コラム
2024年11月21日

なぜ日本の出生率は韓国より高いだろうか

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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韓国も日本も低出生率が続いている。特に韓国の出生率の低下は深刻だ。韓国の出生率は2001年から日本の出生率を下回り始め、最近ではその差がますます広がっており、2023年の日本の出生率は1.20で、韓国の0.72を大きく上回っている。韓国と日本の少子化の原因は似ているにもかかわらず、なぜ日本の出生率は韓国よりも高い水準を維持しているのだろうか。データに基づき、その原因を探ってみたい。
日本と韓国の合計特殊出生率の推移
まず、第一の原因として、日本の男性および女性の初婚年齢が韓国より低いことが挙げられる。2022年現在、男性と女性の平均初婚年齢は韓国がそれぞれ33.7歳と31.3歳であるのに対し、日本は31.1歳と29.7歳で、韓国より男性は2.6歳、女性は1.6歳低い。男性については、韓国では兵役の義務があるため、日本より高いと言えるが、兵役の義務がない女性に関しても日本より高くなっている。韓国保健社会研究院などの調査結果によると、結婚を1年遅らせると、生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)が0.1人減ると分析されている。
日本と韓国の男女別初婚年齢(2022年)
第二の原因として、生涯未婚率(45~49歳)は日本が男性29.9%、女性19.2%で、韓国の男性20.5%、女性9.8%より高いが、子供を出産する年齢層である20代半ばと30代前半の未婚率は韓国が日本より高いことが挙げられる。具体的には、韓国の未婚率は20代半ばの男性は92.2%、女性は82.0%、30代前半の男性は65.9%、女性は46.0%であるのに対して、日本の20代半ばの男性は76.4%、女性は65.8%、30代前半の男性は51.8%、女性は38.5%で大きな差がある。
日本と韓国の年齢階級別未婚率の推移(2022年)
第三の原因は、日本の結婚式にかかる費用(挙式、披露宴・ウエディングパーティー、ハネムーンにかかる費用の総額)が韓国より低い点である。「ゼクシィ 結婚トレンド調査2023」によると、2023年時点の日本の結婚費用の総額は平均415万7000円で、韓国の3,386万円(3億474万ウォン)の約8分の1程度である。このように平均結婚費用が大きく異なる理由は、日本では結婚後に、毎月家賃を支払う形で家を借りる若者が多いことに対し、韓国では伝貰(チョンセ、借り主が契約時に住宅価格の5~8割程度の金額(チョンセ金)を貸主に預け、貸主はこの金額を運用して収益を得ることで家賃代わりとする制度)という形で家を借りる若者が多いためである。

第四の原因は、日本の大卒者の就職率が韓国より高く、大企業と中小企業の賃金や待遇水準の格差が韓国より小さいことである。厚生労働省と文部科学省が発表した「令和5年度大学等卒業者の就職状況調査(4月1日現在)」によると、日本の大卒者の就職率は98.1%に達しており、韓国の69.6%(2022年)を大きく上回っている。一方、韓国経営者総協会が2021年に発表した調査結果を参考にすると従業員数10~99人企業と比較した大企業の大卒初任給は、韓国が1.52倍で、日本の1.13倍より高く、韓国で大企業と中小企業の賃金差が大きいことが分かった。

第五の原因は、日本では韓国より大学進学率が低い代わりに専門学校進学率が高く、ミスマッチが韓国より少ない点である。2023年現在、日本の専門学校数は2,676校で、約55万8千人の学生が在籍している。専門学校を卒業した若者は、大企業に入社するのではなく、自分の専門性を活かして労働市場に参加しようとする傾向が強いため、韓国よりもミスマッチが少なく、高い就職率につながっている。

第六の原因は、女性活躍推進の対象企業が韓国より多く、女性の労働市場参加がより活発であることが挙げられる。日本政府は2016年4月から「女性活躍推進法」を施行し、従業員101人以上の事業主に対して、女性の採用比率や勤続年数の男女差、労働時間の状況などを公表することを義務付けている。これに対し、韓国の積極的雇用改善措置は500人以上の民間企業及び公共機関に限定されている。

以上の原因以外にも、韓国は高い私教育費(授業料や教材費等に関して個人が負担している家計支出)により多子化を敬遠する傾向が強い点、首都圏集中率が日本より高く若者の間で競争が激しいこと、少子化関連財源を確保するための議論が十分に行われておらず、少子化財源が限られている点、政権交代により制度が継続的に実施されていない点などが挙げられる。

今後、韓国が日本との出生率格差を縮小するためには、何よりも若者世代が安定した仕事を得られるような対策が必要だ。そのためには、大学中心の教育政策を改善し、ミスマッチを解消することが求められる。また、何をするにしても大学を卒業しなければならないという意識や、大卒者を優遇する風潮も変える必要がある。大学に進学しなくても、自分の分野で努力すれば認められる社会を築くべきであり、そのためには国民全体の意識改革が急務だ。韓国政府は、子育て世帯に対する経済的支援などの対策に加え、国民の意識を改善するための多様な対策を講じる必要があると考えられる。

(2024年11月21日「研究員の眼」)

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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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