コラム
2023年04月27日

リファラル採用が、じわり浸透中

総合政策研究部 主任研究員 小原 一隆

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1――はじめに

昨今の人手不足を背景に、中途採用が増えつつある。日本経済新聞の調査1によれば、主要企業の2023年度の採用計画における中途採用の比率は37%と過去最高となった。多くの日本企業が人材獲得競争を行う中、新たな求人手段として、リファラル採用が注目を集めている。優秀な人材を惹きつけつつ、採用コストを削減する等の効果が期待されている。本稿では、リファラル採用が日本企業に与える影響と、その利点、留意点等について概観する。
 
1 「中途採用比率、最高37% 今年度、7年で2倍に」 日本経済新聞電子版. 2023-04-20.
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230420&ng=DGKKZO70335740Q3A420C2MM8000(2023-04-20閲覧).

2――リファラル採用とは何か

(図表1)「MyRefer」の導入状況 リファラル採用は、“referral”(紹介、推薦)による採用を指し、自社の従業員に採用候補者を紹介してもらう採用方法のことである。欧米においては以前より盛んに行われているが、一度辞めて出ていった人を再度採用するアルムナイ採用同様、昨今の人手不足も背景に、近年国内の企業においても注目されている。リファラル採用支援プラットフォームを提供するTalentX社の「MyRefer」の導入状況を見ると、コロナ禍前から右肩上がりに伸びていることがわかる(図表1)。
企業にとっての利点は大きく下記の通りである。
 
  • 費用対効果が高い:他の採用手法よりも低コストで運用できる。企業は内部の紹介者を通じて候補者の情報にアクセスできるため、広告宣伝費、転職エージェントへのフィー2等が抑えられ、採用プロセスが合理化される。紹介者に報酬を支払っても大幅なコスト削減が可能である。
     
  • より優れた候補者:より能力の高い候補者を確保しやすい。自社の従業員から紹介された候補者は、社風に合っている可能性が高く、必要なスキルや経験を持っている可能性が高い。また、自らのレピュテーションを保全する観点から、紹介者も優れた人のみ紹介すると考えられる。
     
  • 採用プロセスの迅速化:既に紹介者による一次スクリーニングが済んでいることから、候補者絞り込み、評価、面接の時間を圧縮できる。LinkedInによれば、米国で通常の採用活動では平均55日間かかるところ、リファラル採用だと29日になったというデータもある3
     
  • 定着率の向上:採用のミスマッチを回避できる可能性が大きくなることから、採用された候補者の早期の離職が発生しにくい。
 
上記のように、リファラル採用は、能力が高く、社風にフィットした候補者を採用し、採用コストを削減し、定着率を向上させる点で優れた方法であると言える。更には、すぐに採用に至らずとも、営業の「見込み客リスト」のように、採用候補者としてストックしておき、将来再度アプローチすることもできる。

なお、リファラル採用は、昔から存在する「縁故採用」「コネ採用」とは異なる。縁故採用では、社内外の重要な人物の関係者をその能力の有無にかかわらず正規の選考プロセスを経ずに採用する。重要取引先や有力者の子女を採用することで、ビジネスの強化に繋げる、あるいは、既存ビジネスに悪影響が出ないようにすることを目的に行う採用である。他方、リファラル採用は、入口段階こそ友人・知人を介するものの、採用プロセスは通常通り能力本位で行われ、入社後に活躍が期待できると評価されなければ採用に至ることはない。選考におけるフェアネスが担保されていると言えよう。
 
2 企業が転職エージェントに支払う成功報酬の相場は、転職後想定年収の30%程度とされる。(厚生労働省『労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会 報告書』 資料7. 2021-07-13).
3 5 Reasons Why Employee Referrals Matter to Small to Mid-sized Businesses, LinkedIn ,https://business.linkedin.com/content/dam/me/business/en-us/talent-solutions/resources/pdfs/new_employee_referral_programs_FINAL.pdf (cited 2023-04-24).

3――リファラル採用の導入を表明している企業

日立製作所、三井化学、トヨタ自動車や富士通等といった大企業の他、多くの中堅中小企業、新興企業においてもリファラル採用を行っている。また、前述のTalentXでは、既に800社と契約し、リファラル採用を支援している。

金融機関については、本稿執筆時点で確認できたのは、みずほフィナンシャルグループ4、三菱UFJ銀行、三井住友銀行(図表2)、りそなホールディングス5、常陽銀行、大垣共立銀行、山陰合同銀行、伊予銀行、四国銀行、佐賀銀行、三井住友信託銀行、SBI新生銀行、香川銀行、高知銀行であった。

そのほとんど6が中途採用向けであり、地方銀行に関しては、複数行でUIターンを要件とする例が見受けられた。自行の採用力強化に加えて地域への貢献を図る試みと考えられる。
(図表2)三井住友銀行のリファラル採用のプロセス
これは、新卒採用時の就職活動におけるOBOG訪問と似ている。就職活動をする学生は、学校のクラブ、サークルやゼミ等のOBOGである現役従業員を訪問し、本音に近い意見やウェブサイトに表れない情報を得ることで、その企業の社風等の理解に努め、その上で実際に応募するかどうか判断するだろう。

リファラル採用の場合も同様で、ウェブサイト等で並ぶよそいきの文言、広告宣伝には表れない生々しい実態についても、紹介者・被紹介者とも、お互いに旧知の仲であることから、事実に近いことを話してくれるだろう。

三井住友銀行のウェブサイトでは、応募者(被紹介者)のメリットとして、「Webや口コミでは得られない、社風・価値観、職場風土、仕事の進め方といった情報が得られます」と説明している。応募者にとって非常に有用な情報の入手が可能となる。これは逆も同様で、選考側も、最初のコンタクトが友人・知人であることから、履歴書や通常の面談からは得られない、被紹介者の価値観、性格、エピソード等、企業のカルチャーにフィットするのか、期待されるパフォーマンスを挙げられるか等に関する手がかりを得られることだろう。双方にとって密度の高い情報が得られるのだ。

ところで、ウェブサイトで公表はしていなくとも、多岐にわたる業種、業歴、規模の企業において運用されているものと考えられる。

例えば、生命保険業の営業職員の採用等においては「とも呼び」とも言われるように、既存の営業職員がその友人や知人、家族等を紹介して採用に至ることが多く、リファラル採用そのものであると解することができる。各社ウェブサイトには明示的な記載はないが、転職サイト等を見ると、リファラル採用として扱われているケースがある。
 
4 みずほフィナンシャルグループ、みずほ銀行、みずほ信託銀行、みずほ証券、みずほリサーチ&テクノロジーズが対象。
5 りそなホールディングス、りそな銀行、埼玉りそな銀行が対象。
6 高知銀行は新卒向けにリファラル採用を活用している。

4――海外との比較

(図表3) リファラル採用に関する比較 ここでは、日米のリファラル採用の普及状況、採用コストと報酬について比較する(図表3)。ただし、いずれも調査者、調査時点等が異なることに留意が必要である。

リファラル採用に至った際の金銭報酬は、業界や企業、職種によって異なる。前述の富士通は、紹介者への報酬は10万円7とのことだが、募集する職務や職位によって差はあるかもしれない。

また、採用時の平均コストは中途採用で103万円(新卒94万円)であるが、このコストの内訳は、広告宣伝費等、外部への支払いが多くを占めることから、リファラル採用にするとその分コストが削減できるわけだ。

米国では候補者が採用に至ると、報酬の多くは金銭の支払いでなされ、その金額は1,000米ドル(約13万円)から2,499米ドル(約32万円)であった8。金銭以外の報酬として、追加の有給休暇付与、商品、ギフトカード、社内報等での表彰、といったものも挙げられる。

ただし、日本と米国では労働関連法規が異なるため、米国で行われている報酬をそのまま日本で導入することには十分な注意が必要である。
 
7 「リファラル採用」に大手も注目 即戦力人材を社員が紹介. 日本経済新聞電子版. 2023-03-20, https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69420300Q3A320C2EAC000.(2020-04-14閲覧).
8 Designing and Managing Employee Referral Programs. Society for Human Resource Management. https://www.shrm.org/resourcesandtools/tools-and-samples/toolkits/pages/tk-designingandmanagingsuccessfulemployeereferralprograms.aspx (cited 2023-04-13)

5――留意すべき点

1|法令順守
さて、リファラル採用を開始するにあたっては、法令順守面で気を付ける必要がある。職業安定法上、原則として企業は紹介者に対して報酬を与えてはならないが、例外として、賃金として支払う場合はその対象外となる。よって、あらかじめ社内規程を適切に整備しておくことが肝要である。

また、紹介したものの、不採用になった場合、紹介者と被紹介者の人間関係に悪影響が出るおそれがある。「縁故採用」「コネ採用」ではないことを十分に理解してもらい、過度な期待を被紹介者に抱かせないことが極めて重要である。

2|従業員エンゲージメント
ところで、そもそも友人・知人を自社に紹介したいと思うほど、日本企業の従業員エンゲージメントは高いのだろうか。日本企業の従業員エンゲージメントは世界有数の低さである。企業に対する思いが乏しい人が、友人・知人を紹介するとは考えにくい。となると、エンゲージしている僅かな人のみが紹介元になってしまう。だからこそ、採用時の報酬がものを言うのかもしれないが、低エンゲージメントの人はそれでもなかなか動かないだろう。この点からも、従業員エンゲージメントを引き上げることは、多くの企業で改善すべき課題であると言えよう。

3|ダイバーシティ採用
一方で、リファラル採用に頼りすぎると、多様な人材の採用が阻害されるという懸念も指摘される。従業員の友人が採用候補者になることから、従業員本人と類似した背景やキャリアを持つ人材を紹介しやすくなりがちで、人材ポートフォリオ上、多様性を欠くことになりかねない。多様性が損なわれると、イノベーションや成長に繋がりにくくなるという議論はよく目にするところだ。この点について、山口(2022)9は、マイノリティの立場を悪くし、多様性を求める組織や業界にとって望ましくないため、特定の属性(例えば男性)ばかり紹介されていないかを点検したり、少数者(例えば女性)を一定割合含めるルールとすることが有効であると指摘する。
 
9 リファラル採用の落とし穴 東京大学教授・山口慎太郎. 日本経済新聞電子版. 2022-11-07, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFE2520Z0V21C22A0000000/. (2023-04-19閲覧).
4|紹介者と候補者との関係性
友人・知人といっても、かつての職場の同僚といった強い繋がりの場合もあれば、SNS上のみで友人という、弱い繋がりの場合もある。応募数や採用後のパフォーマンス、定着率の観点で、前者の方が一見良好であると思われる。Gautier et al(2020)10による、コールセンター従業員に関する研究では、強い繋がりの方が良い採用に繋がりやすかったことから、企業は紹介者と被紹介者の関係の程度を把握して採用に臨むべきであると結論づけた。一方でスタンフォード大学他の研究11では、適度に弱い繋がりの方が、デジタルやハイテク分野での労働市場の流動性が高まり、その後の仕事の成果も良好であるという結果であった。

よって、リファラル採用において、紹介者・被紹介者間の繋がりの強さによる差は一概に言えず、業界や職務の特性によるのかもしれない。
 
10 Gautier and Munasinghe (2020). Build a Stronger Employee Referral Program, Harvard Business Review, https://hbr.org/2020/05/build-a-stronger-employee-referral-program. (cited 2023-04-13)
11 The real strength of weak ties, https://news.stanford.edu/2022/09/15/real-strength-weak-ties/. Stanford University.
Sep-15-2022. (cited 2023-04-13)

6――おわりに

(図表4)日本の転職者数の推移 以上、リファラル採用について、導入を表明している企業や、報酬、留意点等について簡単に述べた。今後も労働力人口は減少していくことから、企業の人材獲得競争はより激しくなると考えらえる。多くの企業が働き手にとっての魅力を増すよう努力をしていく中で、変化を嫌い、これまで通りの運用を続けていては、働き手にとっての魅力は相対的に減退していき、採用力も下がっていく懸念がある。高効率、低コスト、ミスマッチの回避等の点で、リファラル採用は理に適っている。

今後、新卒一括採用方式で一度に大量に新人を採用する慣習は徐々に変化していき、既卒者、そして中途採用の割合も増えていくだろう(図表4)。その際には、リファラル採用がより存在感を増すものと考えられる。

現在リファラル採用を導入している企業は、意図しようとせざると、起こりつつある労働市場の変革への対応を先んじて行っているように見える。未導入の企業において検討する際は、メリットとデメリットを十分検証することが肝要であろう。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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総合政策研究部   主任研究員

小原 一隆 (こばら かずたか)

研究・専門分野
経済政策・人的資本

経歴
  • 【職歴】
     1996年 日本生命保険相互会社入社
          主に資産運用部門にて融資関連部署を歴任
         (海外プロジェクトファイナンス、国内企業向け貸付等)
     2022年 株式会社ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
    ・公益社団法人日本証券アナリスト協会

(2023年04月27日「研究員の眼」)

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