2024年10月18日

ECB政策理事会-弱いデータが連続利下げを後押し

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:連続利下げを決定

10月18日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
政策金利の引き下げを決定(預金ファシリティ金利で0.25%ポイントの引き下げ)

【記者会見での発言(趣旨)】
0.25%ポイントの利下げは全会一致で決定した
インフレに関する最新の情報はディスインフレ傾向が順調に進んでいることを示している
インフレ見通しは、経済活動の最近の下方サプライズの影響を受けている
インフレ見通しに対するリスクはおそらく上振れよりも下振れが大きい

2.金融政策の評価:経済減速でインフレも下振れリスクを警戒

ECBは今回の会合で、市場予想通りとなる預金ファシリティ金利の0.25%ポイントの引き下げを決定した。前回9月の会合時点では今回10月の利下げを予想する向きは限定的であったが、前回会合以降に公表された弱い経済指標や、インフレ率の実績データの下振れなどを受けて連続利下げに踏み切っている。

声明文や記者会見での冒頭説明においては、成長率に対するリスクが下方に傾いているという従来の判断を維持しつつ、景況感や信頼感が低く、内需回復が遅れるリスクに言及している。インフレについても、内需の弱さがインフレの下振れリスクとなる可能性に触れている。なお、冒頭説明文においては、従来からインフレリスクについて上方や下方のどちらに傾いているかを明示していないが、今会合では記者会見で、ラガルド総裁がインフレリスクについて、やや下振れリスクが大きいと考えていることを明らかにしている。

今後の政策金利の決定においては、金利経路は事前に確約しないこと、データに依存して会合毎に決定を行うこと、特定のデータではなく様々なデータを勘案するといった、従来通りの姿勢を繰り返しており、次回12月会合の利下げについても言質を与えなかったものの、経済やインフレ率の下振れリスクへの警戒や、記者会見で利下げ決定が全会一致だったと明らかにされたこともあり、総じてハト派的な印象となった。

データ次第の姿勢に変化がないことから、引き続きインフレ率や賃金・利益・生産性といったデータが注目されるが、それ以上に、景気下振れによるディスインフレの加速への警戒感が増していることから、特に景気停滞感が強いドイツを中心に、景気関連指標への注目度が高まるだろう。このまま景気回復の足取りが遅い状況が続けば、利下げペース加速の思惑も強まると見られる。

3.声明の概要(金融政策の方針)

今回の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
 
  • 理事会は、更新されたインフレ見通し、基調的なインフレ動向、金融政策の伝達の強さの評価に基づいて、本日、特に理事会が金融政策姿勢の操作に用いる預金ファシリティ金利など3つの主要政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した
    • インフレに関する最新の情報はディスインフレ傾向が順調に進んでいることを示している
    • インフレ見通しは、また、経済活動の最近の下方サプライズの影響を受けている
    • その間、金融調達環境は引き続き制限的であった
 
  • インフレ率は、今後数か月で上昇し、その後、来年にかけて目標へ低下すると見られる
    • 域内インフレは依然として高く、賃金上昇率も高止まりしている
    • 同時に、人件費圧力は引き続き緩やかに緩和しており、一部は利益がインフレへの影響を緩衝させている
 
  • 理事会は、確実にインフレ率を速やかに中期的に2%という目標に戻すと決意している
    • この目的のために、政策金利を必要とされる期間にわたり十分に制限的に維持する
    • 理事会は適切な制限水準と期間を決定するために引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチを行う
    • 特に金利の決定は経済・金融データに照らしたインフレ見通し、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さへの評価に基づいて行う
    • 理事会は、特定の金利経路を事前に確約しない
 
(政策金利、フォワードガイダンス)
  • 理事会は3つの主要政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した(金利の引き下げを決定)
    • 預金ファシリティ金利:3.25%
    • 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:3.40%
    • 限界貸出ファシリティ金利:3.65%
    • 24年10月23日から実施
 
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
  • APPの元本償還分の再投資(変更なし)
    • APP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
 
  • PEPP元本償還分の再投資実施(変更なし)
    • ユーロシステムはもはやPEPPの元本償還の全額を再投資せず、月額平均75億ユーロ削減する
    • 理事会はPEPPの再投資を24年末で終了する予定である
 
  • PEPP償還再投資の柔軟性について(変更なし)
    • 理事会は引き続きPEPPの償還再投資について、コロナ禍に関する金融政策の伝達機能へのリスクに対抗する観点から、柔軟性を持って実施する
 
(資金供給オペ)
  • 流動性供給策の監視(変更なし)
    • 銀行が貸出条件付長期資金供給オペ下での借入額の返済を行うなか、理事会は条件付貸出オペと現在実施されているその返済が金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する
 
(その他)
  • 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
    • インフレが2%の中期目標に戻り、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
    • 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう

4.記者会見の概要

政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
 
(冒頭説明)
  • (バスレスロベニア中銀総裁とスタッフへの感謝の言葉)
  • (声明文冒頭に記載の政策姿勢への言及)
 
  • 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい

(経済活動)
  • 最新の情報は経済活動が予想よりもいくぶん弱いことを示唆している
    • 製造業生産は、夏の間、とくに変動が大きく、サーベイ調査指標は製造業が引き続く縮小していることを示していた
    • サービスについては、サーベイ調査は、夏の旅行シーズンの強さに支えられて8月に上向いたことを示したが、最新のデータではより成長は鈍っている
    • 企業は緩やかにしか投資を拡大しておらず、住宅投資は引き続き減少している
    • 輸出は、特に財で弱い
 
  • 4-6月期の所得は上昇したが、家計の消費は予想に反して減少した
    • 貯蓄率は4-6月期に15.7%となり、コロナ禍前の平均である12.9%を大きく上回る
    • 同時に最近の調査は家計支出の緩やかな改善も示している
 
  • 労働市場は引き続き強靭である
    • 失業率は8月に歴史的な低さである6.4%で横ばい推移している
    • しかしながら、サーベイ調査は雇用増加率の減速とさらなる労働需要の緩和を示している
 
  • 我々は実質所得が上昇し、家計消費も拡大し、時間の経過とともに経済が強まると見ている
    • 制限的な金融政策の効果が次第に解消されることも、消費や投資の支えになるだろう
    • 輸出も、世界的な需要増に伴い、回復に寄与するだろう
 
  • 財政政策、構造政策は我々の経済をより生産的、競争的、強靭化させるために実施されるべきである
    • これは中期的な潜在成長力の向上とインフレ圧力の削減に寄与するだろう
    • そのために、マリオ・ドラギ氏の欧州の競争力強化のための提案と、エンリコ・レッタ氏の単一市場強化の提案を、具体的かつ野心的な構造政策を伴う形で迅速に追求することが肝要である
    • EUの修正された経済統治枠組み(economic governance framework)が完全に、透明性を持って、遅延なく実行されることは、政府の財政赤字と債務比率を持続的な基準に引き下げる助けになるだろう
    • 政府は財政・構造政策の中期計画(medium-term plans for fiscal and structural policies)において、この方向に向けた力強い一歩を踏み出すべきである
 
(インフレ)
  • 9月のインフレ率は前年比で1.7%に低下し、21年4月以来となる低水準となった
    • エネルギー価格は、前年比▲6.1%と急激に落ち込んだ
    • 食料品価格はやや上昇し、2.4%となった
    • 財インフレは引き続き停滞し0.4%となる一方、サービスインフレは3.9%にやや低下した
 
  • 基調的なインフレ率のほとんどの指標は低下したか、変化がなかった
    • 域内インフレは依然として高止まりしており、ユーロ圏の人件費圧力は引き続き強い
    • 妥結賃金上昇率は、一時金払いによる影響と賃金調整が不連続に実施されるという特性から、今年の残りにかけて、引き続き高く、また変動が大きくなると見られる
 
  • インフレ率は、以前に急激に減少したエネルギー価格が前年比から外れることで、今後数か月で上昇すると見られる
    • インフレ率は、その後来年にかけて目標へ低下するだろう
    • ディスインフレ過程は、人件費圧力の緩和と過去の制限的な金融政策が次第に消費者物価に波及することに支えられるだろう
    • 多くの長期的なインフレ期待は2%付近で推移している

(2024年10月18日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

     ・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
      アドバイザー(2024年4月~)

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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