2023年08月07日

YCC柔軟化の評価と今後想定されるシナリオ

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 日銀は7月末に長短金利操作(YCC)の運用柔軟化を決定し、従来0.5%を許容上限としていた長期金利について、0.5%超から最大1%までの上昇を許容することにした。
     
  2. 今回のYCC柔軟化は、債券市場において副作用緩和に寄与することが見込まれる。YCが歪み、流動性が枯渇するリスクが低下した。緩やかに金利の上昇を許容しておくことで、正常化局面での金利急騰を回避できる可能性も高まる。一方、為替市場における効果は限定的に留まりそうだ。YCCを柔軟化したとはいえ、日本の金利が人為的に抑制される状況に変わりはない。米利上げ打ち止めが確認されるまでは、日米金融政策の格差を材料に円安が進む場面がありそうだ。また、0.5%超1%以下での長期金利の居所については日銀が経済・物価情勢等を考慮して誘導する形となるため、不透明感が強まった面は否めない。日銀が市場との対話を誤れば、金利が不安定化するリスクもある。
     
  3. YCCについては柔軟化したばかりであるため、当面現状維持となりそうだ。長期金利の当面の水準については、日銀が物価目標までの距離感に応じて1%以下で調整していくものと考えられる。その後、来年以降を見据えた場合には複数のシナリオが考えられる。物価目標の持続的・安定的な実現を見通せる状況に至ったと日銀が判断する場合には、YCCの撤廃や金利変動許容幅の引き上げなどを通じて、さらなる長期金利上昇を許容することになるだろう。逆に、物価目標の達成を見通せる状況に至っていないと日銀が判断し続ける場合には、現状の枠組みが継続され、長期金利も1%以下で推移する可能性が高い。この場合には、物価目標の達成を見通せるまで日銀が現状の枠組みを継続するシナリオと、物価目標達成のハードルを実質的に引き下げたり、別のロジックを持ち出したりすることで日銀がYCCを終了させるシナリオという2つの道が想定される。

 
長期金利の動きと日銀の変動許容上限
■目次

1. トピック:YCC柔軟化の評価と今後想定されるシナリオ
  1)YCC柔軟化の背景
  2)YCC柔軟化で見込まれる効果
  3)YCC柔軟化で見込まれるデメリット・リスク
  4)YCCについて今後想定されるシナリオ
2. 日銀金融政策(7月)
  (日銀)YCCの柔軟化を決定
  ・今後の予想
3. 金融市場(7月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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