コラム
2024年02月29日

中堅企業とは何なのか?~新たに始まる改正産業競争力強化法の支援~

総合政策研究部 主任研究員 小原 一隆

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1――はじめに

中堅企業が法的に定義されることになった。今国会(第213回国会)提出の産業競争力強化法改正案において、常時使用する従業員の数が2,000人以下の会社及び個人(中小企業者を除く)を、中堅企業者として定める1。意外なことに、これまでは中堅企業に関して、法的な定義は無かったのである。何気なく中堅・中小企業というように大きく括って表現されてきたことが多いだろう。

これによりどのような影響があるか。また、これまではどうだったのだろうか。
 
1 議案名「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」衆議院にて2024年2月16日議案受理。

2――これまではどう捉えられてきたか

中堅企業と聞くと、これまでは、大企業ではないものの、一般的にイメージする中小企業より比較的大きく堅実な経営をしている、と連想する向きが多かったのではないだろうか。

従前は、中堅企業に関する法律上の規定は無かったが、政府の資料で記載される場合は、ケースバイケースでの定義となっていたこともあった。例えば中小企業白書(2023年版)においては、一部図表の説明で、「(注)ここでいう大企業とは資本金10億円以上、中堅企業とは資本金1億円以上10億円未満、中小企業とは資本金1千万円以上1億円未満の企業を指す。」と説明されている。

中堅企業の研究者によると、清水(2004)では、種々の先行研究を紹介し、その定義を従業員301人以上の未上場企業と証券取引所二部上場、および独立企業としている2。また、ある経済学辞典においては、中堅企業の基本的特徴として、以下5点が挙げられている3

(1) 大企業の子会社ではなく、資本的にも経営的にも独立した会社であり、たんに中小規模をこえたというだけの企業ではない。

(2) 証券市場を通じて社会的な資本調達が可能な規模に達している。

(3) 個人・同族会社的な性格を強くもつという点で大企業と区別されるが、他面でその性格を除去するため、所有と経営の分離、専門能力をもつ人的資源の蓄積、近代的経営管理組織の整備などに努力している点で、中小企業一般とは質的に異なる。

(4) 独自の技術や製品の選択・開発にもとづき、高い生産集中度と参入障壁を実現しており、総資本利益率が高い。

(5) 経営者が家業の枠にとらわれずに企業中心主義に徹し、産業の指導者としての性格をもっている。

40年以上前の記述であるが、我々が何となく連想する中堅企業のイメージを表しているように感じられる。

現状、企業を規模等で区分する法律は存在する。例えば中小企業基本法では以下のように規定するが、中堅企業についての定めは無い(図表1)。
【図表1】中小企業者(小規模企業者を含む)の定義
法律ではないが、中堅企業について明確に規定しているのは、政府や日銀の調査等で、それぞれ下記のように定義されている(図表2)。
【図表2】財務省・日銀の調査における企業の分類
資本金が1億円以上10億円未満で共通していることが特徴である。また、これは先述の中小企業白書における説明とも整合している。このように、1億円から10億円程度の資本金の企業を中堅企業と呼ぶのが今日的な潮流だったのだろうか。
 
2 清水馨(2004)「中堅企業の成長要因:中堅企業研究のサーベイから」『千葉大学 経済研究』第19巻第1号、p. 99
3 滝沢菊太郎(1980)「中堅企業」熊谷尚夫他(編)、『経済学大辞典(第2版)II』、p. 203
(中村秀一郎『中堅企業論』東洋経済新報社、1964,増補第3版、1976 を参照)

3――目的は何か

産業競争力強化法の改正においては、中堅企業の定義として従業員2,000人以下で中小企業に該当しない企業とする。この背景として、中堅企業を、中小企業を卒業し、グローバル大企業へと至る過程の成長段階にあるとし、成長とともに経営の高度化や商圏の拡大・事業の多角化といった発展がみられ、従業員数が2,000人を超えると十分に労働生産性が高まる傾向があるから、としている。また、既存の中小企業等経営強化法及び同施行令において、経営力向上計画の認定対象として、特定事業者等(従業員数2,000人以下)を定めていることも背景にある。

ようやく、法令において、中堅企業の定義が定められたわけだ。先行研究等で抽出された特徴では定性的な観点が含まれどうしても解釈の余地があった。また、資本金要件で見ると、租税回避のために減資をする大企業の例があったことから、果たして適切なのかといった観点もあったかもしれない。従業員数で切り分けると解釈の余地などもなく、非常に簡素である。むしろ大企業の中に新たなカテゴリーを作ったともいえよう。
 
産業競争力強化法の改正の背景は、30年ぶりの賃上げ・国内投資という潮目の変化に直面し、日本経済を成長軌道に乗せていくために戦略的国内投資拡大と、それにつながるイノベーションや新陳代謝の促進に向けた経済の構造改革を目的とし、税制措置と、中堅企業・スタートアップへの集中支援措置を行うものである。

なかでも賃金水準が高く国内投資に積極的な中堅企業者を特定中堅企業者とし、特定中堅企業者または中小企業者が複数回のM&Aを行う場合の税制優遇措置4、日本政策金融公庫による大規模・長期の金融支援、知的財産管理に関する助成・助言などの措置を行うとともに、特定中堅企業者が地域未来投資促進法の計画承認を受けた場合、設備投資減税を拡充することとしている5,6
 
経済産業省によると、中堅企業は、国内投資・国内売上を拡大し、国内経済の成長に最も大きく貢献することが期待されている。また、地方に多く立地し、大企業を上回る従業者数・給与総額の伸び率を示している。よって、地域の若年層の所得増加を通じた少子化対策にも資することや、成長企業への経営資源の集約化や労働移動を通じた新陳代謝の受け皿となりうる。

よって、多く存在する中小企業全般に支援を行うよりも、上記のようなポテンシャルを有する中堅企業を重点的にサポートしようと舵を切ったようにも見える。
 
4 株式取得価額の最大100%を10年間、損失準備金として積立可能とする。
5 「地域未来投資促進法」は、地域の特性を生かして、高い付加価値を創出し、地域の事業者に対する相当の経済的効果を及ぼす「地域経済牽引事業」を促進することを目的する法律。市町村・都道府県が作成した「基本計画」に基づき事業者が作成する「地域経済牽引事業計画」を、都道府県知事が承認する。また、地域経済牽引事業の支援を行う「地域経済牽引支援機関」による「連携支援計画」を国が承認する。税制面での支援、金融面での支援、規制の特例措置、予算による支援措置等のメニューがある。
6 特定中堅企業者の判定は主務大臣が行う。税務上の恩典としては、現行の税額控除は最大5%のところ、最大6%に引き上げる。

4――期待されることと留意点

経済産業省の産業構造審議会経済産業政策新機軸部会における中堅企業に関する議論において、委員からの指摘が何点かある7。曰く、「これまでの要件では大企業扱いされて支援のなかった領域に中堅企業というカテゴリーを置くことは良い」、「中小企業全体に薄く広く支援をしていくというよりも、大きな成長の在り得るような中堅企業に対して重点的に支援していくという今回の方向性は適切」、「ただし、今回あらたなカテゴリーを作り、優遇措置を行うことで、中堅企業が中堅企業のまま留まってしまい、規模を大きくしないという弊害にはならないでほしい」、「中堅企業によるM&A等に対して優遇税制やインセンティブを与えることも大事だが、人材やノウハウそのものを注入できるような政策支援が必要ではないか」等、至極もっともな指摘である。

特に、中堅企業を卒業すると優遇措置から外れてしまうため、成長を避けるのではないか、という懸念は、個人における「年収の壁」というディスインセンティブにも似ているように思われる。もっとも、これは中堅企業に限ったことでなく、かねて中小企業でも同様の指摘は存在する。
 
7 第17回経済産業政策新機軸部会(2023年11月7日開催)。

5――おわりに

我が国には多くの中堅企業があり、その数9,000という(図表3)。各地域の中堅企業が今後成長を続け、大企業化していくことを期待したい。当然に、中堅企業だけではなく、多くの中小企業も成長を遂げることが望ましいのは言うまでもない。

地域に魅力的な職場があることは、産業政策を超えて、日本の社会の在り方そのものにも影響を与える、非常に重大な意味を持つものである。政策の狙い通りに運ぶことを期待したい。
【図表3】我が国における規模別企業構成
 
 

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総合政策研究部   主任研究員

小原 一隆 (こばら かずたか)

研究・専門分野
経済政策・人的資本

経歴
  • 【職歴】
     1996年 日本生命保険相互会社入社
          主に資産運用部門にて融資関連部署を歴任
         (海外プロジェクトファイナンス、国内企業向け貸付等)
     2022年 株式会社ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
    ・公益社団法人日本証券アナリスト協会

(2024年02月29日「研究員の眼」)

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