され、下落すると買い越される逆張り投資の傾向があるが、2024年も2014年から2023年と同じような傾向になっていた。つまり、過去10年と比べて買付が増えている様子は見られなかった。
[図表5]個人の株式売買(縦軸)と日経平均株価の騰落率(横軸)

4―投信は外国株式選好

このように、新NISAの買付に伴う日本株式への個人の資金流入が限定的であった直接的な理由は、3つ考えられる。

まず1つめの理由として、NISA口座から投資信託の買付けは大部分が外国株式であったことである。

組入れている資産別に新NISA対象の投資信託の設定額を見ると、外国株式が日本株式以上に急増している[図表6]。証券会社10社のNISA口座からの買付上位10本の投資信託の傾向を見ても、投資枠によらず外国株式ものが中心に買付けられていることが分かる[図表7]。
[図表6]組入れられている資産別の新NISA対象投資信託の設定額
[図表7]証券会社の10社のNISA買付上位10本の投資信託の投資先地域

5―個別銘柄については短期売買

その一方で、NISA口座からの上場株式の買付については、証券会社10社だと約9割が日本株式となっており、大部分が日本株式の個別銘柄であった。

しかし、NISA口座から買付けられた個別銘柄は、一部が早くも売却されているようだ。これが2つ目の理由としてあげられる。

元々、一般NISAでは上場株式の売却が毎年それなりに出ており、2014年から2023年の累積で上場株式を13.1兆円買付けられたが、残高は5.5兆円にとどまった[図表8]。新NISAになっても、その傾向が続いていることが考えられる。
[図表8]一般NISA口座から上場株式の買付額と売却額
実際に証券会社9社の2024年7月から8月上旬までのNISA口座からの買付額と売却額を見ると、上場株式は投資信託と比べて買付が少ないわりに売却が多くなっていた[図表9]。

特に7月上旬は、売却額が同時期の買付額の3/4に達した。日経平均株価が史上最高値を更新するなど日本株式が最高値圏で推移する中、利益確定の売却が膨らんだことが見て取れる。
[図表9]2024年7月から8月の証券会社9社のNISA口座からの買付額と売却額

6―課税口座などからの買替も発生

さらに3つ目の理由として、上場株式に限った話ではないが一部で課税口座や一般NISA口座からNISA口座への買い替えがあったことである。

個人の日本株式の売買は、2024年に入ってから急増している。2023年秋にネット証券大手2社が日本株式の個別銘柄の売買手数料を無料化して、個人の株式売買がよりしやすくなっていた。そこに2024年は日本株式が好調となったため、活況となったと考えられる。

取引の急増自体は投資環境によるところが大きかったが、課税口座や一般NISA口座から新NISAへの買い替えがあったことも背景にあっただろう。

つまり、新NISAをきっかけに日本株式に入ってきた個人の新規資金、特にとどまり続ける新規資金は、想像以上に少なかったと推察される。

そもそも新NISAによって個人投資家が増えているといっても、実際に増えているのは投資経験の浅い人である。そのような人が、いきなり個別銘柄に手を出すとは考えにくい。日本株式を買い付けるとしても、投資信託経由であろう。

それもあって日本株式の個別銘柄の売買については、新NISAの影響が投資信託以上に限定的になっているのかもしれない。

7―最後に

このように新NISAが始まっても個人の資金が日本株式に向かわなかった背景には、投資先として日本株式を魅力的に感じていない人が多いことがある。

日本株式自体の投資魅力が高まってこないと、2025年以降も個人の外国株式選好や日本株式の短期売買志向が続く可能性が高そうである。

(2025年02月07日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

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