2024年11月21日

グローバル株式市場動向(2024年10月)-米国金利の上昇から株式市場は下落へ

金融研究部 准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任 原田 哲志

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1――米国金利の上昇からグローバル株式市場は下落へ

2024年10月、グローバル株式市場は上旬には米国企業の決算への期待や景気軟着陸の見込みにより上昇したが、その後はトランプ氏の米大統領選当選によるインフレを見込んだ米国金利(米国10年国債利回り)の上昇や中東情勢の不透明さから下落し、月間では下落となった。また、代表的な世界株指数(含む新興国)であるMSCI All Country World Index (MSCI ACWI)の騰落率1は2024年10月▲2.3%、過去1年(2023年11月-2024年10月)では+30.7%となっている(図表1)。

先進国と新興国を比べると、先進国・新興国ともに下落、新興国がより騰落率が低かった。先進国(MSCI World Index)が▲2.0%、新興国(MSCI Emerging Markets Index)が▲4.4%となった(図表2)。
図表1 世界株指数の推移/図表2 先進国・新興国指数の推移
グロース・バリューでは、グロース指数(MSCI ACWI Growth Index)が▲2.0%、バリュー指数(MSCI ACWI Value Index)が▲2.6%とグロース優位となった(図表3)。企業規模別では、大型株(MSCI ACWI Large Cap Index)が▲2.2%、中型株(MSCI ACWI Mid Cap Index)が▲3.0%、小型株(MSCI ACWI Small Cap Index)が▲2.9%と大型株の騰落率が高かった(図表4)。
図表3 グロース・バリュー指数の推移/図表4 企業規模別指数の推移
 
1 以下、特に断りのない限り騰落率は米ドル建、配当を除いた指数値の変化率を示す。

2――国・業種別の動向

2――国・業種別の動向

国別に見ても多くの国が下落した(図表5)。主要国について見ると、米国(▲0.8%)、中国(▲5.9%)、ドイツ(▲4.4%)、日本(▲3.7%)となった。騰落率が高かった国・地域はアルゼンチン(+18.1%)、パキスタン(+6.0%)、台湾(+3.9%)だった。一方で、ポルトガル(▲12.2%)、オランダ(▲11.2%)、トルコ(▲9.7%)の騰落率が低かった。

米国は月前半、好決算や景気軟着陸への期待が強まったことから上昇したがその後はトランプ氏の米大統領選当選によるインフレを見込んだ金利の上昇から下落し、月間では小幅下落となった。

日本では、米国金利の上昇による日米金利差の拡大から円安が進行した。これにより企業の業績改善期待から円建てでの株価は上昇した。ただし円安によりドル建てでは下落となった。

中国では、前月から今月上旬まで経済・不動産市場支援策発表により急騰したが、その後投資家の買いが失速したことや政策の内容を慎重に見極める動きから下落した。

アルゼンチンでは、ハビエル·ミレイ大統領により物価安定に向けた政策が続けられている。8月時点では消費者物価指数は前年比236.7%上昇していたが、9月の消費者物価指数は前年比209%上昇(前月比3.5%上昇)に鈍化した2。こうした物価安定による経済正常化や規制緩和への期待から株式市場は上昇した。

ポルトガルでは、10月8日に中央銀行が発表した四半期経済報告で今年の経済成長見通しを6月時点の2.0%から1.6%に下方修正しており、経済の減速が懸念されたことから下落した3
図表5 各国の株式市場の騰落率
業種別に見ると、半導体・半導体製造装置(+9.6%)、その他金融(+7.6%)、消費者サービス(+7.3%)の騰落率が高かった。一方で、 耐久消費財・アパレル(▲4.1%)、家庭用品・パーソナル用品(▲3.4%)、素材(▲0.4%) の騰落率が低かった(図表6)。
図表6 グローバル株式市場の業種別騰落率
 
2 ロイター通信、「アルゼンチンCPI上昇率、9月は209%に鈍化 労働者なお苦境」、2024年10月11日
3 ロイター通信、「ポルトガル中銀、今年と来年の成長率予想を下方修正」、2024年10月9日

3――世界の主要企業の株価動向

3――世界の主要企業の株価動向

世界の主要な企業の株価は半導体関連銘柄が上昇した一方で、下落した銘柄も多かった (図表7)。時価総額上位30位までの企業では、エヌビディア(+9.3%)、ネットフリックス(+6.6%)、台湾セミコンダクター(TSMC)(+6.4%)のリターンが高かった。一方で、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(▲13.7%)、テンセント・ホールディングス(▲9.1%)、イーライリリー(▲6.3%) のリターンが低かった。エヌビディアは製品の出荷遅延やAI半導体への需要の持続性への懸念があったが、これらの懸念が後退し成長期待が高まったことから上昇した。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは10月15日に発表した2024年第三四半期の売上高が前年同期より3%減少と市場予想を下回ったことにより下落した4。中国での高級品需要の減少などが業績悪化につながった。
図表7 世界の主要企業の株価動向
 
4 ロイター通信、「仏LVMHは3%減収 中国と日本での業績軟化で」、2024年10月16日

4――今後の見通しと注目されるテーマ

4――今後の見通しと注目されるテーマ

グローバル株式市場は米国金利の上昇などから下落した。10月22日、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通しを公表した5。IMFは今年の世界経済成長予測を3.2%と予測、前回の予測を維持した。金融引き締めなどによる物価上昇の沈静化に成功するとともに経済は堅調な状況が続いているとしている。ただし、インフレ率が低下する中で緩和的な金融・財政政策への転換が必要と指摘した。

こうした政策の転換が求められ連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを行う一方で、トランプ氏の米大統領選当選により、10年国債に代表される長期金利は上昇しており今後の金利見通しは不透明な状況となっている。トランプ氏は強硬な政治姿勢で知られており、政策、外交の見通しが難しい。

トランプ氏は対中関税の引き上げや米国での減税、電気自動車の購入補助の廃止といった政策を掲げているが、米欧と中国の関税引き上げの応酬となった場合、世界経済の失速につながりかねないリスクがある。こうした保護主義的政策が実施された場合、世界の貿易・経済に悪影響を与えることが考えられる。政治的リスクが高まる中、今後の米国や中国、主要国の政策動向が注目される。
 
5 国際通貨基金、「2024年10月世界経済見通し 政策の転換、高まる脅威」、2024年10月22日
 
 

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(2024年11月21日「基礎研レター」)

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金融研究部   准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、ESG

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

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