2024年12月06日

生成AIと保険-保険事業に、生成AIをどう活用できるか?

基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.333]

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1―はじめに

2022年11月のChatGPT(OpenAI社)の公開以降、世界中で、生成AIの活用が急速に進んでいる。保険業界でも生成AIの活用に向けた取組みが進められている。

2―保険事業への生成AIの活用

保険事業ではさまざまな実務でAI活用が検討(一部は実行済み)されている。
1|商品開発と価格設定に生成AIを活用
生成AIにより、データソースを拡大して顧客のニーズを反映した商品の開発が可能となる。例えば、AIにより保険市場での消費者トレンドを分析し、商品開発を行うことが挙げられる。その際、サイバー空間上のデータを利用する可能性もある。生成AIの大規模言語モデル(LLM)を用いて、保険契約の加入条件や制約事項を起草したり、アクチュアリーが保険料を設定したりすることも考えられる。
2|顧客アプローチ方法を生成AIが提案
生成Alの活用により、どの顧客にどの商品、チャネルで、どのようなメッセージを示すことが最適かといった、効果的なアプローチ方法を提案できる。営業フロントとバックオフィス、チャネル間の情報連携の向上にも生成AIの寄与が期待される。例えば、営業職員に対して顧客へのアプローチ方法を細かく提案する、電話応対中のオペレーターにリアルタイムで最善の返答案を提案する等が挙げられる。その際、過去のやり取りや、顧客の感情分析等が提案生成に組み込まれる。
3|保険引受査定を生成AIが迅速化
保険会社は、保険の引受査定に生成AIを活用して、その迅速化を図っている。外部のビッグデータを用いて引受可否を判断したり、引受時の詐欺行為を検出したりすることが始められている。また、給付査定のパターンを分析して、それを他の類似した引受査定の改善に活用する取り組みも行われている。
4|給付支払判断を生成AIが効率化
給付支払には、従来よりAIの活用が推進されてきた。例えば、給付請求の自動評価、損害程度の判断、査定評価文書の即時作成などで、AIが活用されている。支払処理を自動で行うか、担当職員の手動で行うか。処理に際して、顧客からどのような情報を収受するか等を判断する「自動給付支払分類」も始まっている。

また、自己学習詐欺モデルや給付データ分析など、AIによる給付金詐欺の検出も進められている。その際IoT(モノのインターネット)とLLMを用いて、画像やメールからのデータ抽出も行われている。

さらに、仮想現実(VR)・拡張現実(AR)のツールや3Dモデリング手法により被害を視覚化して、損害程度の判断をスムーズに行う。AIでの書類スキャンと関連情報の取得により給付支払登録を効率化する、など作業の簡素化も進められている。
5|契約者サービスにも生成AIを活用
契約者向けサービスにも生成AIが活用されている。チャットボットやアプリなどによる問い合わせにLLMを用いて自動で応答。顧客が契約内容を確認したり、給付請求を送信したり、各種情報をやり取りしたりできる会話型インターフェイスの導入。音声のテキスト変換や、メールのパーソナル化(送信メールの内容を契約者の好みや行動に応じてカスタマイズ)によるサービスの個別化等である。
6|財務面でも生成AIの有用性は高い
財務管理についても、生成AIが活用されている。リアルタイムで財務を予測。諸規制の動向を監視して、対応が必要な場合にはアラートを発信。市場動向に応じて常に変化する財務のKPI(重要業績評価指標)やKRI(重要リスク指標)の状況をモニタリングし、必要時にはシナリオテストを実行する、等が挙げられる。再保険のリスク分析を自動で行うことも進められている。ALMに関しては、経済関連のニュースを監視してポートフォリオの調整・ヘッジを行ったり、市場動向の自動モニタリングを進めたり、市場レポートの要約を作成したり、戦略的資産配分(SAA)と戦術的資産配分(TAA)の最適化を図ったりする取り組みが挙げられる。

3―生成AIが抱える課題とその解決

生成AIは、現在進行形の技術である。学習データの利用におけるプライバシー侵害や著作権保護の問題、生成したコンテンツの正確性の問題(例.事実ではない内容をAIが生成するハルシネーション(幻覚))などの課題を抱えている。現在、AIの開発・活用に関して各国でさまざまな規制が検討されている。規制の乱立がAI開発を減退させることがないよう、その統合が図られる可能性もある。

また、生成AIの運用には、データセンターの消費電力など膨大なエネルギーが必要となる。化石エネルギーが大量消費されれば、地球温暖化の原因ともなりかねない。こうした気候変動問題への対応も今後進められるものと予想される。
 
(参考文献)“What should an actuary know about artificial intelligence?” (AAE, Jan. 2024)“A Primer on Generative AI for Actuaries”(SOA Research Institute, Feb. 2024)

(2024年12月06日「基礎研マンスリー」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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