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2024年09月04日
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昨年12月に公表された「資産運用立国実現プラン」において盛り込まれた「ベンチャー投資の促進に向けた環境整備を図るため、ベンチャーキャピタル(VC)向けのプリンシプルを策定する」という方針に基づいて、その策定が進められている。金融庁と経済産業省により日本でのベンチャーキャピタル規範の具体化に向けて有識者会議が行われたが、業界関係者からは慎重な意見が相次いだ1。ベンチャー投資では、投資規模、経営支援の内容、投資を行う段階、出口戦略などは投資家によって異なるなど様々な投資手法が用いられており、政府主導の規範の策定によりこうしたベンチャー投資の多様性が損なわれることが懸念されたためだ。このことから、「ベンチャーキャピタルに推奨・期待される事項」に位置付けを変更し、策定主体も金融庁から有識者会議に変更した。
ベンチャーキャピタルに推奨・期待される事項に盛り込むべき内容としては(1)受託者責任・ガバナンス、(2)利益相反管理等、(3)情報提供、(4)投資先企業の価値向上、(5)その他(ESG等)が挙げられている(図表1)。しかし、例えば投資先の上場後の対応において、上場後も投資を継続し上場後の企業成長を促すことが望ましいとされる一方で、上場後は速やかに投資資金を回収し、次の投資サイクルに移ることが効率的と考える投資家もいる。投資スタイルに一律の要求をすることは、新興・小規模のファンドにとって負担となるなどベンチャー投資の広がりを抑制してしまう可能性もある。
ベンチャーキャピタルに推奨・期待される事項に盛り込むべき内容としては(1)受託者責任・ガバナンス、(2)利益相反管理等、(3)情報提供、(4)投資先企業の価値向上、(5)その他(ESG等)が挙げられている(図表1)。しかし、例えば投資先の上場後の対応において、上場後も投資を継続し上場後の企業成長を促すことが望ましいとされる一方で、上場後は速やかに投資資金を回収し、次の投資サイクルに移ることが効率的と考える投資家もいる。投資スタイルに一律の要求をすることは、新興・小規模のファンドにとって負担となるなどベンチャー投資の広がりを抑制してしまう可能性もある。
もっとも、現状は国内のベンチャー投資について十分な業界標準が形成されておらず、欧米と比較して日本は投資先企業の公正価値による評価が浸透していないことなどから、投資家がベンチャー投資ファンドの比較・検討を円滑に行うための情報開示の充実や標準の策定が望まれる面もある。
海外での非上場株式投資に関する標準としては、非上場株式投資を行うLPのために設立された非営利団体であるILPA(Institutional Limited Partners Association)によって非上場株式投資におけるベスト・プラクティスとしてPrivate Equity Principlesが2009年に公表された。Private Equity Principlesは(1)透明性、(2)ガバナンス、(3)(GPとLP2の)利害の一致に関する項目から構成されており、GPとLPの対話を促すことを目的としている。ベンチャーキャピタル向けの指針の策定にあたって、海外機関投資家からの日本のベンチャー投資ファンドへの投資を促していく上で、こうした国際的な標準を踏まえることが求められる。
また、現状ではスタートアップとの事業連携や出資契約においても成長を阻害する問題が指摘されている。公正取引委員会の実態調査によれば、スタートアップ側の契約・法律に関するリテラシー不足や契約違反が行われたとしても訴訟に耐える資金がないことを認識した上で、営業秘密の開示要求や取引先の制限など独占禁止法上問題がある過度な要求が行われている場合があると指摘されている(図表2)。こうしたことから公正取引委員会は「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」を公表しており、その浸透が望まれる。
政府が目標として掲げるスタートアップの育成やエコシステムの構築には、ここで述べたスタートアップへの資金供給の点以外にも経営ノウハウや人材獲得など様々な課題点が挙げられる。しかし、様々なスタートアップ支援の取組みが続けられてきたこともあり、現在ではメルカリなどの成功事例の蓄積やスタートアップに対するイメージの向上、人材供給の増加につながっている。様々な障壁を取り除き事業成長を支援する環境を整備していくことが、さらなるスタートアップへの投資と成長につながるだろう。スタートアップが事業の成長とイノベーションの実現に集中できる公正な環境を整備していくことが求められる。ベンチャー投資に関する環境整備の動向に引き続き注目したい。
海外での非上場株式投資に関する標準としては、非上場株式投資を行うLPのために設立された非営利団体であるILPA(Institutional Limited Partners Association)によって非上場株式投資におけるベスト・プラクティスとしてPrivate Equity Principlesが2009年に公表された。Private Equity Principlesは(1)透明性、(2)ガバナンス、(3)(GPとLP2の)利害の一致に関する項目から構成されており、GPとLPの対話を促すことを目的としている。ベンチャーキャピタル向けの指針の策定にあたって、海外機関投資家からの日本のベンチャー投資ファンドへの投資を促していく上で、こうした国際的な標準を踏まえることが求められる。
また、現状ではスタートアップとの事業連携や出資契約においても成長を阻害する問題が指摘されている。公正取引委員会の実態調査によれば、スタートアップ側の契約・法律に関するリテラシー不足や契約違反が行われたとしても訴訟に耐える資金がないことを認識した上で、営業秘密の開示要求や取引先の制限など独占禁止法上問題がある過度な要求が行われている場合があると指摘されている(図表2)。こうしたことから公正取引委員会は「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」を公表しており、その浸透が望まれる。
政府が目標として掲げるスタートアップの育成やエコシステムの構築には、ここで述べたスタートアップへの資金供給の点以外にも経営ノウハウや人材獲得など様々な課題点が挙げられる。しかし、様々なスタートアップ支援の取組みが続けられてきたこともあり、現在ではメルカリなどの成功事例の蓄積やスタートアップに対するイメージの向上、人材供給の増加につながっている。様々な障壁を取り除き事業成長を支援する環境を整備していくことが、さらなるスタートアップへの投資と成長につながるだろう。スタートアップが事業の成長とイノベーションの実現に集中できる公正な環境を整備していくことが求められる。ベンチャー投資に関する環境整備の動向に引き続き注目したい。
1 日本経済新聞「ベンチャーキャピタル規範策定、有識者会議で異例の反発」、2024年5月11日
2 GP・LPとは、ベンチャー投資で用いられる仕組みである投資事業有限責任組合制度での無限責任組合員(General Partner)と有限責任組合員(Limited Partner)を指す。LPが出資した金額の範囲内での有限責任の投資家であるのに対して、GPは無限責任を負うファンドの管理運営者の役割を持つ。
(2024年09月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
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