2024年10月07日

中国経済の減速に歯止めはかかるか-先行き懸念を強める中国。金融緩和に続き、今後は財政の動向が焦点に

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介

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1――減速に歯止めがかからず、高まりつつある経済対策強化の機運

中国共産党は、2024年9月26日開催の中央政治局会議(以下、会議)で、足元の経済情勢と今後の経済政策を議題に議論した。習政権発足後、年間の中央政治局会議の運営において、経済政策が議題となるのは、例年4月、7月、10月、12月であり1、9月の会議で経済がテーマになるのは異例のことである。会議では「経済のファンダメンタルズ(中略)等の有利な条件は一切変わっていない」とする一方、「現在の経済情勢には新たな状況と問題が発生している」とし、「困難を直視し、自信を持ち、経済政策実施に対する責任感と緊迫感を切実に強める」必要があると強調した(図表1)。中国指導部が先行きに対する懸念を強めていることが示唆される。
中央政治局会議(24年9月)の概要
成長率目標に関しても、7月の同会議では「確固として達成する」とされたのに対して、今回は「達成に努める」とされ、「必達目標」から「努力目標」へとトーンが幾分弱まっている。実際、中国経済は、春先から8月にかけて勢いを弱める一方であり、通年で+5%の成長率を実現することは難しい情勢にある。そうした状況下、経済の減速に歯止めをかけるべく、今回の会議では「追加対策を強化する」とされ、様々な方策が発表された。また、会議に先行して実施された中国人民銀行など金融当局による記者会見においても、コロナ禍以来の大幅な利下げをはじめとする各種の金融下支え策が発表されており、景気対策強化の機運は高まりつつある。今後、低迷が続く中国経済に転換点は訪れるだろうか。以下では、会議で示された方策を概観したうえで、今後の注目点を確認する。
 
1 10月は、経済政策が議題とならなかった年もある。

2――地方の財政難対策や金融緩和強化

2――地方の財政難対策や金融緩和強化のほか、不動産市場の回復に向けた意気込みも表明

会議で示された今後の経済政策の方針に関する主なポイントは以下の通りだ。

まず、財政・金融政策に関して、財政では「必要な財政支出を保証し、基層(政府)の『三保』(基本民生、給与、行政運営経費の維持)施策をしっかりと実施する」ことが強調された。8月までの財政の状況をみると、不動産不況の影響が経済全体に及ぶなか、税収や地方政府の土地使用権売却収入が悪化の一途を辿っている。歳入・歳出の予算からのかい離は広がっており、近年稀にみる前年減となる見込みだ(図表2)。とくに、不動産不況のあおりを受けて土地使用権売却収入が著しく減少している地方政府で財政状況が厳しく、その支援を強化する構えとみられる。また、金融では「預金準備率の引き下げ」や「強力な利下げの実施」について言及された。これらは、9月24日に中国人民銀行の潘総裁が先行して発表しており、同27日にともに実施された(図表3)。潘総裁は追加の預金準備率引き下げの可能性についても言及しており、必要に応じて今後再度実施されるだろう。
歳入・歳出
次に、喫緊の課題である不動産政策に関しては、「不動産市場悪化への歯止めと回復を促す」考えが示された。これまで中国政府は、不動産市場が低迷を続けるなかでも小出しの政策発表に終始しており、結果として不動産不況が転換点を迎えたか、まだはっきりとしない状況にある。そうしたなか、今回「不動産市場の回復」についての意気込みを示したことから、従来以上に強い対策がとられることが期待される。もっとも、今回の会議で併せて示された政策の方針は、引き続き小出しにとどまる印象だ。例えば、「ホワイトリスト」に基づくデベロッパー向け資金繰り支援の強化や、住宅購入制限の調整などだ2。中国人民銀行がそれに先立ち発表した政策も、住宅ローン頭金比率の引き下げや、住宅在庫買い取り支援向けの人民銀行による再貸出政策の強化など、メニュー自体は従来から変わらず、その強度を強めたに過ぎない。

また、7月の会議で強化の方針が示された家計や消費の支援についても言及があった。足もとで家計を取り巻く環境は厳しく、先行きに対する家計のマインドは雇用を中心に悪化している。また、若年者の就職環境は依然として厳しく、失業率は卒業後の7月から8月にかけて上昇を続けている(図表4)。こうしたなか、今回の会議では、中低所得者層の所得増や消費構造の高度化のほか、大卒者や農民工、高齢者、低所得者など社会的弱者の雇用・生活困窮に対する支援を強化する考えが示された。これと関連し、会議に先立つ9月25日、民政部は生活困窮者等に1回限りの給付金支給を発表している。
(図表3)政策金利・預金準備率/(図表4)調査失業率
このほか、企業向けの政策としては、苦境にある企業支援や、民営経済促進法の発表による民営企業等の経営環境改善のほか、外資の誘致・安定といった方針が示された。苦境に対する支援の具体策として、会議では、企業の負担となっている地方政府による罰金徴収等の規範化3が挙げられた。また、それに先立ち金融監督管理総局が、それまで一部の小規模零細企業向けに実施していた銀行融資の借り換え政策の対象を拡大することも発表している。後者の金融支援は拡大の一途を辿っており、将来の焦げ付きリスクが懸念されるものの、背に腹は代えられないようだ。
 
2 多くの都市で制限が撤廃された後、現在では北京や上海など一部の大都市で依然として制限が設けられているが、会議開催後、広州市では住宅購入制限が撤廃された
3 財政難に苦しむ地方政府が収入補填のために罰金収入を得る目的で、企業の取り締まりを恣意的に強化する動きが横行していることを受けた措置。

3――経済反転のカギは財政政策の規模と中身

3――経済反転のカギは財政政策の規模と中身、そして経済政策の適切な執行

(図表5)上海総合 このように、9月下旬になり、中国は景気対策強化の姿勢を強めている。その中には資本市場の活性化に関する政策が盛り込まれていることもあり、ここのところ低調であった株式市場が急騰するなど(図表5)、先行きに対する期待は高まりつつある。しかし、現時点で発表されている政策のみで、不動産の不況や経済の減速に歯止めをかけ、ひいては上向かせることができるかは不透明だ。これは、主に不動産不況に端を発する総需要の不足が根強いためだ。2024年に入ってから、設備更新や耐久財の買い替え支援を通じた需要喚起に努め、設備投資ではその効果が表れているものの、持続性には限界がある。構造改革の一環で進めるデレバレッジとの兼ね合いが難しいものの、現下では、財政、中でもまだ余力のある中央政府の財政による対策強化の必要性が高まっている。

そうしたなか、今後の経済政策の注目点としては以下の2点が挙げられる。

1点目は、追加の財政政策の規模や中身だ。今回の会議において、中央政府財政に関しては「超長期特別国債(中略)を首尾よく発行、使用する」と言及されたのみであるが、昨年23年には10月に開催された全国人民代表大会(国会)常務委員会で1兆元規模の特別国債の増発が決定されており、今年も同様の対応がとられる可能性は高まりつつある。翌25年の予算も含め、特別国債の発行を通じた中央政府による財政の強化は、当面の景気が上向くかを占ううえでのポイントとなるだろう。

規模としては、前年から1兆元増となる2兆元の特別国債増発が計画されていると報じられている4。ただ、それでも23年のGDP比で1.6%程度の規模であり、今年度の歳入が23年から減少する可能性が高いことも踏まえると、それだけでは力不足と考えられる。早期に減速に歯止めをかけるためには、切れ目なく、十分な資金を投じる必要がある。中国国内では、より大規模な特別国債発行が必要との提言もみられ5、実際どの程度の発行規模になるのかが注目される。また、資金の使途として取り沙汰されているのは、家計・消費等の支援や地方政府債務対策、既に発表済みの大手国有銀行の資本注入などだが6、地方専項債も含め、現在のところ小出しにとどまっている不動産不況の対策に財政が投じられるかも焦点となるだろう。
2点目は、現場において適切に政策が遂行されるか否かだ。ある程度十分な財源が確保され、適切に投じられることで経済が適度に上向くというパターンが最も理想的であるが、必ずしもそうなるとは限らない。

例えば、現場での対応が積極性、迅速性を欠き、対策の効果が十分に発現しないパターンも想定される。今回の会議では、個別具体の政策方針に加え、各地方等で「積極性や主体性、創造性を十分に発揮する」ことの必要性が強調された。中国共産党の組織運営においては、習政権のもと実施されている厳しい反腐敗闘争により、地方や省庁など各現場の幹部が委縮した結果、業務に対する消極的な姿勢が問題となっている。24年7月に開催された三中全会でも、そうした姿勢の改善は再度強調されたものの、党の組織・人事運営ともかかわる根深い問題であり、一朝一夕に改まるとは考えづらい。この問題が政策の円滑な遂行の妨げとなる可能性は否定できない。

他方、かつて実施された4兆元の景気対策の際と同様、経済対策の強化に中央政府が本腰を入れたことに乗じて地方の過剰投資が助長されるパターンとなる可能性もゼロではない。そうなれば、経済が必要以上に過熱してその後の調整が深まるなど、経済が不安定化する恐れがある。

当面を展望すると、10月の全人代常務委員会をはじめ、12月の経済工作会議、翌年3月の全人代と、今後の経済政策に関わる重要な会議が目白押しである。そうした場で、適時適切に方策が検討され、経済対策の一連のプロセスが順調に進展するか、引き続き動向に注視が必要だ。
 
4 Reuters, “Exclusive: China to issue $284 billion of sovereign debt this year to help revive economy,” Reuters, September 26, 2024(https://www.reuters.com/markets/asia/china-issue-284-bln-sovereign-debt-this-year-help-revive-economy-sources-say-2024-09-26/
5 例えば、2年間で10兆元や、10年間で50兆元といった提言が出ている(「刘世锦:建议推出10万亿经济刺激计划」(『财经网』2024年9月22日、https://news.caijingmobile.com/article/detail/530627?source_id=40)、「李迅雷:建议十年发行50万亿超长国债,主要搞民生,而非投资」(『东方财富网』2024年9月23日、https://emcreative.eastmoney.com/app_fortune/article/index.html?artCode=20240923183547407429990&postId=1463699879))。
6 Bloomberg News,” China Weighs $142 Billion Capital Injection Into Top Banks,” Bloomberg, September 26, 2024(https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-09-26/china-weighs-injecting-142-billion-of-capital-into-top-banks
 
 

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(2024年10月07日「基礎研レター」)

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経済研究部   主任研究員

三浦 祐介 (みうら ゆうすけ)

研究・専門分野
中国経済

経歴
  • 【職歴】
     ・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
     ・2009年:同 アジア調査部中国室
     (2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
     ・2020年:同 人事部
     ・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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