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中国経済の減速に歯止めはかかるか-先行き懸念を強める中国。金融緩和に続き、今後は財政の動向が焦点に

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介
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1――減速に歯止めがかからず、高まりつつある経済対策強化の機運
1 10月は、経済政策が議題とならなかった年もある。
2――地方の財政難対策や金融緩和強化のほか、不動産市場の回復に向けた意気込みも表明
まず、財政・金融政策に関して、財政では「必要な財政支出を保証し、基層(政府)の『三保』(基本民生、給与、行政運営経費の維持)施策をしっかりと実施する」ことが強調された。8月までの財政の状況をみると、不動産不況の影響が経済全体に及ぶなか、税収や地方政府の土地使用権売却収入が悪化の一途を辿っている。歳入・歳出の予算からのかい離は広がっており、近年稀にみる前年減となる見込みだ(図表2)。とくに、不動産不況のあおりを受けて土地使用権売却収入が著しく減少している地方政府で財政状況が厳しく、その支援を強化する構えとみられる。また、金融では「預金準備率の引き下げ」や「強力な利下げの実施」について言及された。これらは、9月24日に中国人民銀行の潘総裁が先行して発表しており、同27日にともに実施された(図表3)。潘総裁は追加の預金準備率引き下げの可能性についても言及しており、必要に応じて今後再度実施されるだろう。
また、7月の会議で強化の方針が示された家計や消費の支援についても言及があった。足もとで家計を取り巻く環境は厳しく、先行きに対する家計のマインドは雇用を中心に悪化している。また、若年者の就職環境は依然として厳しく、失業率は卒業後の7月から8月にかけて上昇を続けている(図表4)。こうしたなか、今回の会議では、中低所得者層の所得増や消費構造の高度化のほか、大卒者や農民工、高齢者、低所得者など社会的弱者の雇用・生活困窮に対する支援を強化する考えが示された。これと関連し、会議に先立つ9月25日、民政部は生活困窮者等に1回限りの給付金支給を発表している。
2 多くの都市で制限が撤廃された後、現在では北京や上海など一部の大都市で依然として制限が設けられているが、会議開催後、広州市では住宅購入制限が撤廃された
3 財政難に苦しむ地方政府が収入補填のために罰金収入を得る目的で、企業の取り締まりを恣意的に強化する動きが横行していることを受けた措置。
3――経済反転のカギは財政政策の規模と中身、そして経済政策の適切な執行

そうしたなか、今後の経済政策の注目点としては以下の2点が挙げられる。
1点目は、追加の財政政策の規模や中身だ。今回の会議において、中央政府財政に関しては「超長期特別国債(中略)を首尾よく発行、使用する」と言及されたのみであるが、昨年23年には10月に開催された全国人民代表大会(国会)常務委員会で1兆元規模の特別国債の増発が決定されており、今年も同様の対応がとられる可能性は高まりつつある。翌25年の予算も含め、特別国債の発行を通じた中央政府による財政の強化は、当面の景気が上向くかを占ううえでのポイントとなるだろう。
規模としては、前年から1兆元増となる2兆元の特別国債増発が計画されていると報じられている4。ただ、それでも23年のGDP比で1.6%程度の規模であり、今年度の歳入が23年から減少する可能性が高いことも踏まえると、それだけでは力不足と考えられる。早期に減速に歯止めをかけるためには、切れ目なく、十分な資金を投じる必要がある。中国国内では、より大規模な特別国債発行が必要との提言もみられ5、実際どの程度の発行規模になるのかが注目される。また、資金の使途として取り沙汰されているのは、家計・消費等の支援や地方政府債務対策、既に発表済みの大手国有銀行の資本注入などだが6、地方専項債も含め、現在のところ小出しにとどまっている不動産不況の対策に財政が投じられるかも焦点となるだろう。
例えば、現場での対応が積極性、迅速性を欠き、対策の効果が十分に発現しないパターンも想定される。今回の会議では、個別具体の政策方針に加え、各地方等で「積極性や主体性、創造性を十分に発揮する」ことの必要性が強調された。中国共産党の組織運営においては、習政権のもと実施されている厳しい反腐敗闘争により、地方や省庁など各現場の幹部が委縮した結果、業務に対する消極的な姿勢が問題となっている。24年7月に開催された三中全会でも、そうした姿勢の改善は再度強調されたものの、党の組織・人事運営ともかかわる根深い問題であり、一朝一夕に改まるとは考えづらい。この問題が政策の円滑な遂行の妨げとなる可能性は否定できない。
他方、かつて実施された4兆元の景気対策の際と同様、経済対策の強化に中央政府が本腰を入れたことに乗じて地方の過剰投資が助長されるパターンとなる可能性もゼロではない。そうなれば、経済が必要以上に過熱してその後の調整が深まるなど、経済が不安定化する恐れがある。
当面を展望すると、10月の全人代常務委員会をはじめ、12月の経済工作会議、翌年3月の全人代と、今後の経済政策に関わる重要な会議が目白押しである。そうした場で、適時適切に方策が検討され、経済対策の一連のプロセスが順調に進展するか、引き続き動向に注視が必要だ。
4 Reuters, “Exclusive: China to issue $284 billion of sovereign debt this year to help revive economy,” Reuters, September 26, 2024(https://www.reuters.com/markets/asia/china-issue-284-bln-sovereign-debt-this-year-help-revive-economy-sources-say-2024-09-26/)
5 例えば、2年間で10兆元や、10年間で50兆元といった提言が出ている(「刘世锦:建议推出10万亿经济刺激计划」(『财经网』2024年9月22日、https://news.caijingmobile.com/article/detail/530627?source_id=40)、「李迅雷:建议十年发行50万亿超长国债,主要搞民生,而非投资」(『东方财富网』2024年9月23日、https://emcreative.eastmoney.com/app_fortune/article/index.html?artCode=20240923183547407429990&postId=1463699879))。
6 Bloomberg News,” China Weighs $142 Billion Capital Injection Into Top Banks,” Bloomberg, September 26, 2024(https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-09-26/china-weighs-injecting-142-billion-of-capital-into-top-banks)
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(2024年10月07日「基礎研レター」)

03-3512-1787
- 【職歴】
・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
・2009年:同 アジア調査部中国室
(2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
・2020年:同 人事部
・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
三浦 祐介のレポート
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