2024年12月25日

米国連邦地裁におけるGoogleの競争法敗訴判決~一般検索サービス市場と検索テキスト広告市場

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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4|一般検索に関連する広告市場
(1) 総論 本件で原告が主張した広告市場としては、1)検索広告市場、2)一般検索広告市場、および3)一般検索テキスト広告市場がある。1)は一般検索エンジンだけではなく、SVPのクエリに応じて表示される広告を含む市場である(検索広告市場)。2)は一般検索エンジンで配信される広告(ショッピング広告と呼ばれる検索結果より上部に表示される広告を含む)市場である(一般検索広告市場)。3)は検索結果ページに表示されるテキスト広告に限定した市場である(一般検索テキスト広告市場)。

裁判所は1)の検索広告市場は存在するが、Googleは独占していない。2)の一般検索広告市場は存在しない。3)の一般検索テキスト広告市場はGoogleが独占力を有する関連市場である。
 
(2) 検索広告市場 検索広告市場には一般検索エンジン、SVP、ソーシャルメディアに入力されたクエリに対して配信される広告が含まれる。Googleはより広いディスプレイ広告を含む広範なデジタル広告市場が存在すると主張する。しかし、検索広告は、それが入力された時点でのユーザーの特定の動機や関心を直接表現するものである点で、より価値の低いディスプレイ広告とは区分され特有の市場を構成している。

広告主もディスプレイ広告と検索広告は別のものと認識している。上述の通り、ディスプレイ広告は広告のファネルの上部に位置し、ファネル下部に位置する検索広告とは別のものとして活用している。Google自体、YouTubeやGmail向けにDiscovery Adsという広告商品をリリースした。これはMetaやTikTokといったファネルの上部に位置するソーシャルメディアにおける広告に対抗するために開発された。

原告は広告主が広告費の値上げに際しても検索広告から乗り換えることはないと主張し、被告はこれを否定している。この点、広告主は何らかのキャンペーンでもない限り、検索広告と他の広告タイプに置き換えることはないと述べている。

原告は、一般検索サービス市場に存在する生産設備(production facilities)の独自性は検索広告市場の生産設備にも該当すると主張するが、この主張は失当である。検索市場にはSVP上の検索広告も含まれるため、これら二つの生産方法は全く重なるわけではない。

検索広告はクリック数に応じて広告費が支払われるが、ディスプレイ広告ではユーザーの目に留まった(インプレッション)に応じて広告費が支払われる。このような広告費の価格設定アプローチはチャネルの異なる目的に合致している。

以上から、デジタル広告全体とは異なる独自の検索広告市場が存在すると考えられる。ただし、原告の主張する検索広告市場はAmazonなどのSVPの検索広告を含んでいない。
 
(3) Googleは検索広告市場で独占的な力を有していない。直接的証拠として、原告はGoogleが一般検索テキスト広告の広告料を上げたことを述べている。しかし、検索広告市場において一般検索テキスト広告市場はその一部にとどまり、直接的証拠にはならない。

間接的証拠としては、立証すべきものとして市場シェア、参入障壁がある。この点、原告の市場シェアの計算上、Amazonが19%となっているが、これにはAmazonの商品ページ広告が除かれている。また、ウォルマートのような検索広告ビジネスを拡大しようとしている企業やオンライン旅行サイトなどもある。結果として裁判所は「競争相手の参入が相対的に容易であるといった市場の現実を無視できない」ため、Googleの検索広告市場における独占力は否定される。
5|一般検索テキスト広告市場における独占
本項で議論しているのは、図表8の色付き部分である。「関連市場」は上記3|で述べた通りである。
【図表8】一般検索サービス広告市場における独占
(1) 一般検索テキスト広告は関連する製品市場である。一般検索テキスト広告は検索結果ページに表示されるが、他のタイプの検索広告、また検索結果ページ上部に掲載されるショッピング広告(PLA)とも異なる特徴がある。

第一にテキスト広告はオーガニック(自然な)検索結果の形式で表示され、かつ広告主のサイトへのウェブリンクを提供する。PLAは検索結果の上部に四角形の枠内に表示される。

第二にテキスト広告は全商品50%オフなどの文字情報を伝えられるが、PLAは写真と簡単な情報のみに限定される。

第三にもっとも重要な点として、テキスト広告はPLAよりもはるかに幅広い広告主が利用できる。PLAは物理的な写真がある商品に限定される。Googleの広告主の92%はテキスト広告のみを利用している。PLAとテキスト広告の両方を購入しているのは5.5%、PLAのみ購入はわずか2%のみである。

広告主はテキスト広告とPLAを別の商品と認識しており、PLAは補完的なものに過ぎない。

入札もテキスト広告とPLAとは別のものである。ユーザーの意図と広告主の価値はそれぞれ異なるため、Googleは入札を統合することを拒否した。また、価格も異なる。テキスト広告はPLAよりも高額である。

Googleは長年にわたり、実質的な広告主を失うことなくテキスト広告の価格を5%以上値上げして採算がとれるかどうかテストしており、その結果はほぼ一貫している(=減少しない)。

したがって、一般検索テキスト広告市場が関連市場であることが証明された。
 
(2) Googleは一般検索テキスト広告市場を独占している。Googleはテキスト広告市場において、大きな参入障壁によって守られた大規模かつ永続的なシェアを保有している。2020年のテキスト市場におけるシェアは88%で2016年の80%から着実に伸びている。

参入障壁は高い。テキスト広告を表示できるのは一般検索エンジンのみであるため、新規参入者は、新規一般検索エンジン開発者と同じような障害に直面する。これらはテキスト広告を表示するためのプラットフォームを構築するための追加コストとリソースによってさらに複雑になる。

したがって、裁判所は、Googleが、一般検索テキスト広告市場を独占していると結論づけた。

6|独占:一般検索広告市場
裁判所は一般検索広告市場が存在しないと判断した。議論は省略する。

8――法律の結論

8――法律の結論(一般検索サービス市場における反競争的行為)

本項8と次項9は一般検索サービス市場における反競争的行為と効果について判決文が取り扱っている。ここで立証すべきは下記図表9の色付き部分である。
【図表9】反競争的行為・効果
1|総論
上述の通り、一般検索市場と一般検索テキスト広告市場についてGoogleは独占力を有している。次に検討すべきはこれらの市場で排他的行為を行ったかである。原告の主張する排他的行為は違法な独占契約、すなわち各種のデフォルト設定契約である。特にAppleと締結しているISAにはクエリをGoogleから迂回させて検索広告を提供する能力を制限する条項が含まれており、通信キャリアやAndroidのOEMと締結しているRSA(収益分配契約)には、パートナーが代替検索サービスをプリロードすることを禁止している。

Googleはプリセットされた一般検索エンジンとしての地位は「契約のための競争」の産物であり、排他的な行為ではないと主張する。

2|契約のための競争
市場の現実は、Googleがデフォルトの一般検索エンジンとして唯一の選択肢であることだ。MicrosoftはAppleに対し、Bingをデフォルトにするように要請したが、性能で劣り、またBingをプリロードするために提示できるような収益分配の値段は存在しないとAppleは考えた。Googleは検索における真の市場競争に直面していない。Googleは優れた先見性や品質によって競争的に市場における最初の支配力を獲得したかもしれないが、ここで問題となるのは実力競争以外でこの地位を維持しようとする努力である。この点、Googleは検索を行う最も効果的なチャネルから競合者を締め出すことで真の競争を妨げてきた。

3|争点である契約は排他的である
一般的に排他的取引の主張の前提となるのは、排他的契約であるが、契約は明示的である必要はなく、また部分的でもよい。事実上の排他性でもよい。

(1) ブラウザ契約 Googleのブラウザ契約は、Googleをそのままデフォルトの検索エンジンとする限りにおいて独占的である。事実認定の部分で述べた通り、主要ブラウザ提供会社であるAppleとMozillaはいずれもGoogleをデフォルトに設定している。ブラウザ契約が、Apple、Mozillaが競合者と契約を締結することを妨げていないという事実だけで契約が非独占的なものとはならない。独占権の問題は、他の取引者が市場に参入したり、市場を残ったりする機会に左右される。Appleがより多くの柔軟性を求めていないとしても、それは市場参入を望む他の取引者に対して、反競争的効果を高める市場の現実である。

またGoogleは、ISAではAppleが第三者の検索アプリやブラウザをAppleのデバイスにプリロードすることを妨げていないと指摘する、市場の現実は理論的に可能であること以上に重要である。現にAppleは第三者のアプリを含むように製品を設計しないことを明らかにしており、Googleの一般検索エンジンは独占的である。

つぎにGoogleはAppleのモバイル端末におけるクエリの40%近く(原文ママ。筆者注:35%程度か)がデフォルト以外の検索アクセスポイント経由であることを指摘している。しかしAppleのデバイスではクエリの65%がデフォルトを経由している。契約は利用可能な流通の機会のうち、相当な割合をライバルに閉ざしているだけで十分である。

さらにGoogleは、ISAはユーザーが競合者の一般検索エンジンにアクセスすることを禁止するものでないと指摘する。ユーザーはデフォルト以外の検索アクセスポイントから、Google以外の検索エンジンを利用できるが、そうすることはほとんどなく、わずか5%に過ぎない。Appleが競合する一般検索エンジンをデフォルトのアクセスポイントに設定(筆者注:ただし、ワンクリック余分に操作する必要がある)したとしても、Googleとの契約が非独占的とはならない。
 
(2) Android契約
AndroidのOEMとの契約であるMADAは排他的である。それには2つの契約要件と2つの市場実態から生ずる。契約要件は、i)Googleの検索枠を端末ホーム画面の中央に配置すること、ii)Chromeをデフォルトの一般検索エンジンとしてホーム画面に表示することである。市場実態としてはア)Google Play StoreはすべてのAndroid端末に必須であること、イ)アプリケーションの過剰なプリロードを避けることが業界慣行であることである。

これらの契約要件と市場実態により競合社は排除され、サムスンは端末からの検索により収益の80%を得ている。

Googleは第一にOEMは端末ベースでGoogle製品を入れるかどうかを決定することができると指摘する。しかし、これは市場実態のア)のこと(=Google Play Storeが必須であること)を見落としている。

またGoogleは端末に第二の検索枠を設けることができることを指摘している。しかしこれも市場実態のイ)のこと(過剰なプリロードを避けること)を見落としている。

RSAは上述の通り、OEMや通信業者と締結する収益分配契約である。RSAの締結は任意であるが。Google製品の排他的な利用がその契約要件となっている。ただし、ベライゾンとサムスンとのRSAは収益分配の割合は低いものの、他の一般検索エンジンをプリロードすることができることになっている。しかし、ベライゾンは一般検索エンジンをGoogleから変更することを検討したが、14億ドルの損失を被るリスクがあるため、Google製品の排他的な利用が唯一の合理的な選択であった。

(2024年12月25日「基礎研レポート」)

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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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