2024年11月19日

家計消費の動向(~2024年11月)-緩やかな改善傾向、継続する物価高で消費に温度差

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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■要旨
 
  • 2024年9月の個人消費は、依然としてコロナ禍前の水準を下回るのの、緩やかな改善傾向が続いている。消費の回復に力強さが欠ける理由としては、実質賃金がマイナス圏を脱しておらず、消費者の可処分所得が増えていない点が挙げられる。さらに、歴史的な円安はやや緩和されたものの、9月時点では米国大統領選挙を控えた金融市場の不安定な動きや根強い先行き不安も影響を及ぼしている。
     
  • 総務省「家計調査」にて二人以上世帯の消費支出の内訳を見ると、コロナ禍前をおおむね下回る費目のうち「食料」や「家具・家事用品」は2023年以降で減少傾向、「被服及び履物」と「教養娯楽」は横ばい(若干増加)傾向を示す。消費行動が平常化へ向かう中でも物価高で日常的な消費は抑制される一方、旅行・レジャーなどの娯楽関連消費は比較的優先されるなど、消費者の選択性が高まっている可能性がある。
     
  • なお、娯楽関連でも温度差があり、国内旅行や遊園地、映画などは比較的優先される一方、円安で割高感のある海外旅行は抑制されているようだ。また、バス・タクシー代は高齢化による運転手不足で供給が不足しているために需要が減っている一方、シェアリングエコノミーの進展でレンタカー・カーシェアは堅調だ。
     
  • また、7~9月の「背広服」の支出額は、コロナ禍前と比べて6~7割低い水準にあり、記録的な猛暑の影響がうかがえる。なお、アパレル用品全般について、中長期的にテレワークや二次流通品の普及といった行動変容や市場構造変化の影響から支出減少が懸念される。メイクアップ用品は、マスク着用が減ったことで、2023年より2024年の方が改善傾向が強まっている。
     
  • 2024年に入り、外食の「食事代」の改善傾向は鈍化しているが、2023年に改善傾向の弱かった「飲酒代」は改善傾向が続いている。これらは国内旅行や遊園地より改善傾向が弱いが、テレワークの普及による行動変容に加えて、物価高で消費抑制対象となっている可能性がある。外食の代替手段(手軽な食事需要)として「パスタ」や「冷凍調理食品」はコロナ禍前を上回る。「生鮮肉」の減少から物価高で安価な食材を選択する傾向も見える。
     
  • 2024年9月の時点では、主に基本給から成る「きまって支給する給与」は未だマイナスのままだが、2023年以降は改善傾向が続いており、プラス転換が近づいている。今後、可処分所得が実質的に増加し、その状況が継続することで、消費者が可処分所得の増加を持続的なものと認識できるようになれば、個人消費はコロナ禍前の水準を超えて改善していくだろう。


■目次

1――はじめに
 ~個人消費はコロナ禍前より低水準だが緩やかな改善傾向、可処分所得の増加が鍵
2――二人以上世帯の消費支出の概観
 ~全体でコロナ禍前より低水準、食費等を抑制、娯楽をやや優先
3――コロナ禍の影響を受けた主な費目のその後~物価高や行動変容で改善傾向に温度差
  1|コロナ禍で減少していた費目
  2|コロナ禍で増加していた費目
4――おわりに~個人消費の改善は可処分所得の持続的増加が鍵

(2024年11月19日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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