コラム
2024年06月13日

新NISAに対する2つの懸念~順調なスタートを切ったが早くも息切れか?~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

順調なスタート

2024年からいわゆる新NISAとして大幅に制度拡充されて生まれ変わった少額投資非課税制度(NISA)。2024年3月末で2,322万口座と2023年末の2,136万口座から186万口座増えた【図表1】。NISA口座の増加数はこれまで制度開始の2014年を除くと2023年の335万口座、四半期だと新NISA開始直前の2023年10-12月の101万口座が最大だった。それが新NISA開始直後の2024年1-3月は2023年10-12月からさらに口座開設が加速したことが分かる。
【図表1】 NISAの口座数(線グラフ)と口座増加数(棒グラフ)
年代別の口座数をみると40歳代が448万口座と最大となっている【図表2】。人口に対する口座保有割合でみると相変わらず30歳代が最大となっているが、その割合がついに30%を超えてきており、かなり口座開設が進んできている。
【図表2】 NISAの年代別口座数:2024年3月末時点
また、NISA口座からの買付も2024年1-3月に6兆1,791億円の買付が行われており、2023年1年間での一般、つみたて合計した買付額5兆4,096億円を既に超えてきている。

心配性な筆者の2つの懸念

このように新NISAは順調な滑り出しを切った様子であるが、筆者が心配性なだけかもしれないが、懸念も2つある。それは、口座開設が年初からかなり鈍化してきていること、さらに本当に活用している人が増えているのか不確かであることである。
 
実際に主要な証券会社10社(大手5社+ネット5社)のNISA口座の開設件数を月次でみると、月を追うごとに件数が少なくなっている【図表3】。スタート直後の1月が73万件だったのに対して、4月は27万件と1月の3分の1にまで急減し、年初の勢いがなくなっていることが見てとれる。
【図表3】 証券会社10社のNISA口座の開設件数
また、先述したように買付も急増しているが、1口座あたりだと3カ月間で「つみたて投資枠」から4.5万円、「成長投資枠」から22.1万円、合計で26.6万円となっている。あくまでも現時点での買付額の評価は非常に難しいが、「つみたて投資枠」が120万円、「成長投資枠」が240万円、1年間で最大で360万円まで買付可能になった割には少額だった印象を筆者は持っている。
 
ちなみに、これまで買付があった口座のみの平均になるが、1年間の一口座あたりの買付額は一般NISAが制度開始からロールオーバー込みだと70万円台が続いており、つみたてNISAは増加基調で2022年に24.5万円だった【図表4】。
【図表4】 1口座あたりの平均買付額(買付があった口座のみ)
このように1口座あたりの買付額がやや少額である印象であるため、買付が行われていない未稼働口座が多いことが懸念される。これまで つみたてNISAだと3割弱、一般NISAに至っては5割以上も未稼働口座であり、未稼働口座が2022年だと800万に迫っていた【図表5】。新NISAでも未稼働口座が多い状況が続いている可能性がありそうである。
【図表5】 未稼働口座とその割合

これからは金融機関に期待

いずれにしても世間での資産運用や新NISAへの注目は、残念ながら年初と比べて確実に低くなってきている。新NISAの活用が今後さらに広がるには、これまで関心が高くなくNISA口座開設に至らなかった人に資産運用の必要性や新NISAを訴求することや、さらに口座開設後のサポートなどが今まで以上に求められるだろう。つまり、新NISA普及の担い手は制度拡充した政府から金融機関に移ったと言えそうである。
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。

(2024年06月13日「研究員の眼」)

このレポートの関連カテゴリ

Xでシェアする Facebookでシェアする

金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【新NISAに対する2つの懸念~順調なスタートを切ったが早くも息切れか?~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

新NISAに対する2つの懸念~順調なスタートを切ったが早くも息切れか?~のレポート Topへ