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- 2025年の中国の経済政策方針-米中摩擦再燃を見据えた「桁外れ」の対策の展望
2024年12月23日
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1――情勢認識と基本方針:トランプ政権発足による外部環境悪化を警戒し、経済対策を強化
足元の経済を巡る情勢については、まず「外部環境変化による不利な影響が深まっている」と指摘され、米国での第2次トランプ政権発足に対する警戒感が強く滲み出ている。そのうえで、国内経済に関して、国内の需要不足や企業の経営難、家計の雇用・所得環境の悪化など、不動産不況の長期化の悪影響が広がっているとの認識が示された。
こうした情勢認識のもと、2025年の経済政策運営に関しては、「穏中求進(安定の中で進展を求める)」や「以進促穏(進めることで安定を促す)」など24年にも用いられたスローガンを中心に、経済や物価、雇用、不動産市場、株式市場、貿易、外資などの安定維持を引き続き最重視する方針が強調された。安定実現に向け、24年から実施されている「カウンターシクリカル調節」(景気下支え策)を「桁外れ(「超常规」)」なものとする旨、中央政治局会議で言及されており、景気対策は強化される見込みだ。ただし、財政・金融政策の方針について、後述するように4兆元の景気対策を彷彿とさせる表現が用いられてはいるものの、当時に匹敵するほどの規模は想定されない。過剰債務処理の構造改革が途上にあるなか、必要十分な景気対策の規模を模索するものと考えられる。なお、成長率目標については、25年3月に開催予定の全国人民代表大会(全人代)で明らかになる。25年は、経済不安定化のリスクが強まる可能性が高いが、マインドの悪化を防ぐため、引き続き「+5%前後」に据え置くべきとの提言が中国国内では多くみられる1。
1 例えば「中国政府の経済顧問、25年の成長率目標『5%前後』提案へ」(『Reuters』2024年11月21日、https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/HIG4BCL2NBNIXKXY23B5K6BL7I-2024-11-21/)、「王一鸣:建议2025年经济增长目标定在5%左右,可考虑提高赤字率到3.8%以上(王一鳴氏、2025年の経済成長率目標を5%前後とするよう提言。財政赤字率は3.8%以上まで引き上げることも検討の余地あり)」(『21世纪经济报道』2024年11月30日、https://www.21jingji.com/article/20241130/herald/ba55946a274bcc6ea9a97c9e161a6439.html)。
こうした情勢認識のもと、2025年の経済政策運営に関しては、「穏中求進(安定の中で進展を求める)」や「以進促穏(進めることで安定を促す)」など24年にも用いられたスローガンを中心に、経済や物価、雇用、不動産市場、株式市場、貿易、外資などの安定維持を引き続き最重視する方針が強調された。安定実現に向け、24年から実施されている「カウンターシクリカル調節」(景気下支え策)を「桁外れ(「超常规」)」なものとする旨、中央政治局会議で言及されており、景気対策は強化される見込みだ。ただし、財政・金融政策の方針について、後述するように4兆元の景気対策を彷彿とさせる表現が用いられてはいるものの、当時に匹敵するほどの規模は想定されない。過剰債務処理の構造改革が途上にあるなか、必要十分な景気対策の規模を模索するものと考えられる。なお、成長率目標については、25年3月に開催予定の全国人民代表大会(全人代)で明らかになる。25年は、経済不安定化のリスクが強まる可能性が高いが、マインドの悪化を防ぐため、引き続き「+5%前後」に据え置くべきとの提言が中国国内では多くみられる1。
1 例えば「中国政府の経済顧問、25年の成長率目標『5%前後』提案へ」(『Reuters』2024年11月21日、https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/HIG4BCL2NBNIXKXY23B5K6BL7I-2024-11-21/)、「王一鸣:建议2025年经济增长目标定在5%左右,可考虑提高赤字率到3.8%以上(王一鳴氏、2025年の経済成長率目標を5%前後とするよう提言。財政赤字率は3.8%以上まで引き上げることも検討の余地あり)」(『21世纪经济报道』2024年11月30日、https://www.21jingji.com/article/20241130/herald/ba55946a274bcc6ea9a97c9e161a6439.html)。
2――財政・金融政策の方針:異例の表現で財政拡張、金融緩和の姿勢を強調
1|財政政策:2024年から一段と強化。財政赤字のGDP比は節目の3%を超える見込み
財政政策については、「より積極的な財政政策」とされた。「『より』積極的」との表現は過去にない強いもので、2024年(「積極的な財政政策を適度に強化する」)と比べても、積極姿勢は強まったといえる。
財政政策については、「より積極的な財政政策」とされた。「『より』積極的」との表現は過去にない強いもので、2024年(「積極的な財政政策を適度に強化する」)と比べても、積極姿勢は強まったといえる。

財政出動の中身に関しては、重点を、24年の供給側から需要側へ、企業側から家計側へと移す考えのようだ2。具体的には、中低所得者層の所得増による消費の底上げ、サービス消費を中心とした新たな消費分野の開拓などが挙げられている。また、設備投資の更新と消費財の買い替え(「両新」)や、国家重大戦略・重点領域(「両重」)に関するインフラ建設のほか、住宅在庫・遊休地の買い取りなど、24年から実施されている対策も継続される見込みだ。このほか、大手国有銀行への資本注入や、地方政府隠れ債務の借り換えなども実施されるだろう。
具体策は、25年3月開催予定の全国人民代表大会(全人代)を経て、決定、発表されることになる。需要押し上げに寄与するいわゆる「真水」の規模がどの程度となるか、不動産不況に対する中央政府の介入があるか、また、「両新」について25年に予想される反動減を打ち消すことができるか等が注目点となる。
2 例えば、「総供給と総需要の関係をうまく統合し、国民経済が円滑に循環するようにしなければならない」と指摘され、24年中にみられた供給側に偏った政策のバランスを見直す考えが示唆されている。また、23年の同会議では、重点施策の第1が「現代的産業システムの構築」、第2が「国内需要の拡大」であったのに対して、今回は第1が「全方位での需要拡大」、第2が「現代的産業システムの構築」となっている。そのうえで、需要不足の問題に対して、「特に家計の消費需要の喚起に力を入れる」とされた。
2|金融政策:緩和のスタンスが明確に。従来以上の利下げが実施される可能性
金融政策については「適度に緩和的な金融政策」とされた。利下げなどの金融緩和はこれまでも実施されてきたが、金融政策の基本スタンスは、2011年から現在に至るまで、あくまでも「穏健な金融政策」であった。「適度に緩和的」な政策スタンスは、世界金融危機対応時(2009~10年)以来のものであり、従来よりも強力な金融緩和が実施される可能性を示唆している。
金融政策については「適度に緩和的な金融政策」とされた。利下げなどの金融緩和はこれまでも実施されてきたが、金融政策の基本スタンスは、2011年から現在に至るまで、あくまでも「穏健な金融政策」であった。「適度に緩和的」な政策スタンスは、世界金融危機対応時(2009~10年)以来のものであり、従来よりも強力な金融緩和が実施される可能性を示唆している。

なお、人民元に関しては、24年と同じ方針とされたが、国内で金融緩和が進む一方、米国ではトランプ政権の政策により金利上昇圧力が強まり、人民元安に振れやすい環境となるだろう。その場合、当局は、安定維持の介入ツール(逆周期因子)で過度な元安には歯止めをかけると予想されるが、輸出への下押し緩和のため、一定の人民元安は許容される可能性がある。国内金融政策や米中間の通商交渉との兼ね合いも踏まえ、どのような為替政策となるか注目される。
3 資金供給量についても、M2の伸びが2009年は前年比27.7%と同年の名目GDP成長率(9.2%)を大きく上回ったが、25年については経済成長率および物価目標に見合った水準とする方針とされ、過度な流動性供給は想定されていない。
(2024年12月23日「基礎研レター」)

03-3512-1787
経歴
- 【職歴】
・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
・2009年:同 アジア調査部中国室
(2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
・2020年:同 人事部
・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
三浦 祐介のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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