コラム
2025年01月28日

屋根裏部屋の電球の問題-デジタルの感性とアナログの感覚をうまく組み合わせる

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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数学や情報を使ったパズルには、古くからよく知られたものがある。例えば、本稿と同様のコラムでは、これまでに、次のようなものを紹介してきた。
 
「ある家庭に、2人のこどもがいる。そのうちの1人が、男の子だとわかった。このとき、もう1人も、男の子である確率は、いくらか。ただし、男の子と、女の子の生まれる確率は同じとする。」

(「もう1つも同じである確率-追加情報は、確率にどう影響するか?」篠原拓也(研究員の眼, 2016年6月6日))
 
「モンティ・ホールという人が司会を務めるテレビのゲームショーがある。 解答者の目の前には(1)、(2)、(3)の3つのドアがある。このドアの部屋のどれか1つに宝物が入っていてそのドアはアタリ、残りはハズレとなる。解答者はアタリのドアを当てたら宝物をもらえる。解答者は、どれか1つの部屋を選ぶように言われる。選んだ後、答えを知っている司会者は、解答者が選んでいない2つの部屋のうちハズレの部屋のドアを1つ開ける。例えば、解答者が最初に(1)を選んだときは、ハズレである(2)か(3)のどちらかを開ける。そして、『もう一度よく考えてみてください。最初に選んだ(1)のままにしますか? それとも選択を変えますか?』と問う。このとき、解答者は最初に選んだ(1)のままにすべきか、それとも選択を変えるべきか?」

(「モンティ・ホール問題とベイズ推定-追加情報に応じて取るべき行動をどう変えるか?」篠原拓也(研究員の眼, 2024年9月10日))
 
今回紹介する問題も、昔からある有名なものの1つだ。ただ、その内容はより実践的だ。さっそく、見ていくこととしよう。

◇ 屋根裏部屋の電球の問題 : スイッチは3つ、どうすればよいか?

(屋根裏部屋の電球の問題)
あなたは、ある小屋を初めて訪れました。屋根裏部屋を見るために白熱電球を点けたいのですが、そのスイッチは1階にあります。スイッチは、「オン/オフ」の切り替え式のものが3つあります。そのうち、どれか1つが屋根裏部屋の電球につながっています。どのスイッチがつながっているかはわかりません。

スイッチに何らかの操作をして屋根裏部屋に上がり、電球を1回だけ確認することにより、どのスイッチが屋根裏の電球に接続されているかを判断したいと思います。どうすればよいでしょうか。

問題に取り上げられている屋根裏部屋の付いた小屋は、欧米では一般的だ。日本では、小屋よりも、旧家などにあるような土蔵のほうが、問題としてしっくりくるかもしれない。
 
この問題のポイントは、スイッチの数が3つあることだ。2つであれば、話は簡単だ。どちらか片方のスイッチを「オン」にして、屋根裏部屋に上がってみればよい。電球が点いていれば、「オン」にしたスイッチが電球につながっているとわかる。一方、電球が点いていなければ、「オン」にしなかったスイッチが電球につながっているとわかる。
 
しかし、スイッチは3つある。この方法では、電球を一回だけ確認することにより、電球につながっているスイッチを確実に判断するというわけにはいかないだろう。

◇ 3つの状態を作る必要がある

問題の答えを出すためには、スイッチに何らかの操作をして、3つの状態を作る必要がある。ただし、電球は点いているか、点いていないかの2つの状態しかない。このままでは、どう頑張っても、答えには至らなさそうに見える。
 
「いかにして問題をとくか」G. ポリア著, 柿内賢信訳(丸善出版, 1975年)という名著に収められている問題の解き方をみてみよう。解き方としていろいろ挙げられているものの1つに、“与えられているもの(データ)は全部使ったか?”というものがある。これを参考に考えてみよう。今回の問題で、何か所与のもので、まだ使っていないデータや情報はないだろうか?
 
そこで、問題文をもう一度よく見てみる。すると、「白熱電球」という言葉に引っかかるかもしれない。なぜ、わざわざ「白熱電球」としているのか? ただの「電球」ではだめなのか?
 
この問題は、昔からあるものなので、いまのようにLED電球が普及した状態は想定していないはずだ。だとすると、単に「電球」としていても、「白熱電球」を指すことが読者にはわかるはずだ。それにもかかわらず、問題文では、あえてわざわざ「白熱電球」としているのだ。
 
白熱電球には、点けたら明るくなるということの他に、どんな特徴があるだろうか? それは、名前の通り、点けると熱が出ることだろう。
 
この熱を使って、3つの状態を作ることが考えられるわけだ。

◇ 熱の特徴を生かして3つ目の状態を作る

白熱電球で、光と異なる熱の特徴は何だろうか? それは、電球を点けてすぐには電球は熱くならないこと、ずっと点けていた電球を消してもすぐには冷たくならないことだ。つまり、電球の熱には、光との間に時間差があると言える。この時間差を利用する。
 
3つのスイッチをA、B、Cと名付けることにしよう。まず、スイッチAを「オン」にして10分間待つ。10分経ったところで、Aを「オフ」にして、Bを「オン」にする。そして、すばやく屋根裏部屋に上がってみる。
 
電球が点いていたら、Bが電球につながっているとわかる。
 
電球が点いていなかったら、電球を手で触ってみる(白熱電球の表面は高温になる場合があるので、やけどに要注意)。電球に熱があったら、いまは消えているが少し前までずっと点いていたのだとわかり、Aが電球につながっているとわかる。
 
電球に熱がなく冷たかったら、電球はずっと点いていなかったのだとわかり、Cが電球につながっているとわかる。
 
このように、光と熱で3つの状態をつくることで、3つのスイッチの電球との接続の状態を確認することができる。

◇ 4つ目の状態を作ることもできる

この方法を使うと、スイッチが4つあった場合でも確認できる。4つ目のスイッチをDとしよう。スイッチAとともにスイッチDも「オン」にして10分間待つ。10分経ったところで、Aだけを「オフ」にして、かわりにBを「オン」にする。そして、スイッチBとDが「オン」となっている状態で、すばやく屋根裏部屋に上がってみる。
 
電球が点いていなかった場合のAかCかの判断の方法は、先ほどと同じだ。
 
今度は、電球が点いていた場合も、電球を手で触ってみる。電球に熱があまりなければ、電球は点けられたばかりで、スイッチBが電球につながっていると判断できる。
 
一方、電球に熱が十分にあれば、電球はずっと点いていたとわかり、Dが電球につながっていると判断できる。
 
ただし、「熱があまりなければ」と「熱が十分にあれば」の差を、“触り分ける”のは、結構難しいかもしれない。

◇ 情報量が増えると、格段に多くの状態を表すことができる

一般に、0か1かといった2択の場合、情報量が増えると、表すことのできる状態の数は2のべき乗の勢いで増えるという。今回の問題で言えば、電球の光と熱という2つの要素を用いることで、2の2乗、つまり4つの状態を作り出している。
 
これは、デジタルの世界では情報量の根幹をなす話だ。デジタルで情報をやり取りするときには、0か1かを表すビットの数が問題となる。情報量と表すことのできる状態の数の関係をみると、8ビットの情報量では、2の8乗、つまり256通りの状態を表すことができる。1ビットが表すことのできる2通りに比べて、格段に多くの状態を表すことができる。
 
いま開発が進められている量子コンピュータでは、0か1かの2択ではなく、0でもあり1でもあるといった量子ビットを基本単位として計算を行う。2量子ビットでは、4通り(2の2乗)の計算がいっぺんにできる。10量子ビットでは1,024通り(2の10乗)、20量子ビットでは104万8,576通り(2の20乗)通りの計算が1回でできる。量子ビットが増えることで、計算の量が飛躍的に増えることになる。まさに、“量子ビット恐るべし”というところだろう。

◇ デジタルの感性と、アナログの感覚の両方をうまく組み合わせる

屋根裏部屋の電球の問題から、量子ビットにまで話が飛躍してしまったので、元に戻そう。
 
屋根裏部屋の電球の問題は、数学というよりも、光や熱といった物理的な要素を巧みに使うことで答えに至っている。これは、理論的なデジタルの要素と、実践的なアナログの要素をうまく組み合わせた解法と言えるだろう。
 
そもそも、白熱電球自体が消えゆくなかで(すでに日本では、ほとんどのメーカーが白熱電球の製造を中止)、点いている白熱電球を手で触った経験がある人は減ってゆき、やがて、この問題は意味不明のものとなってしまうかもしれない。
 
しかし、いつの時代でも、何かの問題に行き当たったときに、問題の中身や条件をしっかり把握することが大切であるということは変わらないはずだ。間もなく本格化する今年の受験シーズンにおいても、受験生はまず落ち着いて、問題用紙をよく見て、問題の内容を十分に理解することが重要と言えるだろう。
 
DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代、複雑で難解な問題に対処する際には、まず問題の中身を十分に把握する。その上で、デジタルの感性とアナログの感覚をうまく組み合わせて、答えを模索することが大切だと思われるが、いかがだろうか。

(参考文献)
 
“Mathematical Puzzles” Peter Winkler (CRC Press, 2021年)
 
「いかにして問題をとくか」G. ポリア著, 柿内賢信訳(丸善出版, 1975年)
 
「シャノンの情報理論入門」高岡詠子著(講談社, ブルーバックス B-1795, 2012年)

(2025年01月28日「研究員の眼」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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