2025年01月14日

価値ある空き家を掘り起こす-空き家活用事例の調査より-

社会研究部 研究員 島田 壮一郎

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1――はじめに

1空き家所有者の消極的意識
わが国において、空き家の増加は依然として顕著である。活用が進まない要因として、空き家所有者が物件を市場に出さないことが挙げられる。その理由には、「思い入れがあるので売る(貸す)相手を選びたい」「所有物件を活用したい人がいない」など、心理的要因が主な障壁となっている。

その中でも空き家を活用している事業者は、様々な手法で物件を市場に出している。本稿では、各事業者がどのように空き家を発掘しているかについて整理し、空き家を市場に出すための方法について考える。
2|空き家活用の調査
昨年度、公益財団法人東北活性化研究センターと共同で全国の空き家事例の調査1(以下、「活用事例調査」)を実施した。この調査では12件の事例についてヒアリングおよび現地調査を行った。本稿では、廃校活用を除いた9件を対象に、空き家所有者が市場に出しやすくする特徴についてまとめる。各事例の詳しい内容は東北活性化研究センターの報告書を参照いただきたい。
3|空き家活用の事例収集
活用事例調査では空き家活用の事例を広域的・地域的、活用促進・流通促進の2軸の視点から分類を行い、事例を選定することで多種多様な事例について調査を行った(図-1)。全国的に行われており、様々な地域に活用しやすいものを「広域的」、地域に根差した活動であり、地域と並走する方法の参考になるものを「地域的」とし、主に空き家の活用に視点を向けているもので、所有者・活用者の参考になると考えられるものを「活用促進」、空き家の流通に視点を向けているもので、仲介者の参考になると考えられるものを「流通促進」としている。なお、「6.Q1」、「7.京都里山SDGsラボ『ことす』」、「8.いいかねPalette」は廃校・旧校舎活用のため本稿では対象としない。
図-1 空き家調査事例の分類(活用事例調査1より)
 
1 公益財団法人 東北活性化研究センター. 空き家等で地域を活性化する方法. https://www.kasseiken.jp/searchposts/searchposts-6452/

2――空き家活用事例

2――空き家活用事例

1.家いちば
● 事業概要
家いちば株式会社は、日本最大の空き家売買マッチングサイト「家いちばi」を運営しており、2015年に設立された。このサイトでは、物件所有者と購入希望者が直接交渉できる「セルフセル方式」を採用し、不動産会社を介さずに売買を促進している。とりわけ、価格が低い物件の流通を支援し、売買が成立しやすい環境を提供している。累計の掲載数(2024年)は約4,000件、そのうち860件が成約しており、有効成約率は約5割である。物件所有者は物件でどのような生活を送ってきたかその物件での思い出を共有し、購入者がその内容に共感することで物件所有者と相互に信頼関係を築きながら取引が進む仕組みがサイト上に整っている。
図-2 家いちばのセルフセル方式(家いちばHPより)
 
i 家いちばHP https://ieichiba.com/
● 空き家の掘り起こしへの視点
一般的な不動産取引では、売主・買主の双方が不動産会社を仲介会社として売買交渉を行うことがメインとなっており、売主が直接的に複数の買主とのコミュニケーションを通じて買主を選択することは少ない。家いちばでは、買主と売主のコミュニケーションを通じて売主がどの人に売るかを決めることが出来る。また、情報を登録する段階では、売却することを確定していなくてもサイトの利用が可能なため、気軽に物件を登録できる点も特徴である。
2.さかさま不動産
● 事業概要
「さかさま不動産ii」は、名古屋市を拠点に活動している株式会社On-Coが運営する空き家の所有者と活用者のマッチングサイトであり、通常の不動産取引とは逆に、既存の物件情報を公開するのではなく、借りたい人の「やりたいこと」や「想い」を公開するシステムを特徴とする。この仕組みでは、先ずは借りたい人がどのような目的でその物件を使用したいかを詳細に記載し、その条件に合致する物件所有者が物件情報を提供する形を取る。物件の所有者は、借主が地域に対してどのような貢献をしたいかを理解し、それに共感することで物件の提供を決定する。物件のマッチング後は、所有者と借主の関係性が強化され、地域とのつながりが深まることが期待される。このプロジェクトは、地域活性化や若者の呼び込みを目指しており、物件の所有者が新しいアイデアに共感し、地域に貢献したいと考える借主とのつながりを重視している。
図-3 活用希望者の想いの記述(さかさま不動産HPより)
 
ii さかさま不動産HP https://sakasama-fudosan.com/
● 空き家の掘り起こしへの視点
「さかさま不動産」では、物件所有者が待つ側に立ち、借りたい人が自分の「やりたいこと」を公表することで、所有者がそれに応じて物件を提供する仕組みを採用しており、この方法により、物件所有者にとっては従来とは想定できないような空き家の有効活用のアイデアを得て、これに共感することを通じて従来の不動産市場に出回らない物件の掘り起こしが進められ、所有者が物件を活用する動機が強化される。

(2025年01月14日「基礎研レポート」)

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社会研究部   研究員

島田 壮一郎 (しまだ そういちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、住民参加、コミュニケーション、合意形成

経歴
  • 【職歴】
     2022年 名古屋工業大学大学院 工学研究科 博士(工学)
     2022年 ニッセイ基礎研究所 入社
    【加入団体等】
     ・土木学会
     ・日本都市計画学会
     ・日本計画行政学会

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