2025年01月15日

アンケート調査から読み解く企業の物流戦略の現状と課題(2)~商慣行見直しやドライバー負荷軽減、共同配送、標準化、物流DXを推進する長期ビジョン・中期計画策定の社会的要請高まる

金融研究部 上席研究員 吉田 資

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1.はじめに

昨今、企業の「物流戦略」は重要な経営課題のひとつに位置づけられている状況を踏まえ、弊社は、三菱地所リアルエステートサービス株式会社と共同で、日本国内の主要荷主企業および物流企業を対象に「企業の物流戦略および物流施設利用に関するアンケート調査」(以下、本調査)を実施した1

前回のレポート2では、本調査結果の一部を紹介し、企業の物流体制や物流業務における課題、「物流2024年問題」の影響等について概観した。

本レポートでは、前回に続いて、本調査結果の一部を紹介し、物流業務に影響を与える各種施策や、物流戦略(物流業務方針)の策定状況等を概観したうえで、企業の物流戦略の方向性等について考察する。
 
1 アンケート送付数;日本国内の主要荷主企業および物流企業 4,486社 [荷主企業3,513社・物流企業973社]
・回答数;234社(回収率:5%)
・調査時期;2024年7月~9月  ・調査方法:郵送・E-mailによる調査票の送付・回収
「ニッセイ基礎研究所と三菱地所リアルエステートサービスによる物流に関する共同アンケート調査
「物流2024年問題」への対策は着手するも、まだ十分でないと認識。トラックドライバーの確保が喫緊の課題。
~物流施設の選択では、BCP対応や従業員の健康配慮等を重視。地方都市で拡張意欲が高い~
2 吉田資『アンケート調査から読み解く企業の物流戦略の現状と課題(1)~「物流2024年問題」への対策は着手するも、まだ十分でないと認識。トラックドライバーおよび倉庫内作業人員の確保が課題に~』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2024 年12月19日

2.物流業務に影響を与える各種施策について

2.物流業務に影響を与える各種施策について

政府は、「物流2024年問題」の解決等に向けて、「物流革新に向けた政策パッケージ」(2023年6月)、並びに「物流革新緊急パッケージ」(2023年10月)を策定し、我が国の物流を支えるための環境整備を進めている。

日本ロジスティクスシステム協会「物流変革の波:2024年問題対応に向けた実態調査レポート」によれば、回答企業の約8割が上記の政策パッケージの内容を把握および確認しており、企業の関心は高いといえよう。

そこで、本調査では、政策パッケージが示す「(1)商慣行の見直し」、「(2)物流の効率化」、「(3)荷主・消費者の行動変容」に関する施策の中で、自社の物流業務に影響が大きいと考える施策について質問した。
(1)「商慣行の見直し」
「商慣行の見直しに関する施策の中で、物流業務に影響が大きい施策」について、荷主企業に質問したところ、「納品期限、物流コスト込み取引価格等の見直し」(61%)が最も多く、次いで「荷主・物流事業者間における物流負荷の軽減」(57%)が多かった(図表―1)。
図表-1 「商慣行の見直しに関する施策の中で、物流業務に影響が大きい施策」
「納品期限、物流コスト込み取引価格等の見直し」に関する具体例の1つに、食品流通業界における、いわゆる「3分の1ルール」3が挙げられる(図表―2)。こうした厳格な品質管理は、在庫管理の煩雑さや返品の輸送負担を生んでいるとの指摘がある。また、賞味期間の3分の1以内で納品できなかった商品は、期限まで多くの日数を残すにも関わらず、廃棄される点(「食品ロス」)も問題視されており、ルールの見直しが始まっている4
図表-2 「3分の1ルール」(消費期限6か月の場合)
また、物流企業では、「荷主・物流事業者間における物流負荷の軽減」(43%)が最も多く、次いで「担い手の賃金水準向上等に向けた適正運賃収受・価格転嫁円滑化等」(39%)が多かった(図表―1)。

「荷主・物流事業者間における物流負荷の軽減」に関して、2024年11月に国土交通省は、2028年までに、5割の車両で積載効率5を50%6に、5割の運行で1運行当たりの荷待ち・荷役等時間を計2時間以内7に削減する目標を示した。物流企業は荷主企業と連携して、物流の効率化およびトラックドライバーの負荷軽減に取り組むことが求められている。

また、「担い手の賃金水準向上等に向けた適正運賃収受・価格転嫁円滑化等」に関して、帝国データバンク「価格転嫁に関する実態調査(2024年7月)」によれば、コスト上昇分に対する販売価格への転嫁度合いを示す「価格転嫁率」は、「運輸・倉庫」では35%と全体平均(45%)を下回っている。物流企業は、施策の施行等を通じて取引先の理解が進み、燃料費や人件費等のコスト上昇の価格転嫁が円滑に進むことを期待していると考えられる。
 
3 「賞味期限を3分割し、最初の3分の1の期限までに小売事業者に納品すること」を指す。
4 日本経済新聞「賞味期限「3分の1ルール」、名古屋市が緩和促す ロス削減」(2024年4月16 日)
5 車両の最大積載量(荷台に積むことができる貨物重量の最大値)に対し、どの程度貨物を積み込めているかの割合。
6 国土交通省「自動車輸送統計年報」(2023年度)によれば、積載効率は40%(営業用・登録自動車・普通車)。
7 国土交通省「トラック輸送状況の実態調査」によれば、荷待ち・荷役等時間の平均は3時間超。
(2)「物流の効率化」
「物流の効率化に関する施策の中で、物流業務に影響が大きい施策」について、荷主企業に質問したところ、「即効性のある設備投資の促進(バース予約システム8、フォークリフト導入、自動化・機械化等)」(52%)が最も多く、次いで「物流標準化の推進(パレット9やコンテナ10の規格統一化等)」(48%)が多かった(図表―3)。
図表-3 「物流の効率化に関する施策の中で、物流業務に影響が大きい施策」
「即効性のある設備投資の促進」に関して、荷主企業は、物流業務の機械化や効率化に向けて、荷役機械や検品システム、フォークリフト等への設備投資を進めている(図表―4)。ただし、プロロジスリサーチ「物流施設自動化の実態調査」によれば、バース予約・管理システムの利用率は17%に留まっている等、改善余地の大きい分野も多く、荷主企業は設備投資への支援施策を期待していると考えられる。
図表-4 物流関連の設備投資事例
「物流標準化の推進」に関して、物流業界全体として、パレットを使った輸送を推奨しているものの、国内輸送の約4割が「バラ積み11」で行われており、荷積み・荷下ろし作業が長時間化する要因となっている。また、パレット輸送でも、会社によってパレットの形状・サイズが異なることから、パレットを崩して手作業で納品するといった作業が発生し、トラックドライバーの労働負担が増しているとの指摘がある12

日本ロジスティクスシステム協会「2023年度会員アンケート調査」によれば、物流業務における「標準化活動」について質問したところ、7割弱の企業が実施していると回答した。ただし、「標準化活動」で注力している範囲は、「自社内(レベル1)」(43%)との回答が最も多く、次いで「自社と直接の取引先(レベル2)」(32%)、「自社の関連するサプライチェーン(レベル3)(11%)、「自社の属する業界(レベル4)」(5%)、「複数の業界を横断した社会全体(レベル5)」(3%)の順に多かった。パレットの規格統一といった物流標準化の取り組みは進んでいるものの、依然として自社内で留まっている企業も多いようだ。
また、物流企業では、「物流標準化の推進(パレットやコンテナの規格統一化等)」(43%)が最も多く、次いで「物流DXの推進(自動運転、ドローン物流、自動配送ロボット、港湾AIターミナル13、フィジカルインターネット14等)」(34%)が多かった(図表―3)。

「物流DXの推進」に関して、日本ロジスティクスシステム協会「2023年度会員アンケート調査」によれば、物流分野におけるDX(機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでの在り方を変革すること)の課題について、「物流DXを推進する人材が不足している(58%)」との回答が最も多く、次いで、「関連するサプライチェーンにおいて、標準化ができていない(48%)」、「物流DX実装に向けた投資が難しい(30%)」の順に多かった。DX推進の必要性を認識する一方で人材不足等の課題もあり、物流企業では行政の支援拡大に期待しているものと考えられる。

また「地域物流等における共同輸配送の促進」(荷主企業31%・物流企業30%)も一定数の回答を集めた(図表―3)。ドライバー不足やCo2排出量削減の観点から、より少ないトラックで多くの貨物を運ぶ「共同配送15」の必要性が高まっている。野村総合研究所の調査によれば、共同配送の利用意向16を持つ企業は約7割を占めており関心も高い。また、同調査では、北海道、中国地方、四国地方で、利用意向を持つ企業が約8割に達しており、地方で共同配送の必要性が特に高いようだ。こうした状況を受けて、近年では、業界の垣根を超えて異業種との共同配送に取り組む企業も出現している(図表―5)。
図表-5 共同配送の事例
 
8 物流拠点における荷積み・荷降ろしを行う荷捌き場(トラックバース)の利用を予約・管理するためのシステム。
9 物流における貨物の載せるための荷役台。
10 貨物を入れて輸送するための入れ物。
11フォークリフト等の省力機械を使わず、ダンボールや袋に入った商品を手作業で一つ一つ積み上げていく方法。
12 経済産業省「物流施設における競争環境や労働環境等に関する調査」(2021年3月)
13 AI、IoT、自働化技術を活用して港湾のオペレーションを最適化しようとする取り組み。
14 貨物情報や車両・施設などの物流リソース情報について、企業や業界の垣根を越えて共有し、貨物のハンドリングや保管、輸送経路等の最適化などの物流効率化を図ろうとする考え方。詳細な定義については以下のレポートを参照されたい。
吉田 資『3PL事業者が求める物流機能と物流不動産市場への影響(2)~3PL 事業者の拠点特性と社会的な課題を踏まえた
3PL 事業者の今後の取り組み』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2022年4月8 日)
15 複数の荷主が、同じ配送先の荷物を持ち寄り、共同で配送を行う取り組み。
16 「利用したいと強く思う(11%)」、「利用したいと思う(15%)、「コストが見合えば利用したいと思う(44%)」の合計。

(2025年01月15日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   上席研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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