2025年02月05日

労働生産性伸び率の上昇が顕著、AIの普及が上昇を後押しへ

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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経済における生産性は、経済的生産量とその生産に使われた投入量(労働力、資本など)を比較することによって、財やサービスをどれだけ効率的に生産できるかを測定するものである。一般的に生産性の向上は長期的な経済成長と個人の生活水準の実質な向上の最も重要な決定要因となっている。生産性を表す指標には労働時間当たりの実質生産高の比率で定義される労働生産性と、労働や資本といった量的な生産要素の増加以外の質的な成長要因を示す全要素生産性がある。
 
図表1は、米国の労働生産性の前年同期比の伸びを示している。同指標はコロナ禍の2020年から2022年半ばにかけて変動性が大きくなっており、実態が分かり難くなっているが、2022年後半以降は伸び率の上昇が顕著となっている。特に、2024年7-9月期が+2.0%と2023年7-9月期から5期連続で+2%超となった。これは、コロナ禍前(2015年~2019年)の5年平均である+1.4%を大幅に上回る水準である。
図表1:米国の労働生産性(前年同期比)
労働生産性の伸び率が上昇した要因は様々に指摘されている。1つはコロナ禍下で情報通信を筆頭に労働生産性の高いハイテク企業の起業が顕著に増加したことである。図表2はFRBによる分析1で2019年からのハイテク業種と非ハイテク業種の企業の純増数の対数変化をみたものである。ハイテク企業、非ハイテク企業ともに2020年以降に企業数の増加がみられる中、ハイテク企業の増加が非ハイテク企業を大幅に上回っていることが分かる。FRBはハイテク企業のうち、とくにコンピュータシステム設計、技術コンサルティングサービス、ソフトウエア発行、データ処理およびホスティング、科学研究開発サービスなどの業種で増加が顕著とした。これらはいずれも非ハイテク業種に比べて高い労働生産性を示す業種だ。
図表2:ハイテク企業と非ハイテク企業の純増数(対数変化)
また、コロナ禍での勤務形態の変化や労働市場の流動化が回復に寄与したとの指摘もある。IMFのDao博士らの分析2では、コロナ禍下での在宅勤務や在宅勤務と出社勤務を組み合わせたハイブリッド勤務の増加とそれに伴うデジタル投資の増加を通じて、在宅勤務を導入している業種で労働者1人当たりの生産性が向上したことを示した。さらに、同分析では労働需給の逼迫を背景にした業種内および業種を超えた転職者の増加にみられる雇用の流動性が労働力のダイナミズムと仕事のマッチングの増加を通じて労働生産性の伸び率の上昇に寄与した可能性が示された。
 
一方、生成AIをはじめとするAIの活用が増えていることを労働生産性の上昇要因とする指摘も一部にあるものの、国勢調査の企業動向・展望調査(BTOS)3によればAIを活用する企業数は2023年9月の3.7%からは増加したものの2024年2月調査でも5.4%に留まっており、AIの活用が足元の労働生産性の伸び率の上昇に寄与している可能性は低いとみられている。
 
もっとも、多くのエコノミストはAIの活用が労働生産性を改善すると考えている。実際に、全米経済研究所(NBER)の論文4では生成AIを活用したカスタマーサポートのエージェントの労働生産性が活用前に比べて14%上昇したと試算するなど、労働生産性を改善させるとの実証分析は増えている。このため、AIの活用が急速に進む中で、AIの普及が原動力となり、今後の労働生産性の伸び率を上昇させることが期待されている。
 

(2025年02月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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