2024年12月06日

ホテル市況は好調持続。物流市場は空室率が高止まり-不動産クォータリー・レビュー2024年第3四半期

基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.333]

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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2024年7-9月期の実質GDPは2四半期連続のプラス成長となった。

住宅市場では、価格上昇が継続するなか、販売状況は低調である。地価は住宅地、商業地ともに上昇している。

オフィス賃貸市場は、東京Aクラスビルの成約賃料(月坪)は4四半期連続で上昇した。東京23区のマンション賃料は全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。ホテル市場は2024年7-9月の延べ宿泊者数が2019年対比で+7.3%増加した。物流賃貸市場は、首都圏の空室率が10.1%と高止まりしている。第3四半期の東証REIT指数は+0.1%上昇した。

1―経済動向と住宅市場

2024年7-9月期の実質GDPは、所得税・住民税減税を背景に民間消費が高い伸びとなったことを主因として前期比0.2%(前期比年率0.9%)と2四半期連続のプラス成長となった。

ニッセイ基礎研究所は、9月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2024年度+0.7%、2025年度+1.1%を予想する。2024年度後半以降は、民間消費、設備投資を中心に潜在成長率を若干上回る年率1%前後の成長が続く見通しである。

住宅市場では、住宅価格の上昇が続くなか、販売状況などは低調である。

9月の首都圏のマンションの平均価格は7,739万円(前年同月+15.0%)と上昇した。一方、7-9月の新規発売戸数は、4,054戸(前年同期比▲34.4%)と減少した[図表1]。

また、2024年8月の住宅価格指数(首都圏中古マンション)は前月比+0.2%、過去1年間の上昇率は+6.6%となった。一方、7-9月の首都圏の中古マンション成約件数は、8,539件(前年同期比▲2.9%)となり5四半期ぶりに減少した。
[図表1]分譲マンション新規発売戸数暦年比較

2―地価動向

地価は住宅地、商業地ともに上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2024年第2四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「80」となり、前回に続き、全ての地区が上昇となった。同レポートでは、「住宅地では利便性や住環境に優れた地区におけるマンション需要に堅調さが認められたこと。商業地では店舗需要の回復傾向が継続しオフィス需要も底堅く推移したことなどから上昇傾向が継続した」としている。

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2024年第3四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は26,796円( 前期比+0.0%、前年同期比+8.7%)と4四半期連続で上昇し、空室率は6.4%(前期比+0.7%、前年同期比▲0.3%)となった[図表2]。三幸エステートは、「供給量がピークを越えたことに加え、オフィス需要は拡大傾向が続いていることから、来期の空室率は改善する可能性が高い」としている。

ニッセイ基礎研究所は、東京都心部Aクラスビルの賃料見通しを9月に改定した。空室率は2024年にやや改善した後、6%付近で推移すると予測する。また、成約賃料(2023年=100)は、2024年に「107」、2025 年に「109」、2028 年に「104」となる見通しである。

東京オフィス市場では賃料の回復基調が明確になっているものの、来年にオフィスの大量供給を控えるなか、需要拡大に伴う賃料上昇の持続性が試されることになる。
[図表2]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
2│賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、全ての住居タイプが前年比でプラスとなった。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2024年第2四半期はシングルタイプが+4.9%、コンパクトタイプが+3.4%、ファミリータイプが+1.1%となった[図表3]。
[図表3]東京23区のマンション賃料
3│商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、インバウンド消費の拡大を受けて施設売上が増加している。商業動態統計などによると、2024年7-9月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+3.8%、スーパーが+1.8%、コンビニエンスストアが+0.4%となった[図表4]。
[図表4]百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
ホテル市場は、インバウンド需要が牽引し宿泊者数はコロナ禍前の水準を上回って推移している。宿泊旅行統計調査によると、2024年7-9月累計の延べ宿泊者数は2019年同期比で+7.3%増加し、このうち日本人が+0.5%、外国人が+39.6%となった[図表5]。また、STR社によると、9月のホテルRevPARは2019年同月比で全国が+28%、東京が+33%、大阪が+35%と好調が続いている。
[図表5]延べ宿泊者数の推移(2019年同月比、2020年1月~2024年9月)
物流賃貸市場は、首都圏では新規供給の影響を受けて空室率が高止まりしている。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2024年9月末)は10.1%(前期比+0.4%)に上昇し、約14年ぶりに10%を超えた。また、近畿圏の空室率は4.0%(前期比+0.3%)に上昇した[図表6]。

一五不動産情報サービスによると、2024 年7月の東京圏の募集賃料は4,820円/月坪( 前期比▲0.8%)となり、4四半期ぶりに下落した。
[図表6]大型マルチテナント型物流施設の空室率

4―J -REIT(不動産投信)市場

2024年第3四半期の東証REIT指数(配当除き)は6月末比+0.1%上昇した。セクター別では、オフィスが+3.2%、住宅が▲2.1%、商業・物流等が▲2.1%となり、オフィスセクターが堅調であった[図表7]。9月末時点のバリュエーションは、純資産12.1兆円に保有物件の含み益5.6兆円を加えた17.7兆円に対して時価総額は14.9兆円でNAV倍率*は0.84倍、分配金利回りは4.8%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.9%となっている。J-REITによる第3四半期の物件取得額は3,660億円(前年同期比+22.6%)、1-9月累計では1兆1,133億円( 同+22.9%)となり昨年1年間の取得額(1兆1,043億円)を大幅に上回った[図表8]。アセットタイプ別では、ホテル(28%)・オフィスビル(23%)・住宅(23%)・物流施設(17%)・商業施設(5%)・底地ほか(4%)となり、ホテルは好調なインバウンド需要を背景に今後も収益拡大が期待できるアセットとして取得意欲が高く、年間取得額は既に過去最大の規模となっている(16年2,808億円→24年1-9月3,101億円)。
[図表7]東証REIT指数の推移(2023年12月末=100)
[図表8]J-REITによる物件取得額(四半期毎)
 
* 市場時価総額がリートの解散価値(NAV:Net Asset Value)の何倍で評価されているかを表わす指標。

(2024年12月06日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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