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バレンタインの変遷に見る女性のキャリアの変化~“義理チョコ”から“チョコ好きの女性たちの祭典”へ~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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2000年代の各紙を展望すると、義理チョコが次第に形式化し、減少傾向がみられるのと同時並行して、売り場に増え始めた海外の高級チョコレートを、女性が自分用に“ご褒美”として購入する現象が次第に大きくなっていく傾向が確認できる。
2000年2月7日の産経新聞は、商社勤務女性の投稿記事として、依然、職場の伝統である義理チョコの購入を続けているが、「時代の流れ」として、「チョコ一個で約200円から300円と、単価は著しく低下している。以前は込み合うデパートの地下に行列したものだが、今ではバレンタインの二、三日前に会社にやって来る業者でまとめ買い」していると記述されており、女性が義理チョコ購入にかける金銭的・時間的コストの節約ぶりを伝えている。このように存在感が低下していく義理チョコと入れ替わるように台頭してくるのが、自分用のご褒美チョコだ。
2005年1月30日の産経新聞は、「ここ数年、働く女性を中心に“ご褒美需要”の高まりが顕著になっていきている」と解説。東急百貨店広報の話として「『手の届く贅沢な物』を自分の“慰労”のために買うという行動」で、「昨年のクリスマス商戦では、アクセサリーやブランド物のバッグを『自分用に』と買っていく女性客の姿が目立った」と紹介。働く女性が「がんばった自分」へのプレゼントとして、積極的に購入していく様子を紹介している。
2010年代以降は、「義理チョコ」が一層、下火となったためか、義理チョコに言及する記事自体が少ない。対照的に、自分用のご褒美チョコが高級化している他、友達と交換し合う「友チョコ」が拡大したり、男性から女性に贈る「逆チョコ」が生まれたりし、贈答構図が多様化していることが示されている。
2014年2月12日の読売新聞は、売り場を訪れた女性会社員(25)の「職場用に生チョコを30個ほど作るつもり。女性社員が持ち寄って食べ比べる予定です」という声を紹介し、職場で義理チョコよりも友チョコが主流となっている状況を紹介している。同年2月8日読売新聞香川版でも、「友チョコ」ニーズを意識して、クマやハート、ディズニーキャラクターなどをあしらった商品を多く取り入れたという高松三越の状況を紹介している。
一方、自分用のご褒美チョコは、景気の回復傾向もあって高級志向が進んでいることが伺える。2018年1月26日の読売新聞徳島版は、百貨店が普段は扱っていない海外の人気商品を取りそろえ、仕事帰りの女性らによく売れている、と紹介している。
2018年には、義理チョコの衰退傾向に追い打ちをかけるように、高級チョコレートブランド・ゴディバが「日本は、義理チョコをやめよう」というキャッチコピーの新聞広告が掲載されたことが、朝日新聞や毎日新聞で取り上げられた。同年2月10日の朝日新聞では《バレンタインデーは嫌いだ、という女性がいます》《義理チョコを誰にあげるかを考えたり、準備をしたりするのがあまりにもタイヘンだから、というのです》と広告の宣伝文句を紹介。「本当によく言ってくれたと思います」という女性会社員(37)の声も添えている。
2020年代に入ると、コロナ禍による出社減少や接触回避の動きが義理チョコ衰退を加速した一方、巣ごもり需要などで、自分用チョコがさらに高額化する傾向が見られる。かつては義理チョコに差をつけていた「本命」を抑えて、現在は「自分用」の予算がトップに立っているという調査結果も見られる。さらに、コロナ禍が明けて初となった2024年のバレンタイン商戦では、売り場の来場者向けの演出がエスカレートし、バレンタインデーは、さながら「チョコ好きが楽しむ祭典」に変貌しつつある。
全国に外出制限が出されて初めて迎えた2021年のバレンタイン商戦では、かつて主流だった義理チョコはさらに衰退が進んだことと、普段は外出を我慢しているので、予算をかけて“おうち時間”を楽しみたいという動機から、自分用チョコがより高額化していることを伝える記事が多い。
2021年2月10日の毎日新聞は、「コロナ感染防止で在宅勤務が進み、食べ物の共有を制限する企業もある」と記述し、「取引先や仲の良い上司に個人的に渡していたが、今年はやめる」(食品会社)という女性会社員と思われる声を紹介。2021年2月12日の読売新聞群馬版は、高崎高島屋で、付加価値の高いチョコレートに人気が集まっていることを紹介し、「テレワークの普及などで義理チョコ需要は減ったが、外出自粛を求められるなか、頑張る自分用として買い求める人が増えている」というシニアマネージャーの分析を掲載している。
新型コロナウイルスが5類移行後初となった2024年のバレンタイン時期の各紙を見ると、売り場は活況を取り戻したようだが、義理チョコ需要の回復は見られない。代わって売り場では、イートインやシェフによる実演販売など、来場者自身が楽しめるような演出が進化している。2024年2月9日の毎日新聞福岡版は、「地元産の素材を使ったチョコを売り出したり、パティシエが来場してふれ合う機会を設けたりするなど特別感を打ち出している」と報告し、2月10日の読売新聞埼玉版も、伊勢丹浦和店で「パティシエの作業をガラス越しに見ることができ、それをスマートフォンで撮影する人も多い」と紹介している。
また、2024年1月25日の読売新聞は、女性誌「婦人画報」を発行するハースト婦人画報社が約4,000人を対象に行った調査結果として、自分用にチョコレートを購入するという回答が前年より4ポイント高い61%となり、予算も「自分用」(3,352円)が「本命」(3,131円)を上回ったことを紹介している。2024年2月9日の朝日新聞も、JR名古屋高島屋が約2,700人に行った意識調査の結果、回答者の半分がバレンタインの楽しみ方を「自分へのご褒美」とし、自分用の予算は、3割近くが「金額は気にしない」と高額化していることを伝えている。
4――女性のキャリアの変化~働く女性の増加と男女間賃金格差の縮小~
このような女性会社員たちの贈答行為の変化には、景気変動やコロナ禍における行動制限など、様々な外的要因があると考えられるが、新聞記事調査のところどころでも「働く女性」に言及があったように、女性会社員のキャリアの向上が関連していると考えられる。
2-2で説明したように、そもそも義理チョコの贈答行為に「職場に大きな男女格差が残る中で、女性会社員が有利な状況を引き出そうとするため」という内発的動機があるなら、女性のキャリアが向上すれば、その動機が減退すると考えられる。逆に、女性の購買力は上がり、仕事の疲れを慰労する必要は増すと予想できる。
2005年1月30日産経新聞に掲載されていた、東急百貨店広報のコメント「『手の届く贅沢な物』を自分の“慰労”のために買う」)や、2021年2月12日読売新聞群馬版に掲載されていた高崎高島屋のコメント「頑張る自分用として買い求める人が増えている」からも、バレンタイン商戦の最前線に立つ小売り担当者らが、働く女性に、自分用チョコの購買意欲や購買力が高まっていると実感していることが分かる。
ここで、1980年代から現在までの、働く女性の国内の状況を概観する。1980年代に国連で女性差別撤廃条約が採択されたことを受けて、男女雇用機会均等法が施行され、企業による女性の採用が増えたものの、当時は採用や昇進などの男女均等が企業の努力義務にとどまっていたことや、女性を主に「一般職」、男性を主に「総合職」として採用するコース別雇用管理制度が大企業で導入されたことなどから、実際の配置や賃金には大きな男女格差があった。一般職の女性は短期雇用が想定され、幹部登用を見据えた育成の対象となりにくく、2-2でみた「OL」の典型だったと言える。
1990年代に入ると、育児休業法(現在の育児・介護休業法)など、働く女性を支援する法制度が拡充された。1990年代末には均等法が改正され、採用や昇進の男女均等が義務化され、様々な職場や職種に女性が増えていった。2000年代には、次世代育成支援対策推進法が始まり、女性が仕事と家庭の両立をしやすい環境が整備されてきた。2010年代に入ると、働く女性の結婚・出産退職は少数派となり、社会全体で「働き方改革」が進められてきた。2010年代後半からは、女性の管理職登用が推進され、現在に至る。このような流れの中で、企業によるコース別雇用管理制度の見直しが進み、事実上、性でキャリアパスを分けていた制度も無くなりつつある。
統計的にも、かつて義理チョコ贈答の主役だったと思われる20歳代から30歳代の女性の就業率は、過去約40年で20~30ポイント前後上昇した(図表1)。男女間賃金格差も、ゆっくりとしたペースではあるが、縮小しつつある(図表2)。長期雇用の女性会社員も増えてきた3。
現在の女性会社員の状況をまとめると、2-2で紹介したような、かつてのOLたちの「どうぜ頑張っても昇給・昇格もない」という状況とは様変わりし、男性上司への「サービス」ではなく、職務の成果が求められるようになってきたと言える。企業によっては、管理職昇進までが期待されるようになった。つまり、かつてのOLたちが様々なメッセージを包み隠していた義理チョコという媒体自体が、必要がなくなり、また効果も薄れてきたと言えるのではないだろうか。
3 坊美生子 (2024)「『中高年女性正社員』に着目したキャリア支援 ~『子育て支援』の対象でもなく、『管理職候補』でもない女性たち~」(基礎研レポート)
5――終わりに
日本の経済分野でのジェンダーギャップはまだまだ大きいが、この約40年で、ゆっくりと改善に向かっている。義理チョコは、ゴディバに提唱されるまでもなく、姿を消しつつある。今もバレンタインデーに上司たちにチョコレートを贈っている女性たちは、義理ではなく、寧ろ、本当に感謝の気持ちを込めているのかもしれない。そもそもかつての義理チョコは、「部下が女性で、上司が男性」という配置を前提としているのだから、令和の職場には、図式が成立しない場合もあるだろう。
日本は来年、均等法施行から丸40年を迎える。まだまだ女性の雇用を巡る課題はたくさん残っているが、若い女性たちは、かつてのOLたちのように、手の込んだ贈答をしなくても、チャンスを与えられ、成果によって評価され、能力を発揮していけるような社会になることを願う。女性自身もまた、昔日とは違って、均等に提供されるようになった昇進・昇給のチャンスを逃さず、つかみ取ってほしい。
(2025年01月06日「基礎研レポート」)

03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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