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中堅企業とは何なのか?~新たに始まる改正産業競争力強化法の支援~

総合政策研究部 主任研究員 小原 一隆
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1――はじめに
これによりどのような影響があるか。また、これまではどうだったのだろうか。
1 議案名「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」衆議院にて2024年2月16日議案受理。
2――これまではどう捉えられてきたか
従前は、中堅企業に関する法律上の規定は無かったが、政府の資料で記載される場合は、ケースバイケースでの定義となっていたこともあった。例えば中小企業白書(2023年版)においては、一部図表の説明で、「(注)ここでいう大企業とは資本金10億円以上、中堅企業とは資本金1億円以上10億円未満、中小企業とは資本金1千万円以上1億円未満の企業を指す。」と説明されている。
中堅企業の研究者によると、清水(2004)では、種々の先行研究を紹介し、その定義を従業員301人以上の未上場企業と証券取引所二部上場、および独立企業としている2。また、ある経済学辞典においては、中堅企業の基本的特徴として、以下5点が挙げられている3。
(1) 大企業の子会社ではなく、資本的にも経営的にも独立した会社であり、たんに中小規模をこえたというだけの企業ではない。
(2) 証券市場を通じて社会的な資本調達が可能な規模に達している。
(3) 個人・同族会社的な性格を強くもつという点で大企業と区別されるが、他面でその性格を除去するため、所有と経営の分離、専門能力をもつ人的資源の蓄積、近代的経営管理組織の整備などに努力している点で、中小企業一般とは質的に異なる。
(4) 独自の技術や製品の選択・開発にもとづき、高い生産集中度と参入障壁を実現しており、総資本利益率が高い。
(5) 経営者が家業の枠にとらわれずに企業中心主義に徹し、産業の指導者としての性格をもっている。
40年以上前の記述であるが、我々が何となく連想する中堅企業のイメージを表しているように感じられる。
現状、企業を規模等で区分する法律は存在する。例えば中小企業基本法では以下のように規定するが、中堅企業についての定めは無い(図表1)。
2 清水馨(2004)「中堅企業の成長要因:中堅企業研究のサーベイから」『千葉大学 経済研究』第19巻第1号、p. 99
3 滝沢菊太郎(1980)「中堅企業」熊谷尚夫他(編)、『経済学大辞典(第2版)II』、p. 203
(中村秀一郎『中堅企業論』東洋経済新報社、1964,増補第3版、1976 を参照)
3――目的は何か
ようやく、法令において、中堅企業の定義が定められたわけだ。先行研究等で抽出された特徴では定性的な観点が含まれどうしても解釈の余地があった。また、資本金要件で見ると、租税回避のために減資をする大企業の例があったことから、果たして適切なのかといった観点もあったかもしれない。従業員数で切り分けると解釈の余地などもなく、非常に簡素である。むしろ大企業の中に新たなカテゴリーを作ったともいえよう。
産業競争力強化法の改正の背景は、30年ぶりの賃上げ・国内投資という潮目の変化に直面し、日本経済を成長軌道に乗せていくために戦略的国内投資拡大と、それにつながるイノベーションや新陳代謝の促進に向けた経済の構造改革を目的とし、税制措置と、中堅企業・スタートアップへの集中支援措置を行うものである。
なかでも賃金水準が高く国内投資に積極的な中堅企業者を特定中堅企業者とし、特定中堅企業者または中小企業者が複数回のM&Aを行う場合の税制優遇措置4、日本政策金融公庫による大規模・長期の金融支援、知的財産管理に関する助成・助言などの措置を行うとともに、特定中堅企業者が地域未来投資促進法の計画承認を受けた場合、設備投資減税を拡充することとしている5,6。
経済産業省によると、中堅企業は、国内投資・国内売上を拡大し、国内経済の成長に最も大きく貢献することが期待されている。また、地方に多く立地し、大企業を上回る従業者数・給与総額の伸び率を示している。よって、地域の若年層の所得増加を通じた少子化対策にも資することや、成長企業への経営資源の集約化や労働移動を通じた新陳代謝の受け皿となりうる。
よって、多く存在する中小企業全般に支援を行うよりも、上記のようなポテンシャルを有する中堅企業を重点的にサポートしようと舵を切ったようにも見える。
4 株式取得価額の最大100%を10年間、損失準備金として積立可能とする。
5 「地域未来投資促進法」は、地域の特性を生かして、高い付加価値を創出し、地域の事業者に対する相当の経済的効果を及ぼす「地域経済牽引事業」を促進することを目的する法律。市町村・都道府県が作成した「基本計画」に基づき事業者が作成する「地域経済牽引事業計画」を、都道府県知事が承認する。また、地域経済牽引事業の支援を行う「地域経済牽引支援機関」による「連携支援計画」を国が承認する。税制面での支援、金融面での支援、規制の特例措置、予算による支援措置等のメニューがある。
6 特定中堅企業者の判定は主務大臣が行う。税務上の恩典としては、現行の税額控除は最大5%のところ、最大6%に引き上げる。
4――期待されることと留意点
特に、中堅企業を卒業すると優遇措置から外れてしまうため、成長を避けるのではないか、という懸念は、個人における「年収の壁」というディスインセンティブにも似ているように思われる。もっとも、これは中堅企業に限ったことでなく、かねて中小企業でも同様の指摘は存在する。
7 第17回経済産業政策新機軸部会(2023年11月7日開催)。
5――おわりに
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年02月29日「研究員の眼」)

03-3512-1864
- 【職歴】
1996年 日本生命保険相互会社入社
主に資産運用部門にて融資関連部署を歴任
(海外プロジェクトファイナンス、国内企業向け貸付等)
2022年 株式会社ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・公益社団法人日本証券アナリスト協会
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