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- 住民参加における情報提供の課題-コミュニケーション不安を軽減するための双方向的・段階的情報提供の重要性-
2025年01月28日
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1――はじめに
わが国では、都市計画法において、都市計画の決定や変更を行う際に、地元住民に対して計画案の説明を行い、意見を聴取する住民参加の手法を取り入れることが法的に規定されている。住民の意見を反映することで、計画の正当性と透明性を向上させることが出来る。住民参加の方法は様々であるが、ワークショップのように住民間で議論を行うものがある。しかし、地域住民が議論を行うのに十分な知識を持っているとは限らない。それによってコミュニケーションへの影響もみられる。そのため、ワークショップにおける情報提供は円滑なコミュニケーションを行うために重要なものである。
本稿ではワークショップにおける情報提供について、コミュニケーション不安の視点から考察する。
本稿ではワークショップにおける情報提供について、コミュニケーション不安の視点から考察する。
2――知識提供によるコミュニケーションの円滑化
1|ワークショップにおけるコミュニケーション
地域の都市計画におけるワークショップでは、住民が具体的なテーマについて議論を行う場として利用されている。ワークショップでは、住民が特定のテーマについて意見を出し合い、それを基に議論を深めていく形式が取られる。このような場では、参加者間の活発なコミュニケーションが議論の質を高める。しかし、参加者によってテーマに対する知識や興味に差があることなどが理由で、全ての参加者がコミュニケーションを円滑に行うことが出来るとは限らない。そのような場面ではコミュニケーションを行うことに対して不安感情を抱き、発言することが出来ないことや上手く伝わらないことが起こる可能性がある。
地域の都市計画におけるワークショップでは、住民が具体的なテーマについて議論を行う場として利用されている。ワークショップでは、住民が特定のテーマについて意見を出し合い、それを基に議論を深めていく形式が取られる。このような場では、参加者間の活発なコミュニケーションが議論の質を高める。しかし、参加者によってテーマに対する知識や興味に差があることなどが理由で、全ての参加者がコミュニケーションを円滑に行うことが出来るとは限らない。そのような場面ではコミュニケーションを行うことに対して不安感情を抱き、発言することが出来ないことや上手く伝わらないことが起こる可能性がある。
2|コミュニケーションを阻害する要因
コミュニケーションを行っているときやコミュニケーションについて考えるときに不安感情を持つことをMcCroskeyは「コミュニケーション不安(Communication Apprehension)」という言葉を用いた1。コミュニケーション不安は状況に左右されず、個人が常に持つ特性的なものと状況によって変化する限定的なものがあり、主に以下の4つに分類される。
・特性的コミュニケーション不安
特性的コミュニケーション不安はその人が常に持っているコミュニケーション不安であり、状況等によって変化しないものである。
・状況コミュニケーション不安
状況コミュニケーション不安はコミュニケーションを行う状況によって変化するコミュニケーション不安であり、状況には会議やスピーチ、対話、グループディスカッションなどがある2。
・人物コミュニケーション不安
人物コミュニケーション不安は特定の聞き手が存在するときに感じる不安感情である。例えば、異性との会話や年上との会話の際に不安を感じることなどが挙げられる。
・状態コミュニケーション不安
状態コミュニケーション不安は特定の相手や場面でのコミュニケーションにおいて感じる一時的な不安感情である。4つのコミュニケーション不安の分類の中で最も限定的なものであり、その状態から離れると不安感情がなくなることが特徴として挙げられる。
この4つのコミュニケーション不安を比較すると、特性的コミュニケーション不安が最も広域なコミュニケーションに対する不安感情であり、状況コミュニケーション不安、人物コミュニケーション不安の順に限定的になり、状態コミュニケーション不安が最も限定的に起こる不安感情である。
また、コミュニケーション不安が起こる要因としてLeary3は自己呈示理論を用いて説明している。自己呈示とは他者に与える印象を自分の求めるようなものにしようとする行動のことを指す。自己呈示理論ではコミュニケーション不安はコミュニケーションによって他者の自分への印象を操作したいという動機があるが、自分のコミュニケーション能力がそれを満たすものではないと感じるときに生じるものとしている。自己呈示理論を記号式で表すと以下のようになる。
CA=f[M×(1-p)]
ただし、
CA:コミュニケーション不安
M:特定の印象を与えようとする動機づけのレベル
p:個人の望む印象を作れるかどうかの主観的確率
コミュニケーション不安を下げるには印象付けの動機レベル(M)を下げるか、印象づくりの主観的確率(p)を上げることが必要である。
ワークショップにおいて、情報提供を行うことで印象づくりの主観的確率(p)を上げることに繋がり、コミュニケーション不安を下げることが出来る。実際に、ワークショップにおいて、そのテーマに関する知識を持っている参加者はコミュニケーション不安が低くみられることも分かっている5。
コミュニケーションを行っているときやコミュニケーションについて考えるときに不安感情を持つことをMcCroskeyは「コミュニケーション不安(Communication Apprehension)」という言葉を用いた1。コミュニケーション不安は状況に左右されず、個人が常に持つ特性的なものと状況によって変化する限定的なものがあり、主に以下の4つに分類される。
・特性的コミュニケーション不安
特性的コミュニケーション不安はその人が常に持っているコミュニケーション不安であり、状況等によって変化しないものである。
・状況コミュニケーション不安
状況コミュニケーション不安はコミュニケーションを行う状況によって変化するコミュニケーション不安であり、状況には会議やスピーチ、対話、グループディスカッションなどがある2。
・人物コミュニケーション不安
人物コミュニケーション不安は特定の聞き手が存在するときに感じる不安感情である。例えば、異性との会話や年上との会話の際に不安を感じることなどが挙げられる。
・状態コミュニケーション不安
状態コミュニケーション不安は特定の相手や場面でのコミュニケーションにおいて感じる一時的な不安感情である。4つのコミュニケーション不安の分類の中で最も限定的なものであり、その状態から離れると不安感情がなくなることが特徴として挙げられる。
この4つのコミュニケーション不安を比較すると、特性的コミュニケーション不安が最も広域なコミュニケーションに対する不安感情であり、状況コミュニケーション不安、人物コミュニケーション不安の順に限定的になり、状態コミュニケーション不安が最も限定的に起こる不安感情である。
また、コミュニケーション不安が起こる要因としてLeary3は自己呈示理論を用いて説明している。自己呈示とは他者に与える印象を自分の求めるようなものにしようとする行動のことを指す。自己呈示理論ではコミュニケーション不安はコミュニケーションによって他者の自分への印象を操作したいという動機があるが、自分のコミュニケーション能力がそれを満たすものではないと感じるときに生じるものとしている。自己呈示理論を記号式で表すと以下のようになる。
CA=f[M×(1-p)]
ただし、
CA:コミュニケーション不安
M:特定の印象を与えようとする動機づけのレベル
p:個人の望む印象を作れるかどうかの主観的確率
コミュニケーション不安を下げるには印象付けの動機レベル(M)を下げるか、印象づくりの主観的確率(p)を上げることが必要である。
ワークショップにおいて、情報提供を行うことで印象づくりの主観的確率(p)を上げることに繋がり、コミュニケーション不安を下げることが出来る。実際に、ワークショップにおいて、そのテーマに関する知識を持っている参加者はコミュニケーション不安が低くみられることも分かっている5。
コミュニケーションを行うにあたって、お互いが同じ認識を持っていることでコミュニケーションの齟齬は起きにくくなる。このことからも事前の情報提供はコミュニケーションを円滑に進める効果がある。
(2025年01月28日「基礎研レポート」)

03-3512-1817
経歴
- 【職歴】
2022年 名古屋工業大学大学院 工学研究科 博士(工学)
2022年 ニッセイ基礎研究所 入社
【加入団体等】
・土木学会
・日本都市計画学会
・日本計画行政学会
島田 壮一郎のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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