2024年10月31日

首都圏新築マンション市場の動向(2024年9月)~マンション発売戸数は今後も低水準にとどまる見通し

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1.首都圏新築マンション市場の動向(2024年9月時点)

不動産経済研究所によると、2024年9月の首都圏新築マンションの平均価格は7,739万円(前年同月比+15.0%)となり2カ月連続で上昇した(図表1)。また発売戸数は1,830戸(同▲13.7%)と6カ月連続で減少し、2024年度上期(4月~9月)は累計で8,238戸と過去最少となった(図表1)。販売価格の上昇と販売戸数の減少が続くなか、価格帯別では高額物件の占める割合が高まっており、「7,000万円以上」の割合は45.2%(前年同月比+14.4%)、「1億円以上」の割合は15.5%(同+4.7%)となった(図表2)。
図表1 首都圏新築マンションの発売戸数と平均価格(月次、12ヶ月移動平均)/図表2 首都圏新築マンションの価格帯別の割合
また、9月の初月契約率は65.5%と好不調の目安とされる70%を2カ月連続で下回り、足もとで新築マンションの売れ行きは鈍化傾向にある。初月契約率を価格帯別(1億円未満、1億円以上)に分けてその推移をみると、今年に入り、「1億円未満」の価格帯では70%を下回る月が増えており、8月は全ての価格帯において70%を下回った(図表3-①)。

一方、「1億円以上」の価格帯では、総じて70%を上回る月が多いものの、9月は「2億円以上3億円未満」が34.5%(前月比▲57.4%)、「3億円以上」が50.0%(同▲50.0%)と月によって契約率のバラツキが大きくなっており、高額物件においても購入者の選別色が強まっているようだ(図表3-②)。
図表3 初月契約率の推移(首都圏、価格帯別)

2.金利上昇と用地取得減少の影響。販売戸数は今後も低水準となる見通し

2.金利上昇と用地取得減少の影響。販売戸数は今後も低水準となる見通し

首都圏の新築マンション市場では、今後、需要面においては住宅ローン金利上昇、供給面においては用地取得減少の影響が本格化することが予想され、発売戸数は長期にわたって低水準にとどまる可能性が高い。
<需要面:住宅ローン金利の上昇>
新築マンション市場では、「低金利を背景にパワーカップルが億ションを購入」といった記事を目にする機会が多い。実際、世帯年収1が1,000万円の場合、低利の変動金利を活用して住宅ローンを1億円借りることが可能であり2、億ションも十分に手の届く価格帯だと言える。しかし、今後は日銀による金融政策正常化に伴い、住宅ローン金利の上昇が予想される3。仮に住宅ローン金利が1.0%上昇した場合、上記の例では借入可能額が2割程度減少(1億円→8,400万円)する計算となり、購入価格の水準を見直す必要が生じる。

また、前回の利上げ局面(2006年~2007年)を振り返ると、新築マンションの販売戸数は減少傾向で推移している。2006年は7.4万戸(前年比▲11.5%)、2007年は6.1万戸(同▲18.1%)、2008年は4.3万戸(同▲28.3%)となり、販売戸数の減少トレンドはその後の世界金融危機を経て2009年まで継続した(図表4)。さらに、現在の販売価格が2006年当時と比較して約2倍の水準に上昇していることを踏まえると、金利上昇の影響がマンション需要をより強く押し下げる可能性があろう。
図表4 首都圏の新築マンション発売戸数(2005年1月~2009年3月)
 
1 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、東京都在住者の平均年収は30代男性が574万円、女性が463万円、40代男性が699万円、女性が515万円である。
2 変動金利0.35%、35年、返済負担率上限30%、共働き夫婦がペアローンの利用を想定(将来の金利変動は見込まず)。
3 弊社の「中期経済見通し(2024~2034年度)」(2024年10月11日、Weeklyエコノミスト・レター)によると、政策金利は2024年度0.5%、25年度0.75%、26年度1.0%、27年度1.25%に上昇する見通し(メインシナリオ)。
<供給面:デベロッパーによるマンション用地取得は例年の半分以下に減少>
一方、供給面では、デベロッパーによるマンション用地取得が大きく減少している。MSCI Real Capital Analyticsのデータによると、首都圏におけるマンション用地の取得件数4は2022年が163件、2023年が120件であったのに対して、2024年(1-9月)は現時点で35件にとどまる5。エリア別では郊外部での取得が減少し、東京都心部への集積傾向がみてとれる(図表5)。
図表5 デベロッパーによるマンション用地取得事例 (首都圏、2022年~2024年9月時点)
こうした用地取得減少の要因として、建築コストの上昇が挙げられる。国土交通省によると、2024年7月の建築工事費デフレーターは前年比+7.3%上昇し、2021年同月対比では+18.4%上昇となった(図表6)。鉄スクラップ価格が高水準で推移し鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造のコストが高止まりし、半導体工場など全国で大型施設の建設が相次ぐなか、人手不足に伴い人件費が大きく上昇している。

建築コストは都心部でも郊外部でも大きくは変わらない。全体に占める建築コストの割合が低く、価格転嫁のしやすい都心立地の高額物件でなければ、マンション開発の採算が合わない状況になりつつある。また、用地を取得済みであっても当初計画を上回る建築コストの上昇を受けて、建築計画を先送りしたり凍結したりする事例が増えてくると考えられる6

加えて、都心部ではマンション用地の取得はホテル用地と競合するため、好調なインバウンド需要を背景にマンションデベロッパーが買い負けるケースも多い。こうした事業環境を踏まえると、新築マンションの販売戸数は今後も低水準にとどまることが予想される。
図表6 建築工事費デフレーター
 
4 1,000万ドル以上(約15億円)の土地取引が対象。
5 過去3年(2021年~2023年)における第4四半期(10月~12月)のマンション用地取得件数の割合は約20%であり、このペースが続く場合、2024年通年では50件を下回る見通し。
6  渡邊布味子『建築費高騰と不動産開発プロジェクト(前編)~不動産開発プロジェクトの収支の考え方と資金フロー』(ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2022年9月30日)
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。

(2024年10月31日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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