2024年10月07日

不透明感を増す利上げの行方~日銀金融政策のポイントと見通し

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 日銀が7月に利上げを実施した後、「金融市場の混乱」と「(その一因にもなっている)米経済の大幅な減速懸念」という利上げ継続に対する逆風が顕在化した。また、9月にはFRBが利下げを開始したほか、今月初旬には石破新首相が追加利上げに慎重と受けとれる発言をするなど、日銀の利上げを巡る新たな変数が発生し、情勢は複雑化している。
     
  2. 今後の追加利上げを左右するポイントを整理すると、(1)国内経済・物価が日銀の想定に沿って推移するか?、(2)米経済がハードランディングを回避できるか?、(3)金融市場の不安定さが緩和するか?、(4)政権が利上げを容認するか?の4点が挙げられる。
     
  3. メインシナリオとしては、今後も日銀の利上げが継続されると見ている。米国経済はハードランディングを回避し、国内経済も実質賃金のプラス化を追い風に回復基調を辿るだろう。そうした中、日銀は来年1月のMPMにおいて、(1)今年秋以降の実質賃金のプラス化定着、(2)来春闘における高めの賃上げ見通し、(3)米経済の大幅な減速回避を根拠として、政策金利を0.50%程度へ引き上げると予想している。その後も、(1)参院選の通過、(2)来春闘における高めの賃上げのデータでの確認を根拠として、来年7月のMPMで0.75%程度への利上げを実施すると見ている。このレベルまでの利上げであれば、中立金利に到達したかどうかの議論にはなりづらい。
     
  4. なお、石破新首相による利上げに対する慎重な発言については、自身の総裁選勝利後に市場で円高・株安反応が生じたことを受けて、来る総選挙への影響を危惧して株価対策として発せられたものと受け止めている。もともと同氏は金融緩和に前向きではないとみられるほか、日銀が「追加利上げ後も金利水準は低く、緩和的な金融環境が保たれること」を丁寧に説明することで、政権は緩やかな利上げを容認すると予想している。

 
日米の政策金利推移
■目次

1.トピック:不透明感を増す利上げの行方
  ・7月MPM後に利上げを巡る情勢が複雑化
  ・追加利上げを左右するポイントは?
  ・メインシナリオは利上げ路線継続
  ・念頭に置いておくべきリスクシナリオ
2.日銀金融政策(9月)
  (日銀)変更なし
3.金融市場(9月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート

(2024年10月07日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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