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 - 英国金融政策(9月MPC公表)-今回は政策金利を据え置き
 
2024年09月20日
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1.結果の概要:政策金利を据え置き
                                            英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、9月19日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
 
            【金融政策決定内容】
・政策金利(バンクレート)を5.0%に据え置く(8対1で、1名は0.25%の利下げを主張)
・金融政策目的で保有する英国債を今後12か月で1000億ポンド削減する(従来と同じペース、全会一致)
【議事要旨等(趣旨)】
・8月報告書で予想したものと比較して英国経済指標の新しい情報は限定的だった
・大きな進展がなければ、政策引き締めを段階的に解消するアプローチが引き続き適切である
2.金融政策の評価:新しい情報に乏しく、既存姿勢を再確認
                                            イングランド銀行は今回のMPCで、市場予想の通り1、政策金利の据え置きを決定した。前回8月会合は5対4の僅差で利下げが決定されたが、今回は8対1で据え置きが優勢だった。
声明文や議事要旨では、8月に作成した見通しと比較して新しい情報に乏しい状況下では、金融引き締めを段階的に解消していくアプローチが適切であることが明記された。
今回の会合は既存の政策姿勢を再確認する結果であったと言える。声明文では先行きに関して3つのシナリオが明記されたが、どのシナリオに近いか評価するにあたり、引き続きインフレに関連するデータ(CPI、賃金上昇率、新政権発足後の財政政策など)が注目されるだろう。今後のデータが引き続き中銀のメインシナリオ通りにディスインフレ傾向を辿るのであれば、8月見通しの前提となっている政策金利パス(市場で織り込まれている政策金利経路)が利下げペースの目安になる(年内は次回11月会合で0.25%ポイントの追加利下げ)だろう2。 
1 例えば、ブルームバーグの予想中央値は据え置きだった
2 8月見通しにおける政策金利の前提は24年10-12月期で4.87%、25年10-12月期で4.09%、26年10-12月期で3.67%。ただし、見通し後半部分のインフレ率が2%を割れているため、中期的にはこの政策金利前提がやや高いことが示唆されている。なお、中銀が行う8月の市場参加者調査(MaPS)では年内合計で0.50%(あと1回分)の利下げが実施され、その後も四半期に1回のペースでの利下げが想定されている。
                                    
            声明文や議事要旨では、8月に作成した見通しと比較して新しい情報に乏しい状況下では、金融引き締めを段階的に解消していくアプローチが適切であることが明記された。
今回の会合は既存の政策姿勢を再確認する結果であったと言える。声明文では先行きに関して3つのシナリオが明記されたが、どのシナリオに近いか評価するにあたり、引き続きインフレに関連するデータ(CPI、賃金上昇率、新政権発足後の財政政策など)が注目されるだろう。今後のデータが引き続き中銀のメインシナリオ通りにディスインフレ傾向を辿るのであれば、8月見通しの前提となっている政策金利パス(市場で織り込まれている政策金利経路)が利下げペースの目安になる(年内は次回11月会合で0.25%ポイントの追加利下げ)だろう2。
1 例えば、ブルームバーグの予想中央値は据え置きだった
2 8月見通しにおける政策金利の前提は24年10-12月期で4.87%、25年10-12月期で4.09%、26年10-12月期で3.67%。ただし、見通し後半部分のインフレ率が2%を割れているため、中期的にはこの政策金利前提がやや高いことが示唆されている。なお、中銀が行う8月の市場参加者調査(MaPS)では年内合計で0.50%(あと1回分)の利下げが実施され、その後も四半期に1回のペースでの利下げが想定されている。
3.金融政策の方針
                                            今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
 
 
3 今回反対票を投じたのはディングラ委員。前回は0.25%ポイントの利下げが決定されるなか、ハスケル委員、グリーン委員、マン委員、ピル委員の4名が据え置きを主張していた。
                                    
            - MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、持続的な経済成長と雇用を支援する
	
- MPCは中期的かつフォワードルッキングなアプローチを採用し、持続的なインフレ目標達成に必要な金融政策姿勢を決定する
 
 
- 9月18日に終了した会合で、委員会は多数決により政策金利(バンクレート)を5.0%に据え置く(8対1で決定3)、1名は政策金利を0.25%ポイント引き下げ4.75%にすることを希望した
	
- 委員会は全会一致で、金融政策目的で購入し保有している英国債残高を中銀準備預金により今後12か月で1000億ポンド削減し、5580億ポンドとすることを決定した
 
 
- 金融政策はCPIインフレ率を2%の目標に速やかかつ持続的に戻すために、継続的なインフレ圧力を削減する必要性に基づいて決定している
	
- 政策はインフレ期待が十分に固定されるよう実施されてきた
 - 8月の金融政策報告書(MPR)で公表されたように、委員会での審議は様々な可能性やリスクといった各種のケースを検討することで支えられている
 
 
- 1つ目のケースでは、インフレ率を上昇させた世界的なショックの解消と、その結果としてヘッドラインインフレ率が賃金や価格設定の動きを弱めるよう波及しつづける
	
- 継続的なインフレ圧力は解消し、他のケースよりも金融政策姿勢の制限度合いは小さくなるだろう
 
 
- 2つ目のケースでは、賃金や価格設定の動きが完全に正常化するため、GDPが潜在量を下回り、労働市場がさらに緩和する経済が弛む(slack)の期間が必要となる
	
- 最初のケースよりも制限的な金融政策から生じる弛みによって国内インフレ圧力が解消されると期待される
 
 
- 3つ目のケースでは、ここ数年で経験した主要な供給ショックの後に、経済が賃金や価格設定といった構造的な変化の影響を受けている可能性がある
	
- 金融政策の制限度合いが委員会の最新評価よりも小さくなっているかもしれず、金融政策はより長期で、より引き締めを維持しなければならない
 
 
- MPCの前回の会合以降、世界的な成長が着実に続いているが、いくつかのデータは短期的な見通しに関するより大きな不確実性を示唆している
	
- 原油価格は需要の弱さを主因として下落した
 - 先進経済において、市場予想の政策金利経路は低下した
 
 
- 英国経済の指標に関する情報は、8月の金融政策報告書で委員会が予想したものと比較して限定的だった
	
- ヘッドラインGDP成長率は今年下半期に基調的にはおよそ前期比0.3%程度のペースに戻ると期待される
 - CPIインフレ率は8月の前年比で2.2%となり、前年比でのエネルギー価格の下落が終わるため、今年の終わりには2.5%まで上昇すると予想される
 - サービスインフレは8月に5.6%で高止まりしている
 - 民間部門の週平均定期賃金上昇率は、5-7月期は4.9%まで低下した
 
 
- この会合で委員会は政策金利を5%に維持することを決定した
 
- 大きな進展がなければ、政策引き締めを段階的に解消するアプローチが引き続き適切である
	
- 金融政策は、中期的に、インフレ率の持続的な2%目標への回帰に対するリスクがさらに解消するまで、引き続き十分な期間(sufficiently long)、制限的にする必要がある
 - 委員会は引き続きインフレの持続性に対するリスクを注視し続け、各会合で金融政策の制限度合いを適切に決定する
 
 
3 今回反対票を投じたのはディングラ委員。前回は0.25%ポイントの利下げが決定されるなか、ハスケル委員、グリーン委員、マン委員、ピル委員の4名が据え置きを主張していた。
4.議事要旨の概要
                                            議事要旨の概要(上記金融政策の方針で触れられていない部分)において注目した内容(趣旨)は以下の通り。
 
(政策金利決定)
(金融政策目的での英国債保有残高削減ペースにかかる年次での決定)
            (政策金利決定)
- 8人のメンバーが今回の会合で政策金利を5%に維持することを希望した
	
- 賃金と価格設定は正常化し続けており、英国の経済活動は概ね見通しに沿っているが、短期的な世界経済見通しをとりまく不確実性のいくつかは増大している
 - 過去の世界的なショックの解消、インフレ期待の正常化、現在の制限的な政策姿勢が国内の基調的なインフレ圧力をどの程度軽減させているか、これらの圧力が構造的な要因や需要の勢いが変化した結果としてより根深いのか、については、メンバー間で様々な見方があった
 - こうした見解の違いにかかわらず、現在の政策金利姿勢は定期説だと判断された
 - 大多数のメンバーにとって、大きな進展がなければ、政策引き締めを段階的に解消するアプローチが正当化された
 
 
- 1人のメンバーは政策金利の0.25%ポイントの引き下げを希望した
	
- 円滑で段階的な政策姿勢の移行を可能し、伝達の遅れを考慮すると、政策金利は制限度合いをより低下させる必要がある
 - CPIインフレ率はしばらくの間、堅調な下方基調をたどっている
 - 労働市場のさらなる軟化、インフレ期待の低下の継続、価格転嫁に関するフォワードルッキングな指標、需要が冴えないという見通しを勘案すれば、データは引き続きCPIインフレ率が2%目標近くにとどまることと整合的である
 
 
(金融政策目的での英国債保有残高削減ペースにかかる年次での決定)
- 24年8月の囲み記事で公表されたように、委員会は量的引き締めが円滑に進展していると判断している
	
- 金融市場の広範な指標では、英国債売却が市場機能に負の影響を与えたという証拠はなかった
 - 特に英国債市場の流動性はさらに改善した
 - 正確に計測することは困難であるが、APF(国債購入枠組み)の削減はイールドカーブにいくらかタイト化の影響を及ぼすとみられるものの、穏健であると判断された
 - MPCの従来の想定通りであり、他の実証研究や中銀の知見とも概ね一致していた
 - 委員会は過程の進捗に応じて、引き続きをその動向を注視し学習を続ける
 
 
- 量的引き締めの経済への影響を厳密に計測することは引き続き困難ではあるが、MPC見通しは公表され、予見されているAPF削減を資産価格に織り込んでいる
	
- したがってMPCは政策金利を用いて、望ましい金融政策姿勢を設定する際に、この効果も織り込まれている
 - 他の条件が同じであれば、APF削減の引き締め効果は政策金利の若干の低下を促す
 - APF削減の影響は穏健であると判断されていることから、過去の政策金利の適切な経路に重大な違いが生じた可能性は低い
 
 
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年09月20日「経済・金融フラッシュ」)
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                                        03-3512-1818
経歴
                            - 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員 
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