コラム
2024年12月04日

日本の木造中古戸建て住宅価格の中央値は1,600万円(2023年)~アメリカは39万ドル余で日本の3倍以上だが、経年減価が米国並みになり為替も購買力平価に収斂すれば同程度に~

金融研究部 客員研究員 小林 正宏

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国土交通省「不動産情報ライブラリ」に登録されている2023年に取引された戸建て住宅(「土地と建物」)は153,912件ある。このうち、築後経過年数が2年以上1の物件を中古住宅とし、「建物の構造」が『木造』、「用途」及び「今後の利用目的」が『住宅』、「最寄駅:距離(分)」が29分以内、「敷地面積(m2)」が10m2以上2,000m2未満、「延床面積(m2)」が2,000m2未満に絞ると、22,230件となる。その平均値を見ると、取引価格が2,158万円となっているが、東京都は5,117万円と突出しており、全体の平均を大きく引き上げている(図表1)。
 
全体像を見るには平均値よりも中央値と言われることもあるが、22,230件を取引価格の順番で並べて11,115番目・11,116番目となる物件の取引価格は、いずれも1,600万円ちょうどであった。これが日本の木造中古戸建て住宅価格の中央値の一つの参考事例となるだろう。平均値と比較すると25.8%ほど低い水準ということになる。
 
アメリカの戸建て2中古住宅価格の2023年の中央値が394,100ドル、暦年の為替相場の平均が140.50円/ドルだったので円換算すると5,537万円で、日本の3.46倍となる。これは日本の住宅の経年減価がアメリカよりも厳しいことが主因である3
図表1 都道府県別の木造中古住宅価格平均値等
日本の新築戸建て住宅価格の中央値は筆者の知る限り公表されているデータはない。そこで、上記抽出条件のうち、築後経過年数が2年未満を新築とみなして、該当する19,208件の9,604番目の金額を見ると、4,200万円であった。よって、中央値同士の比較として、中古の新築に対する比率は38.1%(1,600万円÷4,200万円)となる。アメリカの同比率は92.0%であり、日本の中古住宅の価格下落が厳しいことが歴然となる(図表2)。仮に日本でも中古住宅の価格が米国並みに維持されていれば、前述の日米倍率は1.43倍に縮小する。更に、為替がIMFの試算による購買力平価492.658円であれば、日米倍率は0.96倍と逆転する。住宅の経年減価が米国並みになり為替も購買力平価に収斂すれば日米の中古住宅価格は同程度になる。
図表2 日米の中古住宅の新築住宅に対する価格比
なお、複数のサンプルが存在する市区町村別に見ると、東京都渋谷区、港区、目黒区、文京区、世田谷区に続き、東京特別区以外では国立市が第6位に入っている5。また首都圏以外では、愛知県名古屋市名東区が第7位、兵庫県芦屋市が第11位となっている他、長野県北佐久郡軽井沢町が第28位に入っているのが目を引く(図表3)。昨今のインバウンドも含めた別荘の需要増加が顕在化しているものと思われる。敷地面積や建物面積が異なることから、それぞれの市区町村のブランド力を示すものではない点に留意する必要がある6
図表3 市区町村別の木造中古住宅価格平均値等
また、100万円刻みで見た場合の価格帯別の分布についても、1,000万円の刻みのところで段差があるのも興味深い。特に、2,000万円以上では1千万円のキリのよい価格帯の件数が前後よりも増えるのに対し、1,000万円のところでのみ逆に少なくなっている(図表4)。
 
いずれにしても、住宅の価値をいかに維持していくのかは引き続き人口減少下の日本において大きな課題である。
図表4 価格帯別の取引件数(1億円未満のみ)
 
1 戦前及び不明は除く。
2 米商務省によれば、アメリカの戸建て住宅の9割以上は木造。
3消えた580兆円~住宅投資をしても残高の増加は限定的~」(ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2024年7月25日)
4 Implied PPP conversion rate, IMF World Economic Outlook Database, October 2024より
5 千代田区については、上記抽出条件に合致するサンプルがない。
6 株式会社東京カンテイの「市況レポート」では中古一戸建て供給動向において、木造・所有権物件のうち、敷地面積100m2~300m2の物件についてのみ集計している。上記に加え、この敷地面積要件で更に絞った場合、取引価格の平均値は2,230万円、中央値は1,700万円とやや高くなる。市区町村別に見ると、敷地面積100m2以下の物件の多かった都心部で平均値が上がっており、東京都文京区、新宿区、世田谷区が1億円超えとなった。一方で別荘地の広大な300m2以上の敷地が多かったと思われる軽井沢は平均3,380万円で122位に後退している。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年12月04日「研究員の眼」)

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金融研究部   客員研究員

小林 正宏 (こばやし まさひろ)

研究・専門分野
国内外の住宅・住宅金融市場

経歴
  • 【職歴】
     1988年 住宅金融公庫入社
     1996年 海外経済協力基金(OECF)出向(マニラ事務所に3年間駐在)
     1999年 国際協力銀行(JBIC)出向
     2002年 米国ファニーメイ特別研修派遣
     2022年 住宅金融支援機構 審議役
     2023年 6月 日本生命保険相互会社 顧問
          7月 ニッセイ基礎研究所 客員研究員(現職)

    【加入団体等】
    ・日本不動産学会 正会員
    ・資産評価政策学会 正会員
    ・早稲田大学大学院経営管理研究科 非常勤講師

    【著書等】
    ・サブプライム問題の正しい考え方(中央公論新社、2008年、共著)
    ・世界金融危機はなぜ起こったのか(東洋経済新報社、2008年、共著)
    ・通貨で読み解く世界経済(中央公論新社、2010年、共著)
    ・通貨の品格(中央公論新社、2012年)など

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【日本の木造中古戸建て住宅価格の中央値は1,600万円(2023年)~アメリカは39万ドル余で日本の3倍以上だが、経年減価が米国並みになり為替も購買力平価に収斂すれば同程度に~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

日本の木造中古戸建て住宅価格の中央値は1,600万円(2023年)~アメリカは39万ドル余で日本の3倍以上だが、経年減価が米国並みになり為替も購買力平価に収斂すれば同程度に~のレポート Topへ